サチュラリ

統合失調中の夢と幻想

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最近の記事

蛇は餓死した

蛇は餓死した。緑色のタイルの上をうごめいていたそれは、私の体にまとわりついて血を吸った。吸うほどに、飢えて飢えて仕方がなかった。シャワー口から水がこぼれて滴っていたタイルの上を、元気いっぱいに這っていた小さな蛇が大蛇となって舌を出した時、とうに私の身長を越えて私と対峙した。そして、腹いっぱいに吸った血を深緑色のどろどろの体液にして風呂場を満たしていったとき、満足そうに餓死した。 それで、どうしたいの?とリカは聞いた。探し出して、復讐したい。とサエが応える。 分かるけど、その

    • 自己満足

      降りると発車ベルが鳴り、私の髪を揺らして電車は、徐々に勢いを増しながら動き出す。やけにホームが狭くて、私の眼前には白色にところどころ赤い錆の入った、ガードレールのような素材の大きな壁がひしゃげて聳えている。電車にぶつかって怪我をする妄想が頭をよぎらざるを得ない狭さだけれど、私の進行方向である右側はもっと狭くなっていて、焼き鯖みたいな形だなと思った。右側は改札口ではないが、焼き鯖の尾の少し手前にくだり階段があり、外に出れるようになっている。私はその階段を降りる。回送列車が通り、

      • 海抜マイナス50メートル

        宿、小さな宿。雪山の上に立っている。近くには巨大な温泉施設があり、巨大な湯気が立ち上っては空と同化して消えていく。雪の中、人々は冷え切って固まった細胞を溶かし、元あった形を取り戻すために、その温泉施設へ向かっていきます。都心から離れ、いかなる喧騒をも感じさせないとある県の中でもさらに山奥にあるその日帰り温泉施設は、雪の中に混然と佇まい、田舎たる田舎の、観光客も足を向けることに逡巡するような村はずれにあって、現地の後継のない旅館経営者や一度も山を越えてこの土地を出ることがなかっ

        • 防衛機制

          木製の机や椅子が、元の姿を思い出すように自発的に汗をかき、その表面はじっとりと濡れている。高湿度の小さな島国にある唯一の小学校は、島中の子どもたちを集めて総数600人を保有していた。発展途上のこの国は、10年前に領海の水底で発見された大量のレアメタルによって突然の特需を迎え、移住者が増え、その移住者が子供を産み、高齢者が保有していた土地を大企業が高価格で買取り、国の政策が追いつかないまま土地が高層ビルに覆われ、治安は悪化し、原住民は職をなくし、女は繁華街で体を売るか、男はよく

        蛇は餓死した

          わたしのうみ

          傷口を舐めるのは傷口を広げることとそれほど違わない。 どちらも自分の虚像をもう一人の自分が空から見ているような感覚がするでしょう。 夜の海、砂浜に投げ出された2本の白い足。 私はその横で、鳥が鳴くおびただしい声にも全く驚かない。 ただ一点を見つめて、自分の足を抱きかかえて座っている。 左足のくるぶしの近くが岩で削られたらしく、ひどく痛む。 目線を移すと何かが起きてしまうような恐怖を私が襲っている。 姿勢を崩すと全てが反転するような気がしている。 この状態から動けなくな

          わたしのうみ

          記憶障害(未完)

          8月16日、斜陽が照らす人の肌はもれなくクリスマスのターキーみたいに照ってぬめぬめしている。駅の線路に向かって開放された駐車場の境界ブロックに、女は自分の衣服が汚れることなどお構いなしに座り、脚を道路側に伸ばし、煙草の煙を吐き出した。赤色のサンダルを履いた自分の脚を無作為に左右に動かして、その中のホクロや痣を退屈げに見つめている。女の白い花柄のワンピースだけが、その光景でただ一つ異常だった。 その日女は、一人で暮らすにはあまりに大きな2階建ての家、1階のリビングにある青い革

          記憶障害(未完)

          幻聴

           台所の水道から硬い質感の水が流れていて自分の手に触れている。母は隣にいて、何か料理を拵えようとしている。母が持っている薄茶色に穏やかな蔦模様が描かれた鍋は、5、6人前のそれが作れそうな大きさをしていて、すでにもやしや水菜が赤色の水の中に沈んでいる。豆腐がその周りに浮いている。母は硬い質感の水を鍋の中に流し込んだ。適量がわからず、鍋は溢れてしまって具材が排水溝に流れていきそうになるのを母は手で戻した。もう一度、水を流し込む。そしてこぼれ落ちそうになるのをまた手で戻す。何をしよ

