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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第8話

第8話 「サヨナラの月」

待っている。

僕は、待っている。

橋の上で。

おもちゃの
赤いトラックには、
いくつもの積み木が乗っていて、
僕は小さな頃、
その積み木を並べたり、
積み上げたりして遊んだ。

でも、
その赤いトラックと
僕は、サヨナラをした。

おもちゃとのサヨナラは、
ある日、
突然やってくる。

「もう、いいかな」
と突然思ってしまうのだ。

何の前触れもなしに。

それで、
僕は、
その赤いトラックを
工場に持っていった。

レイじいさんは、
古い黄色いマフラーを持ってきた。

「とうとう、サヨナラだ」

レイじいさんと
黄色いマフラーとの出会いは、
三十年前くらいまで、
さかのぼる。

もう、
ほころびて、
くたくたになってしまったので、
サヨナラの決心をしたらしい。

一年の終わりに、
みんなは、
何かとサヨナラをする。

悲しいけれど、
サヨナラの代わりに、
新しい出会いがやってくる。

僕たちは、
いらなくなったものを
工場へ持っていく。

工場では、
壊れたものや破れたものを直し、
色を塗り替えたり染めたりして、
まったく新しいものに変えてしまう。

新しいものは、
きれいに箱や袋に入れられ、
リボンをかけられ、
駅で待つ貨物列車に乗せられる。

そうして、
みんなは、
一年の最後に
枕元に置かれたプレゼントを
受け取ることになる。

それが、
新しい出会いだ。

僕は、待っている。

橋の下で、
停まっている
貨物列車には、
たくさんのプレゼントが
乗せられている。

僕の赤いトラックは
誰のもとへ行くんだろう。

そして、
僕の枕元には、
何が来るんだろう。

「さみしいけれどうれしい時だな。
一年の終わりというものは」 

レイじいさんも待っている。

新しい日々を。

レイじいさんは、
コートのポケットに手を入れ、
白い塊を取り出した。

ぽーんと空に放ると、
それは、
ちらほら、
雪になっていった。


To be continued. 

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