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すべてのデザイン道は「ガイド」に通ず


桃栗三年 ガイド七年半

一昨年まで1年半 プロとしてガイドをしていました。
学生時代6年のボランティアガイドと合わせ、通算7年半ガイド歴の私。

本職である建築設計、そして教職母親業を含めた私の仕事観
それは

あらゆるデザイン道は「ガイド」である。

一見バラバラに見える私の活動
どれも「教える」「育てる」という根っこで、つながっています。

ガイドも教職も母親業も「学びのための環境整備」という部分で
広い意味でのデザインといえるのかも、と思うのです。

特に、外国人旅行客向けのフードガイド経験。

という切り口のガイド体験を通して
プレゼンに対する「心構え」が大きく変わりました。

インターナショナルスタッフと「伝える」スパルタ教育を交換する過程で
日本で教育を受けた場合のプレゼンの弱点が見えた気がします。


「テクニック」という言葉を避けたのには、理由があります。
重要なのは「表面的な技術」ではなく「意識の向け方」だから。

コツを知ると知らないの間には、紙一重の差しかないけれど
意識を向けると向けないの間には、雲泥の差がありました!



そこで今回、フードガイド経験から学んだプレゼンのコツを3つご紹介し
そこからデザイン道と「ガイド」の関係について書いてみたい思います。

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 フードガイドってなに?

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「フードツーリズム」:
ある場所の風土を理解するため、その土地ならではの味を求め旅する
こと。

"Food Tourism is the act of traveling for a taste of place
in order to get a sense of place." - WORLD TRAVEL FOOD ASSOCIATION

現在、日本のユネスコ無形文化遺産である和食
日本文化の入り口です。

いわゆる和食以外にも、ラーメンや餃子などのWASHOKUを楽しみに
来日する観光客の数は、うなぎのぼり。

ローカルの食卓にのぼるリアルなWASHOKU
地方郷土食への興味や関心も、尽きないようです。


一方、日本語に高いハードルがあるから、
独力でレストランを探し、食べたいものを注文するのは至難の業。

又、アレルギー、宗教や信条の理由で
特定の食材を避けたいというニーズ
もあります。

何より、文化背景も経験値もない人たちにとって
情報があふれる現在、自力での取捨選択が難しい。

そこで、
ローカルな友達に、おいしいお店に連れて行ってもらうように
ローカル食を通して、その土地ならではの文化を体感してもらう
それがフードツアー。

食べ歩きとの違いは、食べること目的ではなく
文化の理解
目的だということ。


旅とは、異文化体験。
安全領域からの逸脱
冒険です。

これまでのガイドさんが、旗を振ってお客さんを先導し、
名所旧跡の前で由来書を諳んじる存在だったとすれば
フードガイドは、市場や居酒屋に飛び出し一緒に飲み食いするバディ。

一般的なフードツアーの1ツアーは、平均3~4時間。
多くて10人、2〜3グループ程度。
現地集合、現地解散で、約3フードストップを数珠つなぎに歩きます。

「テキスト情報」では理解できない
→つまらない
→分かりやすいコンテンツに群がる の負の連鎖を断ち切るために

老若男女どんな文化圏に属する人でも」に導くお手伝いをするのが
フードガイド
です。

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①伝えるべきは insight(洞察)

「ガイドが話してくれた『日本文化の見方』のヒントで
その後の日本旅行が楽しめた」

良いレビューの典型例です。

お客さんがお金を払っているのは、ガイドの洞察力であり、情報ではない。
だからWikipediaになるべからず!

口酸っぱく言われました。そして、実際そうでした。


フードツアーが3~4時間とコンパクトなのは、胃に上限があるから。
ガイドもお客さんも、集中力が続かないからです。

食文化をエンターテイメントとして
ぎゅぎゅっと凝縮して魅せるのがフードツアー
だから、テストには絶対出ない情報を受け取るには限界がある。
その量には配慮
を。


学生ボランティアガイドをしていたときには、
よくわからない質問には、ガイドブックのそれらしき頁を開いて
お客さんに手渡す暴挙に出ていた私ですが

プロガイドを始めた当初は、高額なツアー料金への責任感から
研究ばりに調べ上げ、念入りに資料作ってました。

…でも、どんなに調べ上げてみても
凌駕するツワモノは必ず現れる!

その土俵で勝負してもマウンティングにしかならない、と気付いてからは
私らしい説明の仕方に意識を向けるようになりました。

新人研修でも、日本人スタッフは、
一生懸命まとめを伝えたがる人が多いですが、
自分のものになってない知識は、ちょっとした質問にすぐボロが出る。
だからまず、自分の語彙で説明できるところまで持っていく!


