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薬指の緑青、寒い冬の朝の海

眠れずに朝を迎えたリビングで今から海へ行こうと思い立つ。熱々のコーヒーを魔法瓶にいれて、暖かくて大きなマフラーをぐるぐると体に巻き付けて、玄関のドアを開ける。

朝日が昇る前、まだ薄暗い道を白い息を吐きながら進む。この道を抜ければつめたくてやわらかい砂浜が待っている。

いつか海辺の街に住んだら早朝の海へ行こうと思った。

久しぶりにコーヒー豆を買う。
豆を挽く機械はないのでお店で挽いてもらう。いつまでたってもコーヒーをおいしくいれることができないけれど、それでもコーヒーをいれる時間が好きだと思う。まずお湯を沸かすという工程が良い。

お湯を沸かすのはうれしい予感。
コーヒーをいれる予感。
お味噌汁をつくる予感。
あついお風呂に入る予感。
にししと深夜にカップラーメンを食べる予感。

前に住んでいた家は日当たりがよくて、別の場所に住んでからようやくその素晴らしさに気が付いた。
昔は日当たりなんて気にしていなかったけれど、いまは気付けば少しでも良い光がさす場所を探してばかりいる。

私はきょうも宇宙の片隅で、暖かい秋を捕まえる作戦を練ったり、素敵なネイルをしたためたり、シャツにアイロンをかけたり、あした読む本のことを考えたり、スープのことを考えたりしている。

会えなかった人たちには夢で会おう。夢の中で、たくさんハグをして、良かったね良かったね、と言って、何回でも乾杯をして、何回でもピザを焼こう。

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