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自分らしく生きる―私のバイブル『本屋さんのダイアナ』

数ある本のなかで、「一番お気に入りの本は何か」「1冊選ぶとしたらどれにするか」と聞かれたら、私は柚木麻子著『本屋さんのダイアナ』(新潮社)と答えると思う。

この作品は私にとってバイブルといえる物語だ。初めて読んだ時はヒロインの1人である彩子に自分を重ね合わせ、自分の物語のようにも思えて、この本をずっと大切にしていきたいなと思った。それ以来、時折再読している。

乙女心をくすぐられる表紙

その本に出会ったのは大学1年生の秋。私はいつも図書館で本を借りて、お気に入りのものだけ本屋で購入するというスタンスだが、その日は本屋でこの作品と出会ってしまった。

前から大好きだった柚木麻子さんの小説であったことに加え、何より装丁に惹かれた(トップ画像は本書の裏表紙にあるイラストです)。

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黒地の背景に黄色、白、水色で花々が散りばめられている。真ん中には花かんむりをつけて本を持っている女の子。乙女心をくすぐられる可愛らしいデザインだ。帯に記載された「すべての女子を肯定する現代の『赤毛のアン』」、「試練を越えて大人になる、二人の少女の15年間」といった言葉たちにも惹かれた。そのうえなんとサイン入り本であった。

お気に入りの本でないと、買っても一度しか読まないからもったいないと思ってしまうが、この本は自分を惹きつけるものを感じたので、買うことにしたのだった。

見た目も家庭環境も正反対の女の子

父がおらず、キャバクラで働く母と二人暮らしをするダイアナ、お金持ちで家庭も円満、愛されて育った彩子。二人の少女の視点が交互に描かれる。家庭環境も、性格も、見た目も正反対の二人は、共通の趣味である読書を通じて互いに惹かれ合っていく。自分とは正反対の相手を互いに尊敬し、憧れるようになる。

どちらの視点も描かれることで、どちらの心情も味わえるのが面白い。例えば、ダイアナは彩子のことを、(黒髪で上品で可愛い。お父さんもお母さんも優しくていいな。手作りのお菓子とか、あったかい手料理が食べられて羨ましい!広くてお金持ちの家に憧れる!)と思っていると、対して彩子はダイアナのことを、(金髪で物語に出てきそうな女の子で可愛い。キラキラしててお姫様みたいなお母さん素敵。インスタント物やスナック菓子に憧れる!シングルマザーに育てられるなんて、たくましい!)などと思っているのだ。

自分を愛せない二人

二人は互いを尊敬し憧れ合う一方で、自分のことを愛せていない。ダイアナは母が父と相談してつけたくれたという自分の名前が大嫌いで、ろくに家事もできず忙しい母にはうんざり。彩子は守られた狭い環境のなかで不満を感じ、穏やかで平坦な毎日がずっと続いていくことを悲しく思う。

私は彩子を見ていて、自分のことのように思った。円満な家庭で育てられ、母は料理が上手で、中高を女子校で過ごした彼女の境遇は、私の環境ととても似ていた。それから読書が大好きなところも。彼女ほど環境に不満を感じることはなかったが、子供の頃は「お嬢様」といわれることがあまり好きではなかった。私だってみんなと変わらないのに、なぜか特別扱いをされて、いじられることもなかった。それをつまらなく思うこともあった。

当時、私と仲良くしていた友達はシングルマザーに育てられた子が多かった。彼女たちは母と取っ組み合いの喧嘩をしたり、学校から帰った後も、親が働いていて家にいないから学童に通っていたりして、自分とはまったく違う世界に生きていた。寂しそうな彼女たちの話を聞いて不憫に思うこともあったが、なんだかたくましく見えた。子供なのに自立していて、自分の意志がしっかりあってかっこよかった。彩子の心情を追いながら、当時の自分が思い出された。

彩子は自分が嫌になって外の世界に憧れ、道を踏み外してしまう。かなり衝撃的で、目をふさぎたくなる場面だが、別の世界に足を踏み入れてみたいとか、もっと広い世界に行ってみたいとか、そういう気持ちは私にもわからなくもなかった。

試練を越えて大人になる

ダイアナも彩子も様々な経験を経て、15年後のラストに向かっていく。ダイアナもダイアナで道を踏み外しそうになる。でも、そうした経験が彼女たちの自分らしさを引き出したのではないかと思う。様々な経験があったからこそ、自分らしさに気づけた。経験してみないとわからないし、自分を嫌いなままで、何も変わらなかったかもしれない。

人はどうしても他人を羨ましく思ってしまうが、結局落ち着くところは「自分」でしかない。道を踏み外した経験もすべてが無駄ではないし、今後の自分につながっていくのだろう。

子供の頃は「お嬢様」といわれるのが嫌などと思っていたが、今はそう思わない。性格も育った環境も見た目も、すべてが他にない自分の個性なのだと気づいたからだ。お嬢様といわれるのは名前のせいでもあるだろう笑 名前も個性を形づくるものの一つだと思う。

作家のはっとり先生がダイアナに渡してくれた本『アンの愛情』の引用が、この物語にも通ずる言葉であり、帯のキャッチコピーにあるように、まさに”現代の赤毛のアン”だなと思った。

<人生には、待つということがよくあるものです。自分の希望どおりにまっしぐらに進める人はもちろんしあわせだと思いますが、たとえ希望どおりに進めなくても、自分にあたえられた環境のなかでせいいっぱい努力すれば、道はおのずからひらかれるものです。こういう人たちは、順調なコースにのった人たちよりも、人間としての厚みも幅もますように、わたしには思えるのです>

ダイアナも彩子も自分で自分に呪いをかけてしまっていた。自分の呪いを説けるのは自分だけであると気づき、そして自分を大切にしようと思えるようになった二人の成長に胸を打たれる。

二人の成長以外にも、ダイアナの母・ティアラの知られざる過去、父の真相、ダイアナを想うクラスメイト・武田君の優しさなど、周囲の人々の行方にも注目してほしい。友情、家族愛、親子愛も詰まった素敵な作品だ。

↓こちらは文庫本。文庫の装丁も可愛い♡


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大学時代に校内書評コンクールで本書について書き、入賞した作品も載せておきます。似たようなことが書いてあるかもしれませんが、よろしければこちらも読んで頂けたら嬉しいです。
この年は別作品で最優秀賞も頂いたので、その作品についてもまたnoteに綴る予定です☺︎



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