逆に、外国籍のスタッフは
「自分の体験」に力点を置いて話す傾向がありました。

自分自身が未知の日本文化に出会ったときに
どういうところに戸惑ったのか
そこでどう振る舞ったのか

生活経験のある先輩として、
自分自身が体験したカルチャーショックを話せば、
思わずお客さんが身を乗り出して聞いてしまう
魅力的なガイドになるでしょう。

これが、お客さんの絶賛する「日本文化の見方」!

…日本文化が当たり前に見えるスタッフにとってはハンデがありますが
お客さんの視点に立って眺めることで、見えてくる風景があります。

マンホールの柄や、看板、箸の置き方から「いただきます」の習慣まで
外国人観光客の視点で見える「不思議」は数限りなく。

この「洞察力」に欠かせないのは、日本文化の理解と同様
お客さん側の文化を理解すること
かな、とも思います。

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②勝負はイントロとアウトロ

お客さんの信頼を得られるかどうかは、冒頭3分次第

日本の大学でも「シラバス」が一般的になり、
学期始まりに、全体のオリエンテーションが行われるようになりました。

冒頭で全体像を示すことは、お客さんを迷子にしないこと

だからとにかく、目当てを示す。これが大事。
(自分自身を迷子にしない効果もあります)

最初にお客さんの信頼を得られると、心を開いてもらえる。
するとその後、安心してツアーを進めることができます。


具体的なツアーでは、
テーマ 所要時間 コース説明 ④自己紹介 の4つからスタートします。

特に文章におけるタイトル「テーマ」は大事!
いわば「価値のお土産

たとえば酒蔵ツアーなら、
利き酒と利き水を並行して体験してもらう「日本酒と湧水との関係」など。

冒頭でアウトラインを示すことは、価値の目当てをつけること!
結論ではなく、目当て。
方向性さえ分かれば、不安解消

そう、ガイドも不安だけど、お客さんも不安なんです!
だから見通しを立てて安心してもらう、これが信頼につながります。


そして、イントロ(冒頭)同様に重要なのがアウトロ(シメ)

感動するほどいいお店ってどんな店?と考えてみると
料理そのもののクオリティはもちろん大事ですが
帰りがけに姿が見えなくなるまで見送ってもらえると
「あぁいい店だったなぁ。また来たいなぁ。」につながりませんか!?

文章でも同じこと。
読後感を左右するのは「シメ」です。

私は、その日の楽しかったことをまとめながら
握手して感謝の気持ちを伝え、名刺を渡してシメました。

サービス提供側は、どうしても本編に全力投球しがちですが
最初と最後をキメる。
これだけで全体の印象がぐっとランクアップすること間違いなし!

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③友達のように

良いレビュー常連の人気ガイドは皆「ゆるい雰囲気」の人でした。
lazy(怠惰)とlayback(リラックス)のギリギリを攻める感じ。

又、第一印象が「開いた感じ」だった。
良いレビューの出だしは大抵「ガイドがfriendlyだった!」

まずはガイドが率先して楽しむ
そうすると、お客さんにも気持ちが伝わり、良いツアーになります。

お客さんの目的は、楽しむことだから!


だから、ガイドの一番大事な仕事は、弾丸トークではなく
お客さんがリラックスして楽しめる環境をつくること

そのために、コントロールしすぎず
ハプニングを招き入れられる、ゆるさと余白を残す
ことが大事。

ただ「お客様」意識のある日本人は、とかくサービス過剰になりがち
でもこれ、お客さんの楽しみを奪ってしまうことにつながってしまいます。

だから、目指すイメージはこんな感じ。

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椅子を向かい合わせで、ガッツリ話し込むのではなく
ベンチに隣り合わせで、同じ月を見ながら話すイメージ。

お客さんの前を歩かず、横並び(なんなら時々後ろを歩く)くらいが
ちょうどいいんだと思います。

以下、ガイドに重要な資質「friendly」の処方箋を3つ。

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【1.be interactive (双方向的に)】


ツアーってお客さんが一方的に聞くイメージがあるかもしれませんが
実はお客さんもしゃべりたい!んです。

だからツアー冒頭は、体調や状況のヒアリングも兼ねて
これまでの旅について、尋ねるようにしました。

お客さんも自分で言葉にすることですっきりします!

