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灯台守の午睡

雨の音とトラックの走り去る音、それから時々ページをめくる音だけが聞こえる。深夜2時。

たったひとつの言葉を見かけただけで、いつくもの記憶が掘り起こされて、そこからはもうなにも考えられなくなる夜もある。


ドライにしようと干した葉っぱの束を、しばらくしてから嗅いでみると、お茶のにおいになっていた。

煎じれば、お茶になるのかもしれないけれど、飲むのが怖いのでやめておく。


本の形をした、缶のケースになにを隠そう。時々思い立って作るビーズの指輪を入れてみようか。

ビーズの指輪をひとつ作るたびに、少し晴れやかな気持ちになれる。だから、なにかもやもやとしてきたら、透明の糸に、無心になってビーズを通すことにしている。

缶の中がいっぱいになる頃、なにかが変わるかもしれない。なにも変わらないかもしれない。


全員に、全員というのは本当に全員に、いやな気持ちを抱かずに優しくできたらいい、と思っていて、そして、そうできるのが正しい、そうなるべきだ、とつい最近まで思い込んでいた。でもそんなのはむりだ。

むりってこともないけれど、むりしてすることではなかった。
そんなことを朝の公園を外側から眺めながら考えていた。私は私だけの場所をしっかり守っても良いのだと思った。


街を縫い、海をすべり、砂漠を泳ぎ、山に沈み、そして雲間に溶ける。

記憶の断片は、光が当たるまで静かに佇んでいる。ずっとそこにあったくまのぬいぐるみのように。


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