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こだわり過ぎてバスの床になった私の部屋


思えば昔から「家」に興味があったのかも知れない。
小さい頃、友達の家に遊びに行くのが大好きだったのは、自分の家とは違う色々な家のかたちを見るのが楽しくてわくわくしたからだ。

中学生になる頃に実家が新築になった時も、いっちょ前にリビングの内装に口を出したり、カタログをしげしげと眺め「私の部屋はこれがいい!」と壁紙からカーテン、レース、カーテンレールに至るまで自分で選ばせてもらった。

そして私はその頃から「自分だけの空間」への思いが一層強くなり、気に入った小物や食器、壁飾りなどをコツコツと集め「いつか一人暮らしをした時に使うコレクション」をクローゼットに溜め込んでいった。


高校を卒業し、大学進学を期に満を持して一人暮らしをする際、私はあたらめてその集めたコレクションを広げ、持っていくものをダンボールに詰め込んだ。
さすがに中学生時代にかわいい!と思って買ったお気に入りのものは、成長した結果、"いや、これはもういらない...今見るとダサい。" みたいなものもあったが、数年かけて集めたものを散りばめた、自分だけの部屋に憧れを抱きながら、私は晴れて一人暮らしを始めた。


初めて借りた賃貸物件は、床に薄灰色のタイルカーペットが敷き詰められていて、部屋に入った私は早くも不満顔だった。
こんな床の部屋に住みたくない。
こんなの私の思い描いていた部屋じゃない。そう思った。

その頃の私のインテリアの趣味は、今にして思うとちょっと中二病っぽい謎のかっこよさを求めていて、高校生の男の子が好きそうなテイストのような、とにかく「黒とシルバー至上主義」であった。


引っ越しを手伝いに来た母は、不満げな私を見て「床グレーじゃん、あんたの好きな。」と言ったが、私はいやいや違うんだよ全然わかってないな〜などと偉そうに呆れ返った。

そもそもカーペットの部屋に住んだことがないのもあったが、私はその時、繊維というか糸というか、毛のような手触りの床というのが気に入らなかったのだ。

そして床に敷くものを買いに行こうと、母と家具店やらインテリアショップやら近くの店を探し歩いた。しかし、私の気に入るものはない。
それもそのはずで、大体床に敷くものといえばラグのようないわゆる「毛の素材」が多いのである。
中には撥水の、柄がプリントされたビニール製のクッションフロアのようなものもあったが、当時それらはフローリング調のような木目がプリントされているものなどが主流で、黒と銀しか許せない呪いにかかっている私のお眼鏡に適うものは見当たらなかった。


「毛が嫌だ!偽物の木目プリントもダサい柄も嫌だ!」とわがままを言って地団駄を踏む私に、母はうーんと考え「じゃあ東急ハンズでも見てみようか。インテリア用品もあるし、なんかロールの切り売りの敷物とかもあるんじゃない?」と提案してくれた。

こういう時に嬉しいのは、母のノリの良さである。
私の想像するような敷き物を探すべく、初めて都会に出てきてどこに何があるかもわからない私を、一応元々東京出身のシティガール(?)である母は東急ハンズに連れて行ってくれた。


そして、私はついに理想の床材に巡り会う。
それが、これだ。


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これである。

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引用:軽トラック荷台用ゴムマット




ちなみに第2候補がこれだ。

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引用:高密度 軽トラック 荷台用ゴムマット


いずれにしてもすごい。
これを部屋の床一面に敷いて、春からのキャンパスライフを待ちわびる女子大学生がいるだろうか。

いた。私だ。


主に軽トラの荷台に使われているなんてその時の私はつゆ知らず、初めての自分だけの空間づくりにアドレナリンを大放出し、マイワールドを炸裂させている私と、気に入ったならまぁいっか、とりあえず決まればなんでもいいわ、な母。
止める者はそこには誰もいなかった。
家の床に敷くと言われたハンズの店員くらいは、ギョッとして止めようとしていたかもしれない。

無論気に食わない灰色の床全面に敷き詰めるつもりでいたので、ちゃんと細かく床のサイズを図ってきていた私は、もはや覚えていないのだがおそらく15〜20mほどそのシートを購入しただろうか。
今思い返すと本当に全力で自分を止めてあげたい。


1m幅のブツブツが延々と並ぶロールシートをどうにかつないで、見事真っ黒で"毛のない床"を作り上げた私は大満足だった。
このマンションの中でどの部屋よりもかっこいい自信があった。
この家から私の素敵なキャンパスライフが始まると信じて疑わなかった。


ところが大学に入学し、程なくして初めて友人が我が家に訪れたときの言葉に、私の心は引き裂かれることになる。


「え?ここライブハウスですか?」
「うわっなにこれやば!バスの床じゃん!」
「なんか工事現場みたいだね」
「これなに?ビニール?ゴム?変な匂いする〜」


辛辣なその言葉たちに、まだ数ヶ月の付き合いだったが彼らとは本音でぶつかり合える友達になれそうだな...なんて思い、涙目になりながらもここで初めて私は、自分の趣味が通常の女子大学生と比べるとちょっと違う方向に尖りすぎているかもしれないということに気がついたのだった。

そんな言葉を受けつつも、自分では気に入っていたのでそのまま使い続けたが、私は周りの評価を静かに受け止めた。

私の家の床ストーリーは今でもいい酒の肴となっていて、あの時我が家に来た彼らと久しぶりに会うと必ずと言っていいほど「バスの床!」という他人からすると謎過ぎるワードで爆笑するほど、定番の思い出話となっている。


そして私はあの時、思う存分好きなようにやらせてくれた母にも、思ったままの感想を言ってくれた友人たちにも感謝している。
あの時の私がいて、今の私がいるのだ。


現在、私の家の床には、あの時散々嫌っていた「毛」をこれでもかと集めて織り込んだインド綿のラグが敷いてある。


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