実際、人気のガイドは聞き上手。
自分:お客=50:50の発話が理想だとか。

実はフードガイド、注文や支払いなんかの段取りが多いから
お客さんのそばに寄り添って話せるタイミングって、そうないんです。

だから、お客さん同士で勝手に話が弾むよう心がけました。
(ツアーの最少携行客数は2人)


ときに、日本には
複数人が集まってリレー形式で和歌を詠む
「連歌」というものがあります。
長句・短句を交互に連ねて詠み継いでいく楽しさに、武将も熱狂したとか。

ルールとしては、
人の詠んだ長句(五・七・五)に、次の人が短句(七・七)を付け
また別の人が長句(五・七・五)を付け加えるそう。

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複数の「はじめましてさんが混在するグループで
テーブルを囲んだ話が弾む瞬間はこの連歌の図に近い状態
になっています。

jazzy (ジャズ的)ともいえる。

参加するだれもがリラックスしてキャッチボールできるよう
ガイドが橋をかけるように、場の空気を調整します。

前の発話を受けて、少しだけ話を拡張する。
noteのコメント欄の書き方にも、応用できるかもしれません!

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【2.be personal (自分らしい話を)】

どこかでだれかから聞いた一般論ほど、退屈なものはなく。
冒頭に戻りますが 、ウィキペディアになるなかれ!です。

その点、身近に引き寄せた体験ベースの話には力があります。

たとえば「小1娘が私の味噌汁を食べない」ネタ鉄板でした。
(栄養重視の野菜具だくさん味噌汁が苦手)

このネタ一つでも
「日本人がつくる味噌汁ってどんな具いれるの?」とか
「こんな具はNG?」などなど、話が膨らみます。

他にも、保育園の給食や菜園活動、憂鬱なお弁当
これ食べるとどうなる的、食材にまつわる迷信小話
父九州、母東北の私が体験した郷土料理の数々など

普段、自分が聞いて面白いなーと思う話があったら
その領域にあたりをつけておくと
引き出しにネタが入れやすくなる
かもしれません。

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【3.be memorable (記憶に残る話し方を)】

英語は語彙や文法じゃない!リズムと勢いだ!
と力説する同僚がいましたが、そうだと思います。

お客さんのオーダーで、アレンジする場合もありますが
基本、定型ツアーコースが決まっています。
だから、この角曲がったらこれ言う、に陥りがち。
(それやりだすと、途端にダメな感じになります。)

そこをぐっとこらえ、いつも初回のフレッシュな気持ちで!

又、実際のツアーでは
言葉だけで伝わらない部分に、積極的にビジュアルを導入。

サンプルを2つご紹介

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茶畑を剪定する刈り込み鋏+葉っぱ
=「茶」という漢字

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「花街のお金の流れ」を追うと 
茶屋=芸能プロダクション の立ち位置が分かりやすい
(*正式な読みは「かがい」ですが、便宜上「はなまち」と表記)

特に日本史に関わる部分は
何一つ基礎のない人には退屈になりがちなので、一工夫。

たとえば桂昌院
徳川五代、綱吉の母で、通称は

庶民出身ながら、大奥で奉公。
そこで春日局の目に留まって、家光の側室にスカウトされ
やがて将軍の母に上り詰めたことから、「玉の輿」の由来となった人。

京都には、桂昌院の寄付で建てられた寺社が多いのですが
徳川とか、大奥とか、全部説明してるとまどろっこしいので…

一言、Japanese Cinderella (日本のシンデレラ)と言い換えます。
大抵の人は「あぁ!」となります。


人間には、心で捉える主観的な感情(feeling)に対して
客観的な情動(emotion)があるんだそうです。

情動とは、人間が外からの刺激を受けたときに
自分の過去の状況体験と呼応させて
驚きや悲しみ、喜び、快・不快などにカテゴリーを分けて認知するもの。

だからこそ、直感の「あぁ!」

過去の経験値フォルダーに即ヒットする
お客さんにふさわしい変換方法を見つけるのも、ガイドの大事な仕事

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以上、
私のフードガイド体験からのプレゼンのコツ3つをおさらいしますと

○伝えるべきは「洞察」

○全体の印象をランクアップするのは「イントロ」と「アウトロ」

○並んで歩く「友達」としての立ち位置
→双方向的に(勝手に話が展開するよう橋をかける)
→自分らしい話を(身近な体験には説得力がある)
→記憶に残る話し方を(過去の経験値フォルダーにヒットするよう変換)

今、情報が溢れかえっています。

「教える」「育てる」の環境で考えれば、ベストは自学。
でも、経験値のない人には難しい。
だから、交通整理。
これすなわち、編集です。

ビジュアルも、空間も、プロダクトも、デザインの本質は編集。

理想はお客さんの自走ですが、
できない部分を最小限手助けして、自走へと導く
ゆえにそのプロセスも大事。

これがデザイナーの仕事だと私は考えています。

その意味では「学びの環境整備」といえるのかもしれません。


ガイドとは「光をあてる人」
なんだと思います。

すでにあるものの、順番や並びを変え
一人一人にふさわしい道に「光を当てる」ことが
求められている
のではないかと思います。

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写真は岩船寺 (京都府木津川市 2021.6.7.)

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