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親子の原風景 ~「Train Train」 ザ・ブルーハーツ


小3の冬

「あ、電車って無くなることあるんだ。」

地元を走る北海道ローカル線が廃線になるという話を聞いた時、少年はそう思った。

それよりも少年にはジャンプの続きが重要だった。

あの時、さして興味はなかったが父に連れられ、廃止のその日、ローカル線に乗った。開通以来ではないかというくらいの超満員。少年は押しつぶされ、ぶつぶつ文句を言いながら、変わり映えしない田舎の荒野をぼんやり眺めていた。

ふと見上げると、父も少年と同じ風景を見ていた。少年の不満を受け流しながら、彼は風景を見ていた。変わり映えしない風景を。

あの日、父はその風景に何を見ていたのだろうか。去りゆく電車のテールランプに何を見ていたのだろうか。

小6の春

「あ、電車に乗りたい」。

少年はある楽曲と出会い、そんな風に思った。

少年は春休みにとあるCDを購入した。ドブネズミみたいに美しくなりたいという歌詞で、話題のバンドだった。彼らの最新作がショップに積まれていた。

タイトルは「Train Train」。アルバムジャケットは切符をモチーフにしていた。

一曲目はタイトル曲。

その電車は栄光に向かう。その電車に飛び乗るんだ。世界中に制定されているどんな記念日なんかより、あなたといる今日が一番意味があるんだ。

わかりやすい。

わかりやすい歌詞に少年は魅了された。「電車に乗って栄光を目指そう」とは、スタンドバイミーやグーニーズに憧れていた少年を惹きつけるには十分な歌詞だった。

電車に乗りたい。

少年は初めて思った。

でも、電車はもう無かった。

4歳の春

「夕陽が眩しい」

少年と呼ぶにはとても小さな男の子は、電車に乗っていて、そう感じた。

彼は内地から北海道の片田舎に引っ越してきた。北海道は彼の両親の故郷だった。転勤というやつだ。

北国の遅い春。夕暮れ時に少年たちを乗せた一両の電車は田舎町のホームに滑り込んだ。あたりはありったけの赤やピンク、少しのオレンジに染まっていた。どこまでも、空間は圧倒的な茜色に染まっていた。鮮やかな茜色の景色が少年たちを祝福しているかのようだった。

これが少年にとって、故郷になる町の最初の記憶だった。いつまでもこの景色は心に残っていた。原風景がそこにあった。

ホームに降りる。電車は次の駅に向かう。テールランプが消えていく。

少年はその風景に何を見ていたのか。

小6の春

少年は、あのときのテールランプを思い出した。一面を埋め尽くしていた、あの茜色の夕焼けを思い出していた。

そして気づいた。

あの日、父が電車の向こうの風景の中に見ていたものに。

それは、きっとあの日の茜色の夕焼けだ。鮮やかに辺りを染め上げた彩りあふれる茜色の風景だ。

少年は、少し大人に近づいた。

かたわらのラジカセからは、甲本ヒロトの声が流れていた。

「どんな記念日や記念碑なんかより、あなたが生きている今日が素晴らしい。」(歌詞一部引用)

今を生きていることが素晴らしい。



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