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一九八四年(ジョージ・オーウェル) を読むと「とりあえず」が言えなくなるかも。

一九八四年(ジョージ・オーウェル)481頁の読書感想文です。6つに分けて書きます。

※とりあえずが言えなくなる理由は4の②に書きました。


1.攻殻機動隊SAC_2045をキッカケに読み始めました。1stシーズンの終わり三話ぐらいに小説として出て来ます。来月11月に総集編映画が上映される前に読み終えようとしたのがモチベーションでした。
また、作中の「ビッグブラザー」は攻殻機動隊SACの第二十一話でも環衛星通信傍受網として出てきます。かなりの縁語。本作を読み終えてからたまたま再視聴してたのでうれしかったです。


2.色んなサイトの感想を見て
 共通するのは、ディストピア小説、全体主義、監視社会が怖い、でした。他にも、会社でよくある「二重思考」や「テレスクリーン」はスマホでは?とか、私にとっての「101号室」はブログを漁ると面白かったです。あらすじはWikipediaさんが良かったです。YouTuberの中田敦彦さんのチャンネルでも解説動画があって面白かったです。ただ小説ではなく、映画の方の解説っぽかったです。前後編で一時間近いので映画(113分)を観た方が良かったかな?と思いました。

3.思考の置き場としての言葉
 この小説の作中で、強く印象に残っているのは、政策としてニュースピークという新しい言語を公用語にする、という事があり、それは既存の言語から大幅に単語数を減らす構成をしておりました。例えば、「良い」の反対語の「悪い」は削除され、「良い」を基準に「良くない」とか「超良い」を作ります。この取り組みの恐ろしさは、思考の制限です。考えの説明や感情の表現を自由にさせないために、言葉を減らすという悪意。言いたい事が言えないどころか、言いたい事が分からない、分からない事も分からなくなる。そうして人から論理と感情を奪う。この辺り、東直子さんが素晴らしい短歌を出しています。

感情の置き場所だけは奪われぬ言葉はずっとずっと一緒だ 東直子 短歌研究 2011年5月 97ページ 短歌研究社


4.紋切り型の言葉は思考を不自由にする。
 思考の置き場としての言葉、言葉の配置の多様な組み合わせ、思考の選択を広げるのが語彙、であるとして、更に検索を深めて行くと、武田砂鉄さんの書籍「紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす 朝日出版社」に出会いました(2015年版はすぐ借りれたので現在、楽しんでいます)。
 言葉が多い状況に居る私ですが、果たして多くからその言葉を選んでいるかの問題があります。便利な言葉を自動的でその場のノリのまま使っているのでは?問題、です。
 例えば、紋切り型の定型句。会社で言う「お疲れ様です」とか「お世話になっております」は気持ちを入れて使った事がほとんどないです。反省ですね。
 そもそも紋切り型の由来は江戸時代、庶民の間で「紋切り遊び」という紙遊びからだそうです。折り畳んだ紙を型紙通りに切り抜いて、家紋の形を作る遊びです。紙を切り抜いて作った家紋、は見て楽しいと思います。でも、紙を切り抜いた物、である以上でも以下にもならない。紋切り型の言葉を使うときには、気持ちを可視できそうかどうか、で選ぼうと思います。
 反省のエピソードを三つ書きます。

①以前、勤めていた会社の社長との会話で気付いたんですが、社長は当時60代、包丁一本で会社の規模を大きくしてきた水産会社のオーナー社長で、私がWebマーケティング担当として入社したときには関西で20店舗を営業していました。その社長と本部でサーバーの不調の事で打ち合わせをしていたときの話です。

「これはもうダメなのか?」
「いえ、ダメではないんですけど、大分悲鳴を上げています」
「お前、これの悲鳴が聴こえるのか?」
「いや、聴こえはしないんですが、限界に近づいてます」

②また、大学生の頃にアルバイトしていた居酒屋さんで新メニューをみんなで考える機会がありました。その時、「オーダーのときお客さんってよく『とりあえずそれでお願いします』とか『とりあえず、ビール』って言うよね」という事から、「鶏和え酢(とりあえず)」というメニューを作ったら売上が増えるね、に達して、鶏和え酢は新メニューとなりました。蒸し鶏に人参、水菜、鰹節、玉ねぎ、わかめを酢、少々のみりんと醤油に和えて小鉢に入れて提供する品です。「とりあえず、ビール」と言うお客さんに、敢えて何も注意せずにテーブルに出しました。ドッキリ!ネタばらし!!で笑える状況と、そうでないときもありました。

③他、何年か前の初夏、当時恋人未満だった人が初めて部屋に泊めてくれる事になり、その夜、同じベッドに入ったのですが、意を決してその人に向かい合い、見つめ合っていたところで、枕元から上へ延長した壁沿い上部に設置されていたエアコンのホース部分から水が漏れ落ちてきて、ちょうど見つめ合う私達の目線の間に着地するというハプニングがありました。結構な量の落水。二人とも身体が強張った瞬間でした。その人はベッドに入る前に除湿にしていて、恐らくその日がその年で初めてエアコンを起動した日だったんだと思います。「まさに水を差されたね」のひと言で二人とも笑いました。その後は何事もなかったように後始末してベッドと布団で寝ました。

5.権はペンよりも剣よりも強し。
 作中、党がなぜ権力を維持しようとするのか、その理由に権力は手段でなく、目的自体だ、という描写があります。上流国民(作中では党内局と表記)は中流(党外郭)と下流国民(プロール)からの革命、国民層の巻き直しを防ぐ事が最優先事項となっており、特に中流国民を厳しく管理しています。中流国民である主人公は日記を書こうとして勇気を振り絞ります。この話の世界では「書く」事も制限されており、見つかると思想警察に逮捕され、心が折れるまで拷問されます。
 連想したのが名言である「ペンは剣より強し」でしたが、意味や由来を検索してみると今まで誤解していました。言葉は暴力より強い、という意味で理解していましたが、大元は権力は暴力より強いという内容らしいです。ここでいう権力とは、軍隊による武力排除を許可する権限の行使の証としてのサイン(ペン)だそうです。
 ちなみに下流国民は教育がされないため知性がなく、不満があっても、全体を見通す考えに至らないため、不満は目の前の個別の原因の解決だけで済んだ事になっていました。下流国民は人口の85%です。多勢ではありますが、革命を起こす力には成り得ませんでした。教育や読書っていうのは大切なんだと思いました。

6.備考
①本作は2019年に著作権フリーになったようです。フリー版は横書きみたい。私が読んだのは「一九八四年[新訳版] ジョージ・オーウェル 高橋和久 訳 早川書房」縦書き、です。
②世の中が平和モードから緊張モードになる時に売れるそうで、最近だとトランプ大統領就任時だそうです。
③本作は反全体主義のバイブルとしての扱いをされる一方、読んでないのに読んだ体裁で居る人、なんとなく知ってるけど実は語る程までは知らない人、が多いそうです。
④本作の二重思考と大澤真幸さんが言う「性愛」を比較してみたいです。ネガティブとポジティブという差がありそうですが、共通点がありそうな予感がします。
※「性愛と資本主義 大澤真幸 青土社」

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