hidari

備忘録としての

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  • ばらけた日々のまとめ

    note第二章です

  • 忘れない切り取り日常

  • たたみの生活、朝の静けさと

最近の記事

茶色い三角形が見えた時

5月の末に飼っていた犬が亡くなった。 それだけ聞くととても悲しい出来事のように、かわいそうなことのように思われてしまうかもしれないけれど、彼女はもう15歳で、腰は元々悪くて年々曲がってきていたし、そのせいで後ろ足はいつも引きずり気味で歩きにくそうで、でも一生懸命で、ご飯は大好き家族でいちばん食いしん坊、そしていちばんのご機嫌さんで、大往生だった。 たくさん話したし、一緒に散歩へ行き、花を見て匂いを嗅いで、すずめやカラスを見て、まだ小さい頃に鳩に近づこうとしたらバサバサと羽を

    • 春の樹海、毛布にくるまった胞子、足首の傷

      冬のおわりにみかんのジャムを作る。 まだいけるだろうと置いていたみかんが、皮にかびが生えていて急いで作る。グラニュー糖は家にないので、きび糖。最近、我が家はしばらくきび糖。砂糖は体にわるいと言うけれど、砂糖はほんとうに体にわるいんだろうかと思う。思考がにぶくなるとか頭がいたいとか、砂糖の摂りすぎですよ、と言われると、摂りすぎていた場合は反省するけれど、なかなか料理にもお菓子にも砂糖を使ってしまう文化の中にいる。だって、甘いとおいしいもんね。 春は雨が多い。花粉があまり飛ばな

      • ガラス越しの暮らしの中で

        いよいよあったかくなってきた。去年も3月の中旬くらいから一気にあったかくなって、末はもう暑いくらいだった覚えがある。お花見も暑かったし、塩屋も暑かったと思う。塩屋はもうちょっとあとだったっけ。 去年は環境がぐるんと変わって、だんだん歩くのが遅くなって、立ち止まってただ遠くを見てばかりいた気がする。みんなはすごいけど、私には同じことをできないし、きっとこのままどこにも行けずに死んでいくんでしょう、と思いながら年を越した。誰にも会わなさすぎて、私を叱責してくれる友だちはいなかっ

        • 地底人の作ったいかだに乗って

          電車のいすに座っていると、いろんな音が聞こえてきてちょうど眠たくなる。30分か40分か気がついたら目が覚めて、窓の外を見たら山がたくさん見えた。この景色を見たかった気がする。 海沿いの山道を登って、風が気持ちいいカフェに連れて行ってもらった。お店の人たちは、ちょうどよく放っておいてくれて、来ている人みんながのびのびと、くつろいでいる。こんな場所があるっていいな。 もう使われなくなったイカリやなにかの標本が広い二階の空間にぽつぽつと置かれていて、中でも静かに佇む黒いグランドピ

        茶色い三角形が見えた時

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        • ばらけた日々のまとめ
          2本
        • 忘れない切り取り日常
          62本
        • たたみの生活、朝の静けさと
          1本

        記事

          横目で見とめたきみの欠伸

          クーポラ、という言葉の意味をぼんやりとしか知らないけれど、どうしてか好きで、その響きがいいのかも。まるくドーム型になった天井は、日本ではあまり見かけない建築だから、たまに見かけると感動する。 いつかイタリアでこれぞクーポラな建造物を見てみたい。 夏だから、冷たい食べ物の写真をよく見かける。かき氷、こおり。 私はお腹が弱いので、かき氷はもう何年も食べていない。うそ、一昨年盆踊りで食べた。 でもここ数年の流行りの大きなそしてリッチなかき氷はまだ一度も食べたことがない。見ているだ

          横目で見とめたきみの欠伸

          灯台守の午睡

          雨の音とトラックの走り去る音、それから時々ページをめくる音だけが聞こえる。深夜2時。 たったひとつの言葉を見かけただけで、いつくもの記憶が掘り起こされて、そこからはもうなにも考えられなくなる夜もある。 ドライにしようと干した葉っぱの束を、しばらくしてから嗅いでみると、お茶のにおいになっていた。 煎じれば、お茶になるのかもしれないけれど、飲むのが怖いのでやめておく。 本の形をした、缶のケースになにを隠そう。時々思い立って作るビーズの指輪を入れてみようか。 ビーズの指輪

          灯台守の午睡

          馬の背をなでる

          誰もいない部屋で音楽をかけることがあって、それは朝起きてキッチンでコーヒーをいれている間、iPhoneはその時々の気分にあったプレイリストを私が不在の部屋で鳴らし続けるという感じで、その微かな音量での音楽が、キッチンまで聞こえてくる日もあれば、聞こえない日もある。 お風呂に入っている間もずっと音楽をかけている時もあって、でも、外出するときに音楽をかけたまま出かけることはなくて、聞こえていないけれど、空間に音楽が流れている、という事実が必要な時がある気がする。 雨上がりの公

          馬の背をなでる

          夢からはみ出した耳と角

          銀色の日 よく曇った日で、銀色だと思ったのはその空のことだったか、いただいたロールケーキに添えられたフォークだったか、それは詩を書き出したノートの鉛筆だったか、もうわからないけれど、あの日は銀色だったと、後になってそう思う。 四月の初め、星丘へ行ってきた。 入り口から一歩踏み込めば、そこからいっぱいの緑で、どちらへ進めばいいのかわからずに、奥の草原へ進んでいくと、ウクレレの音がしてきて、音のする方へ進んでいくと、木の机を囲んでウクレレ教室が開催されていて、とても自由な場所

