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詩集

44
私の紡いだ言葉たち。 全部のせ。
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#現代詩

【詩】ピアノの木

【詩】ピアノの木

白鍵と
黒鍵と
それらがずらりと並ぶ八十八の玉座

そして
沈んだ鍵(けん)の窪みから
人の姿に似た木が芽吹く

ピアノから生まれた木は
母なるピアノに還るべく
八十八の玉座を尋ねる

その軌跡を律とし
隠されたパターンを解き明かした時
かの扉が開くのだ

そして
浮かんだ鍵(けん)の頂から
人の姿に似た木が還っていく

私の耳に残った響きは
その生命の旅路
私の心に残った響きは
その生命の循環

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【詩】鍵のない錠前

【詩】鍵のない錠前

僕を縛る苦い記憶
引き止める優しさに
「No」というナイフを突き立てた日

不思議な自信に溢れていた10代の終わり
僕の甘い言葉で引き寄せた人を
自ら辛い言葉で傷つけた日

10年以上も前 今でも思い出してしまう僕の罪
その罪悪感が鎖のように伸びて絡みつき
脳の深い場所でずっと外れないでいる

その鎖に下ろされた錠前の鍵が
いつまで経っても見つからない
仕事もし 結婚もし 子どもも生まれ
親という

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【詩】難問

【詩】難問

美味しそうなスイーツ買ってきて

ちょうどいいやつお願い

簡単に作れるものでいいよ

良い感じに仕上げといて

センスのある家具が欲しい

いつものやつ

使いやすくて先が尖ってなくて……

知らんがな

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それでも応えたくなるのが営業の性。

【詩】 夜の抱擁

【詩】 夜の抱擁

『夜の抱擁』

静寂が月明かりを借りて現れる。
眩しすぎないように雲がそっとカーテンをおろす。

空気が休んでいる。
遠くの喧騒も木の葉の揺れる音も、全て闇夜に包まれてしまう。
うっすら浮かぶ、木々の黒い輪郭。
一歩踏み出すだけで崩れ落ちてしまいそうな、やさしい地面。
ぽっかり空いた真っ暗なポケットに、僕は飛び込む。

無口な夜が静かに僕の髪を撫で、頬を撫で、肩を抱く。
このまま夜に抱かれて眠っ

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