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あの日の虹はピザ1切れ分

ピザ1切れは中心角30°の扇形であった。

私が宅配ピザ店でアルバイトをしていたあのころは、いやたぶん今も、Lサイズのピザは12等分されていたように思う。つまり、ピザは1切れあたり、360°÷12=30°の扇形をしていたというわけだ。

ピザ1切れが30°と知ってから、かれこれ6年が経つ。この紛れもない事実は、全くと言っていいほど私の人生に影響を与えてこなかった。

進学したり、就職したり、移住したり。
そのどの場面を振り返っても、半径15センチの、表面積18.75π㎠、弧の長さが2.5π㎝のピザ生地は思い出として登場しない。
つまり、これまでの私にとって、ピザ1切れの中心角は30°でも32°でもどちらでもよくて、ピザ店各社の半径と表面積を計算することなど何の意味も持たなかったのである。

さて、圧巻の景色や風景を目の当たりにすると、私たち人間はそれを何かに例えたくなる。
巨像が白鷺を彷彿とさせる姫路城。
南国の海を形容するにエメラルドグリーンなんて表現が選ばれる。

本当は言葉にできない感動でも、例えることを通して、その価値を誰かに伝えることできるのかもしれない。それがほんの少しだけだとしても。

虹はピザである。
私はそう思った。

先日、私が目にした虹はピザで言えば、中心角が170°にも迫ろうという大きさになっていた。急いでカメラを取り出してはみたものの、カメラはピザ4切れを捉えるので精いっぱい。
おおよそ分度器のような形をした虹は、Lサイズのピザの半分に見えたものである。

これまで私が見てきた虹を思い返すと、それはピザで言えば1切れ分程度の大きさだった。ビルの狭間や住宅街の奥に見えたそれは、自分が中心角180°の半円であることを忘れていたのかもしれない。

これまでは虹をみかけたとしても「あ、虹だな」という程度で、足を止めることはほとんどなかった。
すなわち、虹に心動かされたなんてこともなかったのである。それはもはや私がピザと過ごした6年間のようなものだ。

ただ今回見かけた虹は違う。
もし虹がピザだとしたら、何をトッピングしたいだろう。
そんなことを考えて始めている。
妙案が浮かばぬままうつむいた顔を上げると、夕暮れに広がった半円の中にその夜の星が輝きだそうとしていた。

ーーー

虹が終わると、これまたいい景色が宿の近くから見えました。

香川のちいさな島ですが、時折、素晴らしい風景と出会えます。

というわけで本日はこれにて。
ご清読ありがとうございました。

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