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友達ができた。あー楽しい

BGM : Oasis / Don't look back in anger
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最早一日の日課となった Cafe OTO に向かうバスに乗り込む。
今日はよく晴れて、青い空が大きく広がっている。
バスの二階の最前列に腰掛け、広く晴れる景色を眺める。

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Cafe OTO に着いた。
よし、まずはクリスマスカードを書き始めよう。

書き始めてすぐ、後ろの窓際の席に女の子が座った。
少しふわふわした感じの女の子。

女の子はラテとハンバーガーを持っていたのだけれど、ハンバーガーを食べる時にラテをこぼしてしまった。

机にも床にも、こぼれたラテが広がっている。
彼女はゆっくり立ち上がり、カウンターに行って紙をもらっている。

とても落ち着いている。
さすがだ。

拭いている途中に目があったので "大丈夫?" と聞く。
"こぼしちゃったの" と返してくる。
知ってるよ。

彼女がラテをこぼしたことを知った女性スタッフは、すぐにもう一杯ラテを作って彼女にあげていた。
素敵だなーと思い、僕は机に広げたクリスマスカードに戻る。

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書き終えて、ポストオフィスに行こうとカフェを出る。

カフェの前を歩いた時、窓際に座る彼女と目があった。
彼女は、僕に手を振ってくれる。

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ポストオフィスは休みだった。
そうか、今日は日曜日か。

どうしようかな、家に帰って Résumé に取り掛かろうか。

とりあえず、お腹が減ったから何か食べよう。
僕は Tesco に行って簡単なスナックで昼食を済ませた。
昼食を食べながら、考えた。

『あの子と、友達になりたいな』

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Cafe OTO に戻る。
"ここ、座って良い?" と断り彼女の隣の席に座る。
"Hiroki です" と一方的に自己紹介をして握手をする。

彼女は、ロンドンでファッションの勉強をしているらしい。
なるほど、彼女の頭に乗っている縄みたいなものは帽子じゃなくて、髪に直接絡まっているのか。
"その髪、僕に bjork を思い出させるよ "っていうと "凄く嬉しい" と返してくれる。

彼女の Instagram をみさせてもらった。
彼女の Work がそこには沢山載っていた。
ファッションって、めちゃくちゃアーティスティックなやつだ。 
"かっこいいね" って素直に感想を伝える。

すると、そこに一枚日本語の文章が書かれた写真を見つけた。
なんでも、日本の雑誌に彼女のことが紹介されたものらしい。
その言葉は、とても素晴らしく彼女を褒めていた。
"翻訳してあげるよ" と伝えて、それから黙々とその日本文を英文に訳す。

途中、彼女の彼氏が Cafe OTO に来た。
同じクラスの彼はまたファッショナブルで、『その服どうなってるの?』というような服を着ている。
落ち着いた感じの、凄く良い奴だ。

彼女らの会話を横に黙々と翻訳を続け、完成した。

自己採点としては 50点くらい。
ちょっと不甲斐ない。

冠詞の抜けとかはどうだって良い。
『これもうちょっと良い言い回しないかな』っていうのが何個もある。

時々こうやって本気で翻訳すると、難しさを痛感する。
これはもう単純に触れて来た英文と日本文の量の結果だろうな。

それでも、彼女は僕の翻訳した文章に感激して、写真に残してくれる。

そうだよね、彼女は日本語の文章で何が書いてあるか全くわからなかったんだから。
完成度なんて二の次だよね。
良かった、この文章が伝わって。本当に素敵な原文だったから。

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それから少しして、彼女たちは Cafe OTO を去って行った。
僕は最後に彼女と連絡先を交換して見送る。

それから少し経つと、Cafe OTO は閉店の時間になったので僕もそこを後にする。

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僕は夜にあるクラブイベントのために会場の場所を調べて移動した。
以前、イベント情報サイトでひたすら "chill out" という単語を検索していたせいか、chilled music とかいう名前のイベントから招待状が届いたんだ。

Google Map で出て来た場所に行ってみると、観光客向けのお店が並ぶマーケットだった。
『え、本当にここ?』と半信半疑でマーケットに入ってみる。

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マーケットの中は、素敵なものに溢れていた。
本当に素敵なもの。
買い物に興味のない僕でも「身近に置きたい」って思えるようなものを売っているお店が沢山並んでいた。

ワクワクして歩いていると、目の前の靴屋の前に椅子の上にちょこんと座っているおじいさんが見えた。
僕は微動だにしないおじいさんを見て『人形かな』と思った。

その前を通る時、彼は僕に向かって「こんにちは」と日本語で話しかけてきた。
僕は、驚いて "びくっ" と体を硬直させてしまった。
彼が日本語を話したことじゃなくて ( 本当はそれに驚くべきなんだけど )、彼が人形じゃないことに驚いた。

おじいさんはとても気さくで、色々な話を聞かせてくれた。
でも話している間も目は合わせないし表情も一切変わらない。不思議な人だった。

彼は僕の足を見て、"君は変わった足の形をしてるね" と言った。
驚いた。確かに僕は子供の頃から、靴屋に笑われるくらい変わった足の形をしている。( 僕からしたら普通なんだけど )
それから彼は、僕の足の形の特徴を靴の上から詳細に言い当てた。

