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暗闇だからこそ見えてくるもの 〜ダイアログ・イン・ザ・ダーク体験記〜

先日私は、真っ暗闇の中に行ってきた。
みなさんはダイアログ・イン・ザ・ダークをご存知だろうか。


ダイアログ・イン・ザ・ダークは、照度ゼロの暗闇空間で視覚以外の様々な感覚を楽しむソーシャル・エンターテイメントである。
普段から目を使わない暗闇のエキスパートである視覚障害者が「アテンド」という案内役を担い、完全に光を遮断した純度100%の暗闇の中で聴覚や触覚など視覚以外の感覚を使って、日常生活の様々なシーンやそこにいる人とのコミュニケーションを体験するというものだ。

私は今回、神宮外苑前の三井ガーデンホテル内で開催されていた「内なる美、ととのう暗闇。~五感~」というプログラムを体験してきた。


なぜ、これに行こうと思ったか。
実は私、かなり前にもこのダイアログ・イン・ザ・ダークを体験したことがあったのだ。
当時は友人に誘われ、あまり詳しい内容も把握しないまま「へ〜暗闇での体験イベントかぁ。なんか楽しそうだな〜」というような軽い気持ちで向かったのだが、その時のことがとても印象に残っていて、ずっとまた行ってみたいと思っていたのだ。

当時は違う場所に常設展が設けられていて、2019年から新拠点としてここに移ったらしくこの会場に行くのは初めてだった。
そして久しぶりに味わった暗闇での体験はやはりとても面白かったし、昔行った時と比べて新たな気づきもあり、すごくいい経験になった。


やっぱりこういうものは実際に体験してこそなところがあると思うので、内容を細かく書いてしまうともったいないというか、ネタバレのようになってしまうとも思ったのだが、この魅力を伝えたいし是非足を運んでほしいと思うので、今会期中のものではなく私が過去に行ったプログラムの内容などをまじえながらどのような体験ができるのかをお伝えできたらと思う。(うろ覚えのところもあるけど...)

「これ気になってたけどまぁまぁなお値段だし、イマイチどんな感じなのかわからなくて行こうか悩んでた。でもでも行く前に内容を知っちゃうと楽しくないかもしれないし...だけど詳細が気になる!」なんて人がもしいたら、へ〜なるほど、そういう感じなのかと参考にしてもらえたら嬉しい。


チケットは事前予約制で、各回定員が8名まで。
私は体験してみてこの人数設定もなかなか重要なポイントなんだろうなと思った。
なんせ突入するのは何も見えない暗闇だ。
その中である程度歩きまわったり人と話したりするため、これ以上多いとわちゃわちゃして何がなんだかという感じになってしまうだろうし、逆に少なくても友達連れなどで行くと本来味わって欲しい感覚とは異なってくるのだと思う。

会場に訪れるとまず予約照会とともに身分証の確認があるので、名前と年齢が確認できるものを持参する必要がある。(年齢制限はプログラムによって異なる)
受付をすませたら、その日一緒に体験するメンバーが集められ、各々更衣室へ。体験は裸足で行うのでここで靴を脱ぐ。
暗闇の中でしゃがんだり段差をまたいだりするので服装は動きやすい格好がよい。鍵付きの更衣室なので貴重品類や携帯、時計、音が鳴ったり光るものなどは全て置いていく。
何度も言うがなにしろ暗闇なのでアクセサリーなども置いていった方がよいと思う。シャラシャラ鳴ってしまったりすると迷惑になるし、落としたりでもしたらもうおしまいである。(このへんのことはサイトの注意事項に詳しく書いてあります)
こう聞くと「えー結構めんどくさそう」と感じるかもしれないが、自分が一番感覚に集中できると思う格好で臨んだ方がより楽しめると考えればいいと思う。


荷物を置き前室のようなスペースで再び集まると、アテンドとなる視覚障害者の方が迎えてくれる。
ここはまだうっすらと間接照明があるような空間だ。そこで概要の説明を受け、各自白杖を渡される。
ちなみに荷物と一緒に置いてきてもよいのだが、私が体験した時はメガネをかけている人がいてここで預かってもらっていた。

「そうそう、今メガネをかけている人はいらっしゃいますか?」

「あ、はい」

「かけていてもどちらでも構いませんが、落としたりぶつかってしまうと大変だし、ここから先はメガネがあってもなくても何も見えません。どうしますか?」

「確かに...!いらないですね。置いていきます」

多分いつもの生活通り無意識でかけていたと思うのだが、そんなやりとりがあったりしてそういやそうだよねとちょっとみんなで笑ったり和んだりしながらも、この先には普段の生活と違う世界が広がっているんだということに私たちは改めて気づかされる。

