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最近笑っていなかったのは、私だったのかもしれない。

最近オフィスでちょっと気にかかっていることがある。
本当は「最近」と言えるほど少しの期間ではなく、常態化するようにずーっと続いていたこと。

基本的に朝は不機嫌。
他の人が「おはようございます」と声をかけてもトーンの低い声で小さく返事をするか、ちょっとふてくされているような顔でおはようが聞こえているよ風の会釈ともつかないわずかなモーションをするか。


オフィスの中でも上の立場である彼は、前はそんな感じではなかったのにここ1.2年でかなり様子が変わってしまった。
何か嫌なことがあったのか、体調でも悪いのかと最初は不思議に思ったり心配していたのだが、一時的なものでなくなんだかずっとそんな調子。

1人仕事に取り組んでいる時にパソコンの画面に向かってため息や舌打ちをしてみたり、暴言のような言葉を吐き出すこともある。
大声で怒鳴ったりするわけではなく、愚痴のような感じで呟くので周りの人も困惑しつつも独り言にフォローを入れることもできない。

ちなみに「どうしたんですか?」とその声を拾うと何かに対する苦言をひとしきり聞かされることになる。
彼が苛立っていることは、そりゃあ最もだと思うような話だったり、えぇ?そんなに言わなくても...と思うようなものだったり。端的に言ってしまうと沸点が低いというか、常に色々なことにイライラしているのだ。


なんだかなぁとは思いつつも、立場的なこともあり皆その人に「そういうのよくないですよ」と言うこともできず、そのうちそれがずっと続くようになってからは「あぁ...また始まった」と不穏な空気に苦笑いして受け応えたり、心を無にしてスルーするようになってしまった。

ご機嫌至上主義の私は、この空気や彼の出す言葉やオーラが正直すごく嫌だった。(ここで言うご機嫌というのは機嫌がいいことを指している)
もちろん仕事をしていればイライラすることもあるし、理不尽なことや訳わからん人に遭遇する時もある。
誰だっていつもハッピーな気持ちでいられるわけなんてないのだが、それにしても毎日毎日、出会い頭からずっと彼はあのモードなのだ。

このままいたら文句と不機嫌の海に溺れそう。
自分が言われているわけではなくても、その言葉や態度で他の人たちの気持ちも社内の雰囲気もなんとなくずんと重たいものになる。


かなり前に一度「プラスのことを外に出してれば回りの空気も自然とプラスになってくと思う」というようなことを(文章にしてしまうと自己啓発みたいだがもっとおちゃらけた感じで)やんわりと彼に伝えたことがある。
彼のこの「ずっと不機嫌モード」も、もしかしたら無意識だったかもしれないし、自分でもよくないなぁと思っていたりしたら何かのきっかけになるかと思って。

しかし、おちゃらけ過ぎて伝わらなかったのか、あるいは「お前は気楽でいいよな」と思われたかは定かではないが、残念ながら彼にそれが響くことはなかった。
ひとしきりそれを続けてしまい、麻痺というか慣れてしまって今更ハッピーるんるんモードには戻れないのかもしれない。


そんなある日、私は直行の用事をすませてから少し遅れて会社に着いた。

「おはよー」

「おはようございまーす!あ、これ〇〇さんに封書来てましたよ」

「あーありがとう!」

「いやーあちー...今日の服失敗したかもしれん!」

手前の席にいた人たちとそんな何気ない会話を交わしながら彼のデスクの前を通った時、私はその楽しいテンションのまま「おはようございまーす!」と言った。

「..おはよ」

その時聞いた彼の声は、相変わらず小さかったもののいつもよりずっと穏やかで柔らかく聞こえた。

およよ?今日はちょっとご機嫌?

心の中で少し驚きながらも、私は久しぶりに聞けた彼の嫌な鋭さのない声になんだか嬉しいような気持ちになった。
そしてそこで思った。
私も「ご機嫌が大事!」なんて言いながら、ここ最近は彼にご機嫌ではいられていなかったかもしれないと。


正直その自覚もあった。
いくら毎日元気に「おはようございまーす!」と言っても、それに対して「あぁ...」というようなレスポンスが返ってくるとなんだか虚しくなったりそのうち「なんやねん!」と思うようになる。
「イェーイおはよー!」と返してこいとは言わないが、なんだか返り討ちにあったような、私のご機嫌まで滅却させられてしまったような気持ちになるのだ。

会話をしている時も、彼の苦言に対して「大変ですよね...でも〇〇かもですよ?」とフォローしてみたり、楽しい話題があったら乗っかってくれるかなと声をかけたりしていたこともあったが、8割方批判や不満、興味のなさそうな反応で返されてしまうとやっぱり虚しくなって、それをすることも少なくなっていた。


大きな話にするほどの大問題ではないのだ。
とずっと思っていた。でも些細なそれは、傘を差さない程度の小雨のように毎日毎日降り続いていき、いつのまにかオフィスを黒く染めじんわりと広がって、私が彼に向ける顔や言葉も気付かぬうちに変わってしまっていたのだと思う。


ずっと楽しく話しかけたり、ご機嫌を取りにいくようなことはできない。でも、最近の私は彼と話をする時、どんな顔で、どんな口調で受け答えをしていただろうか。
もしかすると、返り討ちにあうのが嫌で彼と同じような不機嫌そうな態度を取ってしまっていたかもしれない。

やっぱり人って鏡だと思う。
人を変えることはできないけれど、いつのまにか変わってしまったかもしれない自分を、もう一度意識して変えることはできる。
超絶ご機嫌じゃなくたっていいから、穏やかに、ニュートラルに明日も「おはよう」って言ってみよう。

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