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ガラス越しの暮らしの中で

いよいよあったかくなってきた。去年も3月の中旬くらいから一気にあったかくなって、末はもう暑いくらいだった覚えがある。お花見も暑かったし、塩屋も暑かったと思う。塩屋はもうちょっとあとだったっけ。

去年は環境がぐるんと変わって、だんだん歩くのが遅くなって、立ち止まってただ遠くを見てばかりいた気がする。みんなはすごいけど、私には同じことをできないし、きっとこのままどこにも行けずに死んでいくんでしょう、と思いながら年を越した。誰にも会わなさすぎて、私を叱責してくれる友だちはいなかった。人に会わないでいると、ひとはどんどんひとりになっていくのね、と思った。

それで先月から新しい職場で働き始めた。街の自転車屋さん。いつか私が自転車屋さんで働きたいと漏らした人には、あぁ!と思ってもらえるかもしれないけれど、まさか30を目の前に自転車屋さんで働くことになるとは思っていなかったのでうれしい。伝えたい人に伝えている、私いま自転車屋さんで働いてるんです、と。

本屋さんでは私は接客業務はなくて事務所での裏方仕事なので、街の自転車屋さんで暮らす人々と話す機会があるのがうれしい。毎日たのしく働いている。喜んで空気お入れします。

本屋さんにももうほんといろんな人が来るけれど、自転車屋さんにもいろんな人が来る。家族連れの方や同棲してるのかふたりで一台を契約しにきたっぽい恋人たち、プレゼントしたいのと見に来られる方、おばあさんは基本的には修理が多くて、おじいさんは時々新しい自転車を買う。この前もう一年も乗るかわからんけどとヘルメットを買っていかれた。老ジョークの返しがまだわからない29歳。ばあちゃんもよくもう棺桶に片足突っ込んでると言う。老ジョーク。

算数ができて家計を知っている子どもは、安い自転車でいいと言う。お金がないおじさんも安い自転車でいいと言う。再婚相手の父親がお金を払うので、母親の陰にずっと隠れている子どもがいる。乗れたらなんでもいいんです、と一刻もはやく帰りたい人もいる。その中で、私たちは保証であったり部品やオプションをおすすめしたりしていく。ここに来る人たちは、生活ごとやってくる感じがある。全員がそうではないけれど。お金、ないよね、ここにそんなお金かけられないよね、とものすごくわかる。新車を買う時に前に乗っていた自転車を引き取って、これまだ乗れるから整備して乗ったってなと言われる。自転車を大切に乗っていたひと、ずっとずっと野晒しで放置していた人、いろんな自転車をみんな持ってくる。接客の中でぽろっとこぼした一言から、その人の暮らしを少し想像したりして、尊いなぁと思う。
修理したり、新車を買ったり、みんな明日も自転車に乗ろうと思っている。私はそれを見ながら、本当にうれしい気持ちになる。

これから明るくなっていくのかやっぱり死を予感するのか、でもいまのところたのしくやっています。
私の歓迎会もやってくれるそうです。うれしい。
また近いうちに会いましょう。

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