          夢からはみ出した耳と角

          砂糖入りの紅茶、たき火と白

          伊達眼鏡をかけて出かける。 度が入っているめがねのことは知らないけれど、瞳に入るまでの光の屈折はカメラのレンズと少し似ている気がした。カメラで撮った写真とはちがう、もっと細かく分散する光。 これが写真にも写ればいいのに、と思う。思ったあとで、写らなくていいのかもしれない、とも思う。 クリスマスの朝の記録 クリスマスの朝 世界を包んだ濃い霧が染み込んだアスファルトは 人々が踏むごとに乾いて日常へ戻っていく 旧グッゲンハイム邸はとにかく良い光が入る場所だった。暖炉の痕跡、廊

          砂糖入りの紅茶、たき火と白

          薬指の緑青、寒い冬の朝の海

          眠れずに朝を迎えたリビングで今から海へ行こうと思い立つ。熱々のコーヒーを魔法瓶にいれて、暖かくて大きなマフラーをぐるぐると体に巻き付けて、玄関のドアを開ける。 朝日が昇る前、まだ薄暗い道を白い息を吐きながら進む。この道を抜ければつめたくてやわらかい砂浜が待っている。 いつか海辺の街に住んだら早朝の海へ行こうと思った。 久しぶりにコーヒー豆を買う。 豆を挽く機械はないのでお店で挽いてもらう。いつまでたってもコーヒーをおいしくいれることができないけれど、それでもコーヒーをい

          薬指の緑青、寒い冬の朝の海

          遠くの雷、真夏の毛布

          本、読んでも読んでもきりの良いところまで行かなくて結局読み切ってしまった午前4時。外はまだ全然明るくなくて、隣家のトタンに止みかけの雨が落ちる音がする。 いつまでも能天気でいるので、わたしだけ現実じゃないのかもしれないと時々錯覚する。 むかしすきだった人は結婚をしてもう子どももいるのかもしれなかった。 そういう、みんなの現実を、半透明のうすい膜の外からいつも眺めているような、そう思うときがある。 いつまでもひとりきりでいるので、このままずっとずっと遠くまで行ってしまえるんじ

          遠くの雷、真夏の毛布

          知らない街の美術館、無色のプリズム

          どうしようもなく持て余してしまった夜、散歩に出かける。街はまだまだ働いている。巡回中のおまわりさんが道をゆずってくれた。 二ヶ月ごとの壁掛けカレンダーは、ページをめくるのは残すところあと一回で、夜、五分は一分のペースで時間が進む。 ポトスが土から水を吸い上げて、葉っぱから水が滴り落ちるのを見て泣き出しそうになる。 期待も興味もきりきりと私をむしばんで、眠るまでに何度も寝返りを打つ。私たちはひとりきりで生きている。 なつかしい人を思い出して、会いたくなってはどうしようも

          知らない街の美術館、無色のプリズム

          透明なガラス、どこにもない砂浜

          高架下の喫茶店で、うとうとしながら本を読んでいた。眠気覚ましのホットコーヒーはまったく効用なしで、飲んでも飲んでも眠さは脳を支配したままだった。 夏は気付けばずいぶん過ぎ去りつつあって、朝晩は涼しい日が増えてきた。夜、みんなが寝静まった家の中は冷房がよく行き渡り、朝はひんやりとしている。セミはもう遠くでしか鳴いていない。 この前見た動画を思い出している。中央公会堂の中にはとても良い光が差し込む。まるでフランス映画に出てくるような、少女たちのバレエスクールみたいな雰囲気で、

          透明なガラス、どこにもない砂浜

          陽があたる場所ばかりを探している

          平穏な生活を送るために、救いになるようなことばかりをしている。なにも考えないで済むように、隙間なく救いで埋め尽くすような生活を送っている。そうでもしないと、憂鬱の浸食を止められないと思った。 眠る時間を削って読書をすることにした。同じ行を何回も読んでしまうくらいに眠くなったら本を閉じてそのまますぐに眠りに就けるように。 髪を乾かす時に大きな音で音楽を聞いたりラジオを聞くことにした。歌いながら時々笑ってしまいながら、そうすればなにも考えなくて済むように。 日記を書くことに

          陽があたる場所ばかりを探している

          ページを繰る音、コップの水滴

          窓を開ける時間が増えた。 壁に貼った写真やフライヤーが床に落ちていることも増えた。 紙を壁に貼るのが好きだ、と思う。 きょうは休みでとてもよく寝た一日だった。 同じ夢の続きを見続けることができる時がある。ずっと会話をしている夢だった。 もうそろそろこの夢はいいかな、と思ったところで眠りから覚めた。 ヨーグルトを食べながらツイッターを見たら、ハヌマーンがトレンド入りしていた。 先日、仕事終わりに古書店に寄った。 横に長い本棚の前には横に長い椅子が置いてあって、そこに腰掛けた

          ページを繰る音、コップの水滴

          冬と春の空気のかけら

          最初は怒りだったのに、だんだん悲しくなってきて、泣いた。久しぶりに、泣いた。 仕事が休みになって、家にいる時間がうんと増えて、それでもなかなか上機嫌に暮らしていたけれど、たった一つのことでふいに台無しになる。 人の悪意が見えた時とか、自分の中にもそんなような悪意が芽生えた時、悲しくて虚しい気持ちになる。 平穏だけがある生活はどこにも存在しないのかもしれない。 ここしばらくは、 本と睡眠とパン作りの日々だ。 昭和の終わりに第六四刷として書店に並んだ一冊。 緑地公園の近く

          冬と春の空気のかけら