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ぼくはピート、そしてレイじいさん 第6話

第6話 「古代の夜」

「あかねふしぎの空の下、
輝く馬の群れ、
幾と千。
皮膚に美しき紋様ある馬には、
小人たち。
立ち上がり、
ひっくり返り、
奇妙に体をくねらせる。
中でも、
ひときわ金に輝く輪の月の馬には、
王女のように振る舞い、
妖精のように歌う
冠姫。
天と地と愛の歌は、
暗闇に
空が溶けるまで鳴り響く。
その時に見よ。
馬は、
一斉に片足を上げ、
挨拶をする。
小人たちは、
髪を逆立て宙返り。
冠姫は、
微笑み、
マイマイの踊り。
激しく
優雅に
繰り返され、
そして、
やがて見えてくる。」   


僕は、本を閉じた。

先を知りたかったけれど、
これは
終わりのない
古代の本なのだ。

本当は、
終わりはあったかもしれないけれど、
もうすでに、
バラバラになってしまった。

遠い年月のうちに。


窓の外を見ると、
きれいな青空だった。

「あかねふしぎだ・・・」

僕は、
自転車で
誰もいない道を走っていく。

遠くで声がした。

「こっちだよ。ピートくん」

レイじいさんは、
いつも僕の先回りをする。

それが
先見の明というヤツだと
レイじいさんは言うけれど。

「まあ、いいや」

僕たちは、
塔の上に腰掛ける。

あかねふしぎの空の下、
輝く馬たちが降りてくる。

逆立ちする小人たち。

僕たちより
更に高い塔の上で。

雲に隠れてしまうほどの
塔の上で。

「この世に境のある限り、
天と地は線描く。
千の姿が溶けた時、
あかねふしぎに
包まれる」

僕は見た。

冠姫は
馬の上で爪先立ち、
そして浮いた。

空を舞う、
その足が、
頭のてっぺんにグニャリとくっ付き、
そして輪っかになる。

輪の月だ。

7つの小さなボールが
小人たちの手の中から現れ、
放り投げて
星になる。

夜だ。

馬の鳴く声は、
夜の始まり。

僕は、
目を閉じた。

何も見えない世界。

「古代は、隣合わせの夜だ」

レイじいさんの声が
闇に溶けていく。



To be continued. 

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