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「 僕らは生きている。 」エピソード2






































太陽がキラキラとより一層
輝きを増している。




8月の風がやって来て

私の葉に話しかけている。






もう夏か…………。









風と葉が話している


「今年は来るだろうか…」

「きっと来ないさ。」


「……………。」



















夏が来ると思い出す。


昔、変わった人間がいたことを…。























私はただの杉の木だ。



神社で御神木と言われ大切に
されている木ではない



ただの木。



雨の日は
恵みの雨を感じ

鳥や虫たちが私にとまり
雨宿りをする。

晴れた日には
葉たちが喜び艶々と輝く

時折、風と共に揺れ話しをする。


今日は晴れ。



いつもと変わらない
なんでもない日が始まろうとしていた。


そんな時だった。















カサッカサッ


「ん………?」



何かが近づいてくる。









 


「あ、杉の木だ。」







それは、人間の少女だった。




「ふーん、ここは良い所ね〜」




少女はシートを広げて座り
私に手と耳を当て目をつぶりながら
小さな声でこう言った




「水をとおしている…。」

「生きているのね。」 と。





「樹齢100年ってとこかしら?
あなた、立派な木ね。」











変わった人間だった。



私は木だから動けないし
話もできない。



けれど彼女は話しかけてくる。





次の日も、その次の日も彼女は毎日私の所へ
やって来た。


彼女の噂はすぐに広まり
虫や鳥たちが私の所に集まっては
彼女の話を聞くのだ


彼女は本に書かれてある詩を
時折、私たちに読み聞かせる。










虫たちは土を耕し

鳥たちは世界の均衡を守っている。

木々たちは他(た)の生き物たちとの
絆を結び、永遠(とわ)に世界を守るのだ。


                   」




「私とあなたも
きっと絆で結ばれているのね。」


彼女は私を見て話しかける。


私は風に頼んで体を揺らす

「サワサワ………」







「…………?」


彼女は不思議な顔をした後
とても嬉しそうに笑った。




私は嬉しかった。








そんな彼女との何気ない日々が続き

夏が終わり
秋が始まろうとしていた時のことだった。







いつものように彼女は来た。





だが、彼女はどこか悲しげな顔をしている。



いつものようにシートを広げて座ると


私を見てこう言った。


「私、もうここには来れないの
だから今日でさよならなの。」







私は初めて
胸を引き裂かれる思いを感じた。


「 楽しかったのだ。」
心から彼女との日々が楽しかったのだ…。


あぁ…

なんて苦しいのだろう

なんて悲しいのだろう

なんて寂しいのだろう………。





私は風に頼み体を揺らした


「サワサワ……」







彼女は立ち上がり
私の体を優しく撫でた。


「………またね。」








そして
彼女はもうここに来ることはなかった。









あれから何度季節が巡ったのだろう
彼女は元気なのだろうか…。

そんなことを考えていた時だった。











風が私に話しかける

「人間がやって来ます。2人の人間が…」


「2人…?」








カサッカサ…


















「やっと着いた!懐かしいなぁ…」

「ママっ大きな木だねっ」









それは、彼女だった。
一度も忘れたことなどなかった。





彼女は
子供を連れて会いに来てくれたのだ。





「この木はね、ママの大切な友達なの。」

「だからあなたも、大切にしてね。」

「うん!解ったよママ!」






「10年振りね。」

彼女は目をつぶり
私に手と耳を当て小さな声で
こう言った。


「会いたかった。私を覚えてる?」



私は風に頼んで体を揺らす


「サワサワ……」






すると彼女は笑った。

























「 

あぁ…懐かしい笑顔だ。

私も君に会いたかったよ

どれほどの季節が巡ろうとも
君を忘れたことはなかった。


君が私に触れた時の手のぬくもりを

人間に触れられることが
こんなにも愛おしく感じるなんて

私はただの杉の木なのに

なんで君は私を愛でるのだろう

幸せで苦しいぢゃないか

こんな感情を知ってしまって

君がまたいなくなってしまったら

寂しいぢゃないか…。



愛しい君よ

今日がもし最後の日ならば

君に伝えよう

私はずっと君を忘れないよ

人間と木の寿命は違う

きっと先に君が死んでしまうだろう。

だから君がいつか死んでしまっても

君は私の中で生き続けるんだ

ありがとう… ありがとう…。

ずっと見守っているよ。

                   」




























一それから30年一



あの日以来
彼女はここに来ることはなかった。



でも大丈夫

彼女は私の中で生き続けているのだから。

                   」






※長い文を最後まで読んで下さりありがとうございますm(_ _)m 今回は木の気持ちを表現してみました。何かを感じて頂けたら幸いです。





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