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エッセイ他

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長めの詩と、物語と、ポエムの延長線上にあるエッセイと。
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2022年10月の記事一覧

【詩】裏方は一人サーカス団

【詩】裏方は一人サーカス団

さぁさ見てくれ僕の芸
あちこち漂うこの風船
なんと触れれば即爆発
腕の一本は吹き飛んじまう
そんな野蛮なこの部屋で
僕は愉快に暮らしてるのさ!

さぁ見ててごらん
実演しよう
壁に擬態したこの風船
右手でちょっと突いてみよう
閃光!
爆音!
飛び散る破片!
心配ご無用
右手は義手さ
僕が笑ってさえいれば
痛みも無かったことになる!

今のはあくまでショータイム
いつもは爆発なんてさせないさ
風船が

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【詩】誰かに助けてほしかった

【詩】誰かに助けてほしかった

誰も助けてくれないと
悟ったあの日のことを書きます

十三歳か十四歳
私は電車に乗っていました
通学の朝のことでした

扉の左に立っていました
扉の右に男がいました

男は私を見ていました
見ながら股間をまさぐっていました

なあ、してくれよ
殺すぞと
言っているのが聞こえました

語ってしまえばそれだけのこと
たったそれだけのことが
私を凍り付かせました

鉄の手すりを握りしめ
壁と扉の境を見つ

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物語詩「弱い鹿と強い猫」

物語詩「弱い鹿と強い猫」

気弱な猫と凛々しい鹿は
寄り添いあって生きていた

鹿は樹の形の角を振って
猫を猛禽から守ってやり
猫は体中毛繕いをして
鹿を虫から守っていた

にこにこ暮らしていただけなのだけれど
過激派の山猫に目を付けられ
二匹一緒に捕まった

偶蹄と交わるなど許されないと
猫はあちこち噛みつかれ
血だらけのまま犯された

藪の向こうの鹿の悲鳴が
傷口よりもずっと痛くて

鹿だけでも逃がせるのならば
何にでも

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物語詩「親の子供」

物語詩「親の子供」

退屈な神様は悪戯で
五歳の魂を大人の体に
三十路の魂を子供の体に
入れ替え 封じて 放り出した

三十路の頭を過る責任
任された仕事はやりかけのまま
家族友人はどうしてる?
自分が体を奪ってしまった
この小さな子の魂は?

揺れる心で見上げた親は
少し老けた自分の顔
だけど仕草は幼くて
この体がちょうど似合うくらい

何とか元に戻らなければと
考えたところで何もできない
ボタンも留められない短い指

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物語詩「子供の親」

物語詩「子供の親」

退屈な神様は悪戯で
五歳の魂を大人の体に
三十路の魂を子供の体に
入れ替え 封じて 放り出した

五歳は大きくなった体で
鼻高々に歩いていた
大人の高さからよく見える
二人三脚の恋人たち
子を真ん中に手をつなぐ家族
普通の大人のあるべき姿
目指す五歳は意気揚々

綺麗な人や 可愛い人や かっこいい人
手当たり次第に声を掛け
付き合ってくださいと声高らか
笑われ拒絶されたなら
あっかんべーして罵った

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物語詩「痛む人」

物語詩「痛む人」

昔 人には痛みが無かった
痛みを知らない人々の中に 痛みを感じる人が生まれた
紙に切られた指先の 何とも言えない不快な疼きを どうやらみんなは知らないらしいと
ぼんやり気付いたその人が
その感覚を痛みと名付けた

得体の知れない苦しみに 名前が付いたのが嬉しくて
痛む人はみんなに話した
「僕は『痛み』を感じるんだ
みんなは感じないみたいだけれど
体を切ったりぶつけたりすると すごく嫌な感じがするん

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