彼は 40年 靴を手作りして生活しているらしい。
お店を見ると、とても綺麗な靴が沢山並んでいる。
一つ手にとって値段を見てみる。£ 125 ( 約2万円 ) だった。
高いけど、手が出ない値段じゃない。
本当に、今度買いに来たいな。

"いつか少し良い靴が欲しくなったらいつでも買いにおいで" と、最後に彼は自分の名前を名乗ってくれた。

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また少し歩くと、今度はレコードショップがあった。

僕は、ここ毎日レコードショップを回っている。
"イギリスで買う最初の一枚" をずっと探しているんだ。

僕が今『あの音楽をレコードで聴きたい』と一番大きく頭の中にあるのは Aphex Twin の Selected Ambient Works 2 というアルバム。

これがまだどこでも見つけられていないんだ。
『まぁ一枚目は気軽に選んでいいかな』とも思うのだが、じゃあ何を買おうか、と迷ってしまう。

レコード屋でレコードを見ていると、カップルや女友達同士のお客さんがよく出入りする。
この気軽にレコード屋に入れる感じは、やっぱり良いな。

ここのレコード屋はあまり大きくないので、全てのレコードを確認することができたが、"ピン" とくる一枚は見つからなかった。
何も買わずにお店を出る。

観光客が来るロケーションにあったからか、The Beatles や、Oasis のレコードが沢山置いてあった。

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クラブに着くと、まだ時間が早かったのでお客さんはほとんどいなかった。
ほぼ誰もいないフロアで音楽を聞いていると、一人の少年が近づいて来る。

"酔っ払ってるんだ" と突然話しかける彼は自己紹介をし、一緒に踊ろうと言ってくれる。
僕は彼のふざけたステップを真似して、二人でハイタッチする。
彼は "30分後に僕が DJ するんだ、見ててよ" と僕に言う。

少し経つと、彼の順番が来た。
彼は同年代の友人と一緒にプレイしていた。

彼のプレイは、僕でもすぐにわかるくらい明白に初心者だった。

とにかくいろんな機能を使おうとしていて、聞いていて落ち着けない。
途中 『音が止まっちゃうんじゃないの!?』とハラハラさせられる場面が何度もあった。
というか、その何度目かに実際に音が止まった。
そうか、彼があんなにお酒を飲んでいたのは緊張していたのか。

僕は、そんな彼のプレイを見て『愛おしい!』と思った。
あの不器用な感じ、全く思い通りに操作できない感じ。
悪ふざけにしか見えない感じが超最高。
緊張感と高揚が手に取るように伝わって来る。
この "今までできなかったことに踏み出す瞬間" の高揚と緊張感を客観的に感じて、僕は最高の気分だった。


気付くと、フロアで踊っているのは僕一人だった。
僕は『せめて僕一人でも踊っていないと』という妙な責任感を携えてずっと彼のプレイを見ていた。

ついに彼のプレイが終わり、ステージから降りて来る。
僕が "良かったよ" と伝えると、彼は "こういうの好き!?" と高揚したそのままのテンションで返してくれる。

そのあと、彼は他の仲間たちと話しに行き、僕は帰ろうと荷物をまとめる。
"Hey, もう帰るの!?" とまた良い奴そうな人に話しかけられるけど、笑顔で "ごめんね" って言ってその場を後にする。

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クラブを出ると、どこからかギターの音が聞こえる。
そのギターに乗って、歌声も聞こえてくる。
聞き覚えのある歌だ。
オリジナルでないのは分かる。誰かが演奏してるんだ。

その音のなる方に走っていく。レストランが見える。

音に追いついたその時、ちょうどその曲はサビに入る瞬間だった。

曲名を思い出す前に、あのサビのメロディが頭に蘇って来る。

そこにいる全員があのメロディを合唱する。

So Sally can wait
She knows it's too late
As we're walking on by
Her soul slides away
But don't look back in anger 
I heard you say

Oasis の Don't look back in anger だ。
僕はその光景に感動して少し動けなくなる。

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曲が終わり、拍手をしているとすぐ近くにさっきの DJ の彼がいた。
このレストランはさっきのクラブと繋がっていたらしい。
静かな場所でまた改めて少し話した。
最後に連絡先を交換して、また握手をして彼と別れる。

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マーケットを出て、家に向かうバスを待つ。
僕の目的のバスはなかなか来ず、何台かのバスを見送った。

その中の一台の行き先の地名に見覚えがあった。

"Pimlico"

それは、僕がロンドンに来て最初に生活していたホステルがある場所だ。

思えば、今日は僕がイギリスに来た日からちょうど二ヶ月だ。
そうか、あれから二ヶ月が経ったのか。
ヘッドフォンからは、Oasis の Don't look back in anger が流れている。

今まで Oasis のアルバムなんて一枚も買ったことないけれど、イギリスで初めて買うレコードは Oasis が良いかもしれないな。
なんか、凄く "ピン" と来る。
今度、レコード屋で Morning Glory 見つけたら買っちゃおう。

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これはクラブのイベントで "彼" が音楽を止めてしまった後の一枚。
先輩 DJ に指導を受けながらプレイしているんだけれど、写真だと笑ってしまうくらいカッコ良く見える。

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明日の予定
Cafe OTO
レコードショップ
Post office

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