          啓蒙

          湿り気のない、驚くほどに平凡な、誰でも率直に思い浮かべることができる夕方の景色が目の前に広がり、空気でさえも、前に同じものを吸ったことがあるような気がしている。 私は、土地開発で創出された、町の様相からは完全に浮いている近代的な建物の、2階ロビーにある赤色のソファの前にいた。ガラス張りのその建物からは小さな街と、それよりも小さな人々が夜に向けて動き始めているのが見える。 私の左手には踏切、その先に商店街があり、最果てには、その先の世界との区切りのような、大きな建物がある。そ

          合否

          黒いヒールで歩いているのは、手入れされていない雑草が心地よく揺れる砂利道だった。砂利と、白砂と、泥が、不規則に乱れて混じった道である。 私は黒のジャケットを羽織り、同じく黒色のスカートを履いて、やや靴擦れの血で汚れた薄い、私と同じ肌の色のストッキングを履いた格好でその不条理の道を進んでいく。 今は暗がりで、私は近視だから、道の両脇がただひらけていて行き止まりがなく、無限に続く空間のようにしか捉えることができない。 ただ、私の行く先には大きな道路が横切っていることが分かる

           目の前には隙間があった。私は建物の2階の高さにある、建物同士を繋ぐ長さ30メートルほどの橋の真ん中にいる。両端に設けられている柵は私の身長と同じくらいの高さがあって、いくつもの縦に長い立方体の鉄は決して誰をもそこから落とすことのないように厳重に保たれている。  ただ、私の目の前には隙間がある。柵の中央部分が一部欠損して、細身の人間であればすり抜けられるようになっている。すり抜けたところで、それは橋の端の柵なのだから、落下して怪我をするなり、打ちどころが悪ければ死ぬなりする

          むらさき

          紫色のチューリップなんて存在していただろうか。 身に覚えがあったかなかったか、定かでないことばかりが起こる。 自分はしばらくキッチンの隅に忘れられていた砂糖と同じで、一匙掬おうにも頑なに動かず、いかにも不変のような顔をしておきながら、一度水に入れば自分と水の境界を簡単に失っていく。世界は私の頭を、皮膚を、細胞を流れていくが、私は不良品の濾過紙だから、一緒に溶けてしまうというわけね。普通の人はね、好きなことを自分の中に留めて、嫌なことを世界に捨てていくのよ。 閑話休題、例え私

          1月4日の夢

          並んだドレスは薄汚い照明に照らされ、罪を抱え込んだまま身を隠しているようだった。この場所は宴の後の煙たく生ぬるい空気を残しながら、私の鼻腔を通して、新たに始まるパーティーの予感を覚えさせる。女たちは既に、今は必要のない着飾った自分を持て余して、バーカウンターやソファにだらんともたれかかっている。私は会釈をしながらその空間に入る。ガラスの柱に映った自分を覗くと、黒く長い髪を先端まで緩やかにカールさせ、シーツの皺みたいなデザインの白いドレスを着ている。黒色の大粒のラメで覆われたハ

          1月4日の夢

          12月30日の夢

           洒落た公共文化施設にある周囲が透過したエレベーターは、その降下する速度によって、限りあるはずの街が永遠に続くかのように錯覚させる。5階で一度停止すると、両脚を酷く怪我した青年が入ってくる。黒くて大きい、無機質なデザインの2本の杖で体を支えているのが分かる。入ってくるなり、両方の杖が隙間につっかえてエレベーターの外に飛び出してしまった。彼は突如’’脚’’をなくしたためにバランスを崩して私の方へ倒れかかる。私は咄嗟に彼を抱き抱える。身長が20センチ程度も違う成人男性を物理的に支

          12月10日の夢

          5時47分、目が覚めた。正確にはそれ以前にも何度か目が覚めていたように思えるが、それらの正確な時間については確認できていない。 とにかく長く、酷い夢を見た。以下のような感じである。 私は暗闇の中に体育座りをしている。徐々に目が慣れると、周囲の輪郭がはっきりしてくる。 目の前には巨大な窓があり、室内にいることがわかる。また、その窓の外には、永遠の海が広がっている。すると太い低音が聞こえ、それが日本語の意味を成しており、声のする右隣を見ると知らない黒人がいる。夢の中で