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ナンバ歩きは、どこまで本当か?

日本人は明治に入るまで、右手と右足を同時に、左手と左足を同時に前に出して歩いていた――。

こんな話を聞いたことがあるだろうか。

いわゆる、ナンバ歩き(ナンバ式)というやつだ。

明治に入って初めて西洋式の歩き方、つまり右手と左足、左手と右足をセットにして前に出す歩行が普及したというのだ。

このことを知った当時十代の私は「へぇ~、そうだったのか!」と納得して今まで生きてきた。


ところが去年、演劇評論家・武智鉄二の「」という文章を読んで愕然とした。

そこで引用されている江戸時代の文献『浄瑠璃秘曲抄』(宝暦7年、1757)に、こう書いてあったのだ。


右の足進むときは左の手進み、左の足進むときは右の手進む。これ陰陽の道理なり。


「陰陽の道理」というのが少々難解だが、現代的に言えば、作用・反作用のような自然法則における対称性を指しているのだろう。

ともあれ江戸時代の人間が、いわゆる西洋式の歩き方を「道理なり」と言っているわけだ。

文明開化を待たずとも、鎖国中の日本で既に現代人と同じ歩き方がされていたという事実は無視できまい。



参考文献
武智鉄二「間」(『ちくま哲学の森6 詩と真実』1989、筑摩書房、所収)

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