そしてここで一人一人、自分の呼び名を決める。
名字や名前でも、ニックネームでも、この時だけ使うあだ名でもなんでもいい。アテンドの方にもニックネームがある。
ちょっと恥ずかしいような気持ちになるかもしれないが、この呼び名はこの先でかなり重要な役割を果たすことになる。


説明が終わるとゆっくりと照明が落とされ、あたりは真っ暗に。
本当に何も見えない、目を開けていても閉じていても一筋の光もない暗闇だ。そしていよいよ体験ゾーンへ。

暗闇の中で、私たちは視覚以外の感覚をフルを使って先へ進んでいく。
ここがどんなところなのか、周りには何があって、どんな匂いがして、どんな音がするか。裸足で歩く地面の感触、温度、質感。手で触ったり白杖を使って、どれくらいの距離にどんなものがありそうかなどを探る。

アテンドの方の声を聞いてガイドされた方に向かってみたり、前を行く人の肩を借りて一緒に先へ進んでみたり、何か障害物や段差があったりすると教え合う。
隣の人が「あ、ここに掴むところがあります」なんて手を取って誘導してくれたりもする。

空間の中には自然や建物など、普段なにげなく目にしていて「あぁこれはあれだ」とわかるようなものが用意されていて、それを見えない世界で感じ取る。
私が昔行った場所には、ちゃぶ台があったり畳の匂いがしたり、木の肌を感じられたり音を頼りに近づいてみると水が流れているところもあった。

人とのコミュニケーションで一番使ったのはやはり声、聴覚だ。
最初のうちは思わずぶつかってしまいそうになって「あっすいません...」なんて控えめに会話を交わしていたが、みんな人と接するには声をあげるしかないため、自ずと「あっここ水!」「え、どれどれ?」なんてだんだんと近しい関係のように話したり、自分の思った感想なども自然と口に出し始めたりする。
普段無言でうんうんと頷いてしまったり、手をパタパタさせて「レシート結構です」なんてやっている私もこの時ばかりは積極的に声を発していかなければならない。暗闇でうんうんしていても、誰にもそのメッセージは伝わらない。

いつもはぱっとしゃべれないモジモジ星人の私も、そこでは物怖じせずというかなんというか、そんなに抵抗なく声を出したり話をすることができた。
相手の顔色を伺ったり年齢などを考えたりしていないからというのもあるかもしれないし「見えない」という不安の中、ニックネームで呼び合って助け合う、ある種の仲間のような感覚があるからこそ人とコミュニケーションが取りやすかったのかもしれない。


そんな風にして、アテンドの方にリードされながらいくつかの場所をめぐる。私が以前行った時は「それではこれからバーにご案内します」なんて言われて、そこでみんなで見えないテーブルを囲み、飲み物を頼んで乾杯したりした。(暗闇でもしっかりビール飲みました)
談笑をしながら同じ体験をしている中でそれぞれがどう感じるのかを伝え合ったり、アテンドの方が実際の社会で見えない状況だとこんなことが起こったりするというのを教えてくれたりもした。

日が沈むわけでもなく、時計があるわけでもないので時間の感覚も普段とはまるで違って感じる。
そうしているうちにあっという間に90分の体験は終了した。


暗闇から帰ってきて、ゆっくりと前室に薄暗い照明が灯るとなんだか先程この部屋にいた時よりも、一緒に体験した人たちとの距離がとても縮まったように感じられる。
最初は同じ時間に予約した同じ回の人ねと、そこまで興味を示していなかったのが「あぁ!ツッキーさんって、こんな人だったのかぁ」なんて思ったり。さっそく視覚に頼っているとも言えなくもないが、体験を終えてからの「見る」はまた違った世界が見えたようにも思えた。


私たちが普段の生活の中でおそらく一番活用していると思われる「視覚」がない世界。そこで私は、他の感覚が研ぎ澄まされた時の心地よさや新しい感じ方を味わえたし、人とコミュニケーションができることの安心感やあたたかさ、その大切さを感じることができた。

今回私が体験した「内なる美、ととのう暗闇。~五感~」のプログラムは7月9日までの開催。そして、たまたま昨日知ったのだが7月15日からは夏期限定プログラムの『涼をつくる夏』というプログラムが始まるらしい。
こちらは日本の風物詩に着目したどこか懐かしい美しい日本の夏を味わえるとのこと。これも面白そうだなぁ。

外苑前のもの↑は18歳未満は体験できないそうなので、子ども連れの人はダイバーシティミュージアムのこちら↓の方が楽しめそう。価格もこっちの方がお手頃。


何者でもないのにめちゃくちゃ宣伝してしまった。
みなさんも暑い夏に、涼しい暗闇で普段とは違う感覚をフルに使った体験を楽しんでみてはいかがでしょうか。


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