ランナーズハイ【ザイオン・コロブキャニオン】
ヘッドランプは必要ない。走り始めてから1時間。スタート時点ではうす暗く平面的だった周囲の景色。漸く立体感を伴うものとしてその姿を現し始めた。悴んでいた指先もすっかり温まった。気温は10度を超ただろう。太陽の光は未だ高い峰々に遮られ、コロブ・キャニオンの谷間には達していない。
先ほどから何度ため息をついただろうか。「はぁ~」、おそらく顔もにやけているだろう。「あ~気持ちいい」、今一度声に出す。一緒に走っている者がいれば、「うるさい、いい加減静かにしろよ」と怒られても致し方ない