「旅するように生きる人」は、地域の力になりうるか?
「旅するように生きる人」が享受する幸せは、「旅するようには生きない人」によって支えられている。
「旅するように生きる」が目の前に
昨今、リモート時代に突入したせいか、ワーケーションや「旅するように生きる」なんて言葉をよく目にするようになった。
パソコン一台で仕事ができるようになった時代においては、無理に都会で寿司詰め状態で生きるなんてことは本当に不必要になったのだろう。
私自身、今は香川県の離島・さぬき広島で暮らしている。
ヒトよりもサワガニの方が多い島での生活に慣れ始めると、もう一度満員電車になんか乗りたいとは1ミリも思えない。
そのため、「旅するような生き方」を追求できる世の中になるのは嬉しいと思うし、そんな生き方を実践する人が、さぬき広島に仕事がてら遊びに来てほしいなとも思っている。
「旅するように」の良さ
では、なぜ旅するように生きるのか。
これは私が思うに、一つは「人間関係のしがらみから解放される」ことにあると思う。
会社にせよ、ご近所づきあいにせよ、人間関係を構築するというのは楽しくもあり、面倒なことでもある。
しかし、旅であれば、基本的には一期一会、たとえ長期滞在したとしても人間関係を数か月ごとにリセットできる。
そもそも人間関係が軽薄と揶揄される都市部の人にとっては、このような一期一会な人間関係というのは案外受け入れやすいのかもしれない。
もちろん各地を巡って、景色や食を堪能できる。また思わぬ出会いもある。そんな旅のロマンみたいなものも憧れの要因の一つであろう。
「旅」の良さを守るのは誰か
このように考えていくと、「旅するように生きる」というのは非常に夢やロマンの溢れる生き方だ。
ただ他方で、旅で彼らが出会う景色や食は誰が提供しているのかという視点も必要だと私は考えている。
私も島に来てから気が付いたが、旅で目にする景色や口にする食は、案外人工的である。
つまり、人間的なしがらみがあるからこそ、それは保全されているということである。
たとえば、島の海がキレイなのは島民が自治組織を作り、彼らが定期的に清掃をするからである。
そうでなければ、島の海岸にはどこからともなく流れ着いたプラスチックごみで溢れかえるだろう。
また田園地帯で目にする風に揺れる稲穂、どこまでも続く畑といったような景色もやはりその地域住民が共同で農作業を行っているからこそ保たれている風景である。
細かい事を言えば、「広大な水田や畑を管理するには、それに伴う草刈りも必要である」といったように景色や食を維持するのには想像以上の人間による手間がかかる。
旅するように生きる人は地域の力になりうるか?
旅するように生きる人が享受する幸せは、定住者、つまり「旅するようには生きない人」によって支えられている。
だからといって、私は「旅するように生きる人」を責めるつもりもない。
なぜなら、それが彼らにとって最善ならば、それを責める権利を私は有していないからだ。
ただ、一つ懸念しているのは、それぞれの旅先が単なる消費の対象と化してしまうという点である。
先にも述べた通り、誰かが保全するからこそ保たれる景色や食がある。
とはいえ、急速な少子高齢化社会では、この保全を担う人材が特に地方には不足している。
にもかかわらず、旅人による地方の消費は止まらないということであれば、地方は残念ながら疲弊するだけとなる。
つまり、住みづらくなるのだ。
観光立国でもないこの国において、「旅人」を相手に働くという選択肢は大きくは確立されていない。
だからこそ、旅人も地域を消費するだけでなく、地域を生産する必要があると思うのだ。
たとえば、長期滞在者が地域のちょっとしたイベントやボランティア活動に参加するなんて未来を描けないだろうか。
逆に言えば、このような未来を描けないのなら、ワーケーションや「旅するように生きる」は近い将来機能不全に陥るような気がしてならない。
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ざっくりいうと、数か月長期滞在するなら、少し地域の活動に参加してもいいんじゃない?というところ。
私の暮らす「讃岐広島」は150名の島民に対して、50代以下の島民は10名弱しかいません。そして島民のマジョリティは70代と80代です。
だからこそ、島に長期滞在してくれる人がいるのなら、地域の活動みたいな行事にちょこっとだけでも参加してほしいのです。
そうでなければ、近い将来確実に島の景色は保全できなくなります。
島が限界集落の先頭を走っているだけで、日本各地、同じような状況に陥るのはもはや自明かもしれません。
だからこそ、旅人には消費だけではなく、地域の生産にも関わってほしいのです。
というわけで、本日はこれにて!
ご清読ありがとうございました!
また明日も宜しくお願いします!
ちなみにカバー画像はさぬき広島・青木浜です。
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