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忘れない切り取り日常

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地底人の作ったいかだに乗って

地底人の作ったいかだに乗って

電車のいすに座っていると、いろんな音が聞こえてきてちょうど眠たくなる。30分か40分か気がついたら目が覚めて、窓の外を見たら山がたくさん見えた。この景色を見たかった気がする。

海沿いの山道を登って、風が気持ちいいカフェに連れて行ってもらった。お店の人たちは、ちょうどよく放っておいてくれて、来ている人みんながのびのびと、くつろいでいる。こんな場所があるっていいな。
もう使われなくなったイカリやなに

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横目で見とめたきみの欠伸

横目で見とめたきみの欠伸

クーポラ、という言葉の意味をぼんやりとしか知らないけれど、どうしてか好きで、その響きがいいのかも。まるくドーム型になった天井は、日本ではあまり見かけない建築だから、たまに見かけると感動する。
いつかイタリアでこれぞクーポラな建造物を見てみたい。

夏だから、冷たい食べ物の写真をよく見かける。かき氷、こおり。
私はお腹が弱いので、かき氷はもう何年も食べていない。うそ、一昨年盆踊りで食べた。
でもここ

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灯台守の午睡

灯台守の午睡

雨の音とトラックの走り去る音、それから時々ページをめくる音だけが聞こえる。深夜2時。

たったひとつの言葉を見かけただけで、いつくもの記憶が掘り起こされて、そこからはもうなにも考えられなくなる夜もある。

ドライにしようと干した葉っぱの束を、しばらくしてから嗅いでみると、お茶のにおいになっていた。

煎じれば、お茶になるのかもしれないけれど、飲むのが怖いのでやめておく。

本の形をした、缶のケース

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馬の背をなでる

馬の背をなでる

誰もいない部屋で音楽をかけることがあって、それは朝起きてキッチンでコーヒーをいれている間、iPhoneはその時々の気分にあったプレイリストを私が不在の部屋で鳴らし続けるという感じで、その微かな音量での音楽が、キッチンまで聞こえてくる日もあれば、聞こえない日もある。

お風呂に入っている間もずっと音楽をかけている時もあって、でも、外出するときに音楽をかけたまま出かけることはなくて、聞こえていないけれ

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夢からはみ出した耳と角

夢からはみ出した耳と角

銀色の日

よく曇った日で、銀色だと思ったのはその空のことだったか、いただいたロールケーキに添えられたフォークだったか、それは詩を書き出したノートの鉛筆だったか、もうわからないけれど、あの日は銀色だったと、後になってそう思う。

四月の初め、星丘へ行ってきた。
入り口から一歩踏み込めば、そこからいっぱいの緑で、どちらへ進めばいいのかわからずに、奥の草原へ進んでいくと、ウクレレの音がしてきて、音のす

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薬指の緑青、寒い冬の朝の海

薬指の緑青、寒い冬の朝の海

眠れずに朝を迎えたリビングで今から海へ行こうと思い立つ。熱々のコーヒーを魔法瓶にいれて、暖かくて大きなマフラーをぐるぐると体に巻き付けて、玄関のドアを開ける。

朝日が昇る前、まだ薄暗い道を白い息を吐きながら進む。この道を抜ければつめたくてやわらかい砂浜が待っている。

いつか海辺の街に住んだら早朝の海へ行こうと思った。

久しぶりにコーヒー豆を買う。
豆を挽く機械はないのでお店で挽いてもらう。い

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遠くの雷、真夏の毛布

遠くの雷、真夏の毛布

本、読んでも読んでもきりの良いところまで行かなくて結局読み切ってしまった午前4時。外はまだ全然明るくなくて、隣家のトタンに止みかけの雨が落ちる音がする。

いつまでも能天気でいるので、わたしだけ現実じゃないのかもしれないと時々錯覚する。
むかしすきだった人は結婚をしてもう子どももいるのかもしれなかった。
そういう、みんなの現実を、半透明のうすい膜の外からいつも眺めているような、そう思うときがある。

