スタイリストが見る、欧米ファストファッションが不振な理由
先週末、こんなニュースがありました。Yahoo!ニュースにも載っていたので目にした方も多いと思います。
「洋服の青山」が米ブランド「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」を日本で展開していたのですが採算が取れず手放すことになった、という内容です。
ラフォーレ原宿前の東急プラザの角地に華々しくオープンしたときこそ賑わっていましたが、その後は特に話題になることもなく。質の割に価格が高いのが原因だと言われていますが、僕も完全に同意します。値段は違うけど一部GAPと入れ替えても分かんないでしょ的な。いやかなりの難問になるはず。
そんなGAPも苦戦続きで日本でも原宿店を閉めたり、フォーエバー21も原宿旗艦店を閉店、アバクロも福岡店を閉め、、とファストファッションに関してはいい話が聞こえてきません。
こう見ると、欧米のファストファッションが苦戦しているのは明白です。和製のGUとユニクロは健闘していると言っていいでしょう。
栄枯盛衰というか流れとしてはあり得ることですが、スタイリストとして現場から見ていると、売上や数字だけでは分からない2つの理由が見えてきます。
ひとつは、提案力が弱いということ。
H&Mなどが顕著ですが、基本的に同じ品番をズラッと並べただけ。こういう着方が出来ますよという提案は皆無に等しい。GAPやフォーエバーもそれに近い。
一方堅調なZARAは、必ず縦ラインでコーディネート提案して吊っている。「こんな組み合わせもアリか」なんて僕も思ったり。コーデ買いを促したりイメージを湧きやすくしているんです。ユニクロも雑誌で特集を組んで単調になりがちなコーデの提案をしていますし、商品単品の魅力プラスアルファのイメージを持ってもらうことが出来るかどうかがポイントになってきています。
今はもうどこのファストファッションを見ても似たようなものが多い。だったらより親切だったりイメージが湧くところで買おうというのは当然です。
ユニクロは親切という点でもスタッフが常に回っているし、整頓されているから買い物がしやすい。オススメやお買い得も分かりやすく置いてあって迷わないから、つい立ち寄って買ってしまったり。
商品が同質化してくると、アイデアや売り方で差別化するしかない。不調なところはそれが出来ていないということでしょう。もう並べておけば売れるという時代ではないのです。
それと、もはやGAPだH&Mだという看板に昔ほどネームバリューがなくなっていることも大きい。一時はそこで買うことにステータスがありましたが、今はもうそうではない。名前で売れていたのか商品で売れていたのかが今日の結果に現れているようにも思えます。
もうひとつは、買う方が「個性」を求めているということ。
ファストファッションは、基本的に同じアイテムを大量に作って原価を下げて儲けるというシステムで成長してきました。それが今や世界規模になった。ということは世界中に同じアイテムが溢れているということです。
消費者は賢くなったので、ファストファッションはどういう仕組みで作られているのか、買ったアイテムがどれくらい持つのか、このアイテムの相場はいくらなのかということを知っています。だから10年前と同じ仕組みで作られたものには惹かれなくなっている。
今消費者は、どんな想いで、どんな人たちが作っているか、どんな人に着てほしいか、そういうメッセージやストーリーに目を向け始めています。
「サスティナブル」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、生産態勢がブラックでないかどうか、環境に悪影響を与えることはないかといった要素もセレクトの基準のひとつになりました。古い言い方をすると「世のため人のため」というストーリーが魅力になっているわけです。
そして、時代は社会的少数者の主張に注目が集まったり「個性」が尊重される空気に変わってきています。だからファッションも「みんなと一緒」は嫌だという人が増えてきている。つまり自己表現のツールとして意識する人が増えているということです。
アメカジが不振というのもそこに原因がある。
アメカジは着方の組み合わせが少なく、定番アイテムを長く売っていくスタイル。安定感はあるけど面白みには欠けるから、何か主張のあるものを求めている時代には埋もれてしまうわけです。
逆に韓国発のファストファッションなどは「面白み」という意味では他のブランドに無いようなアイテムを出してくる。「極端にかわいい・カッコいい」を突けるから人気が出てきているのでしょう。品質にバラつきがあるので個人的にはもう少し様子見が必要だと思っていますが。
本当は誰もが「自分のための服」が欲しいのです。
誰でも着れるものは自分が着なくたっていい。”これはあなたのための一着ですよ”という提案を求めている。
実際スタイリングをしていても、お客様から「私らしい服」「ビジネスでも自分を表現できる服」というキーワードが頻繁に出てきます。ベクトルが「みんな」ではなく「わたし」に向いてきていることを肌で感じるのです。
これまでのシステムではファストファッションでそういう服作りは不可能。規模の大きいブランドほどそのジレンマに苦しむことになるでしょう。H&MからCOSが生まれたりユニクロからGUが分化したのは必然。今後はよりターゲットを絞った展開をしていくブランドが増えるはずです。
ファストファッションブームには、ファッションを身近に感じさせてくれた、多くの人に気軽に装う楽しみを広めたという功績がありました。今はまさに次のステップに移行している最中。欧米型の大量生産システムがどう変わるのか、新たなシステムで台頭するのはどこか、今後の勢力図が気になるところです。
最後に、ZARAで働くにはバッチリメイクとワイルドな風貌であることと定められているのか、個人的に気になるところです。
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