見出し画像

冷凍えびグラタンもおふくろの味

中学・高校の6年間、母は私に昼食用の弁当を作ってくれていた。
メニューはというと、定番の卵焼きやウインナーなどもあれば、昨晩のお好み焼きがそのまま放り込まれていることもあった。
そうした手作りの料理たちの一方で、近所のスーパーで買ったであろう惣菜や冷凍食品もよく弁当に入っていた。

いま、私は一人暮らしをしている。そのためおふくろの味なるものは無論実家に帰らなければ食べることはない。
そうした意味で「おふくろの味はなんですか?」と問われると、先のお好み焼きはその一つであるように思う。実際、部活動の大会前などはよくお好み焼きを作ってくれていた。

さて、そんな一人暮らしの私は無論一人でスーパーに向かう。食材を買うのはもちろんだが、料理をする気力もない日には出来合いの惣菜、また冷凍食品を買うことも少なくない。
すると冷凍食品については「昔、これ食ってたな」などと感傷に浸ったりもする。なお惣菜は店舗が違うため、母が選んだそれとはもちろん見た目も味付けも大きく異なる。その点、冷凍食品は日本のどこで食べても同じ味という特異性を備えているというわけだ。

そんな冷凍食品の中で、ひどく私を感傷に浸らせるものがある。それは味の素が販売している「カップに入ったエビのグラタン」だ。

何がそんなにおいしかったのかは分からない。ただ、ごくたまにこれが弁当箱に入っていると何だか嬉しかったのだ。それは中学校で2サイズ大きな学ランを着ていた時も、そして「数Ⅰ・Aより数Ⅱ・Bの方がイケるかもしれない」とホラ吹いていたセンター試験の直前であっても。

たしかにこの一皿を用意したのは冷凍食品メーカーに他ならないが、一方でこれは一種の「おふくろの味」でもある。なにせ母が母の主体性に基づいて弁当に入れたのだから。

どうやら調べてみると、この「カップに入ったえびグラタン」の販売開始は1991年らしい。1995年生まれの私よりも年上であるという事実には驚きも隠せない。

一方でこれが意味する重要なことは、このえびグラタンが誰かの30年以上もおふくろの味であり続けているかもしれないということだ。

今日はそんなえびグラタンの横に、初めてお目にかかる冷凍食品を見つけた。この冷凍食品もまた、きっと誰かのおふくろの味なっていくのだろう。


この記事が参加している募集

スキしてみて

イチオシのおいしい一品

いただいたサポート分、宿のお客様に缶コーヒーおごります!