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知らない街の美術館、無色のプリズム

知らない街の美術館、無色のプリズム

どうしようもなく持て余してしまった夜、散歩に出かける。街はまだまだ働いている。巡回中のおまわりさんが道をゆずってくれた。

二ヶ月ごとの壁掛けカレンダーは、ページをめくるのは残すところあと一回で、夜、五分は一分のペースで時間が進む。

ポトスが土から水を吸い上げて、葉っぱから水が滴り落ちるのを見て泣き出しそうになる。

期待も興味もきりきりと私をむしばんで、眠るまでに何度も寝返りを打つ。私たちはひ

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透明なガラス、どこにもない砂浜

透明なガラス、どこにもない砂浜

高架下の喫茶店で、うとうとしながら本を読んでいた。眠気覚ましのホットコーヒーはまったく効用なしで、飲んでも飲んでも眠さは脳を支配したままだった。

夏は気付けばずいぶん過ぎ去りつつあって、朝晩は涼しい日が増えてきた。夜、みんなが寝静まった家の中は冷房がよく行き渡り、朝はひんやりとしている。セミはもう遠くでしか鳴いていない。

この前見た動画を思い出している。中央公会堂の中にはとても良い光が差し込む

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陽があたる場所ばかりを探している

陽があたる場所ばかりを探している

平穏な生活を送るために、救いになるようなことばかりをしている。なにも考えないで済むように、隙間なく救いで埋め尽くすような生活を送っている。そうでもしないと、憂鬱の浸食を止められないと思った。

眠る時間を削って読書をすることにした。同じ行を何回も読んでしまうくらいに眠くなったら本を閉じてそのまますぐに眠りに就けるように。

髪を乾かす時に大きな音で音楽を聞いたりラジオを聞くことにした。歌いながら時

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ページを繰る音、コップの水滴

ページを繰る音、コップの水滴

窓を開ける時間が増えた。
壁に貼った写真やフライヤーが床に落ちていることも増えた。
紙を壁に貼るのが好きだ、と思う。

きょうは休みでとてもよく寝た一日だった。
同じ夢の続きを見続けることができる時がある。ずっと会話をしている夢だった。
もうそろそろこの夢はいいかな、と思ったところで眠りから覚めた。
ヨーグルトを食べながらツイッターを見たら、ハヌマーンがトレンド入りしていた。

先日、仕事終わりに

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冬と春の空気のかけら

冬と春の空気のかけら

最初は怒りだったのに、だんだん悲しくなってきて、泣いた。久しぶりに、泣いた。

仕事が休みになって、家にいる時間がうんと増えて、それでもなかなか上機嫌に暮らしていたけれど、たった一つのことでふいに台無しになる。

人の悪意が見えた時とか、自分の中にもそんなような悪意が芽生えた時、悲しくて虚しい気持ちになる。
平穏だけがある生活はどこにも存在しないのかもしれない。

ここしばらくは、
本と睡眠とパン

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ピンク色のコンバース

ピンク色のコンバース

本を読むことにした。
それから、人のおすすめをきちんと聞くことにした。
そして、できるだけ考えごとをすることにした。

犬の散歩でよく行く公園には、散歩代理のおじいさんがいる。
犬を連れてくるのは自転車に乗ったおじいさんで、その犬を散歩させるのは、いつも公園をぐるぐる散歩しているおじいさん。
自転車のおじいさんは(たぶん)歩くのが少しつらい。でも犬は元気だから、草をかき分けてぐんぐん進むし、ほかの

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ソファの記憶

ソファの記憶

子どもの頃の公園と大人になってからの公園は違う。
それは明るい時間に行っても夜に行っても同じで、大人になってからの公園は、なんとなく なぐさめ に近い気がする。

眠る時間が増えると、夢がどんどん生活を侵略してくることに気付いた。
夢の続きは容易に見ることができて、でも陽が登ってからの夢は大体後味が悪い。

写真アプリで、“夜”と検索をかけてでてきた写真たち。

前の家の自分の部屋にある小さな窓が

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