高橋紘介

京都に住んでいる演劇人、詩人です。ライブハウスで詩を読むこともあります。noteでは詩…

高橋紘介

京都に住んでいる演劇人、詩人です。ライブハウスで詩を読むこともあります。noteでは詩の投稿が主ですが、詩以外も書きたくなったら書くかもしれません。

最近の記事

【詩】星の記憶

投げ込めば水面には波紋が広がり、揺れて、やがて澄み渡る、静寂さが戻ってきて、湖の底には石だけが残る。それが僕らの記憶になります。 飛べないね、 大質量の水、 揺れて、揺れて、揺れて、 石が無数に沈み込む。 こんな重たい体では、翼があっても飛べないでしょう。それでも夜になると月の引力に引かれて、少しだけ表面が浮き上がる。 引かれて、引かれて、引かれて、 15メートルを登り切ったら、臨界点の先で寂しさのさざ波が立つ。それが僕らの夢になります。 目を覚ます度に、無視、している。 無

    • 【短歌】三度寝【五首連作】

      眠たさが支配している休日の意味を成さない読書の退廃 まず先に意味が剥がれてその次に音も離れて滲み出す文字 目を閉じて重力が降る。心臓は月で血は潮 満ち引きする海。 今そこに君がいた気がする夢の感触だけが現に残る 眠たさが支配している休日を有意義にするために三度寝

      • 【詩】宝石の詩

        その瞬間たしかに存在して、 明確な現実としてそこにあって、 悠久の時の流れの中でやがて、 一切の痕跡も残さずに消えていくなら、 やはりどう考えても僕たちは光だと思う。 砕け散っていく宝石は 生き続けることと、 死んでしまうことと、 新しく生まれることを同時にやっている。 小さくて新しい破片たちが 乱反射する光を飛び散らせた一瞬が僕たちで、 暗闇の中ならただの石ころだったのに、 どうしようもなく、差し込んでくる光に求められてしまった。 お互いの顔が見えたから別れが生じる。 自

        • 【詩】星

          君を構成する分子のいくつかが星だった頃、恒星の光を受けて君は更に遠くの星を照らしていた。 生まれ変わりよりも信じられるのはそういう事で、君の体はその時の光をきっと覚えている。 そんなふうに僕のことも何億年も経った後で思い出してくれるんだろうか。君がこれから花になる、猫になる、雪になる。溶けて流れるとまた次の季節だ。 覚えて、いて欲しい。これから先、どんな日にも僕の中の片隅に今日の僕がいることを。 君の中に、君だけが覚えている僕がいる。それだけでもう永遠だった。 さよなら、と

        【詩】星の記憶

          【詩】蚕

          僕の自分自身に対する優しさが 薄い膜となって、僕と、僕との間を隔て始めている もやもやと霞んでいく 面影が遠くなる 手を伸ばして 膜を破って 何度でも羽化して その度に、柔らかい体を曝して 何度でも傷ついてください 手を繋いでください その僕は他人です 瞳孔に映った顔を見つめて 名前を呼んでください 誰かの助けが無ければ死んでしまう命なら その潔さだけで 何度でも誇り高くいられた 壁を隔てて隣り合わせ 押し込められた孤独の箱の中で 境界線を見失う まるで毛布のようにささや

          【詩】海鳥と真珠

          今日もまた、粉々になったカケラが眠気の中で真珠に包まれていく。 もう二度と開かないように。思い出さないように。 丁寧に閉ざされた球体が、ゆっくりと沈んでいく。 夢の中では世界が終わっている気がした。 朝起きるたびに新しく生まれたような気がした 生活は押し流す力。 絶望を、夢の中に置き去りにしている。 手を離した風船のように、僕の心は飛んでいってしまった気がする。 水の中で真珠がこぼれていく。 するりと手を抜けたそれは一瞬の出来事で、あっと気づいた時にはもう遅い。 遠くなってい

          【詩】海鳥と真珠

          【詩】命の大河

          酒を飲んだ夜はトイレが近くなる。 温かく、勢い良くほとばしるオシッコ。激流のように流れ落ちていく。 小さな頃、保健室で習った。人は一日1リットル、ビール瓶2本分のオシッコを出す。 いつか自分の飲んだ水を濾過して、温かい、ビール瓶2本分のオシッコを出す。 つまり僕たちは飲んだ水を運び、いつかまた何処かに流すための袋で、 何処かに流す水を運ぶため、また飲んでいる。 そう考えると街は大河だった。 僕を押し流し、また、僕が押し流す運河だった。 ほとんど津波のような質量の水が、 寄せて

          【詩】命の大河

          【詩】今はさよなら

          液晶に映る光の粒の集合を見て君だ、と思うように、 例えば夕焼けを見て君だ、と思う。 例えば深夜の細い路地の、外灯の明かりを見て君だ、と思う。 ある急に寒くなった日の朝に君だ、と思う。 君がいなくなった世界は、全部が少しだけ君で、 それは君を好きになった日のことに似ている。 恋の速さは光速を超えるから、時間の外側にだって到達する。 全ての過去に手が届くし、全ての未来に偏在している。 いつだって今にだけ、君がもういないのだった。 ある日ふいに耳に飛び込んでくる音楽

          【詩】今はさよなら

          【詩】傷と種子

          美しいと言ったら負けだよ その傷は君を蝕んでやがて命に達する 心に根を巡らせ、君という人間を変えていくだろう 痛覚が麻薬を出すんだ 美しいと言ったら負けだ 物語の呪いだね ずっと昔の人たちが僕等に植え込んだ種子があって、 それは今も毎日発芽を繰り返し、 どこかで花を咲かせている 君のその赤く濡れた傷口からもスルスルと細い茎が伸びて、膨らんだ蕾が今にもこぼれそうだ 今日も、誰かが傷口を花畑みたいにさせて、人間から少女へと羽化している 君は、さわったらはじけてしまいそうな張りつ

          【詩】傷と種子

          【詩】君の体温

          まるで死を現象のように捉えて泣く私たちはどこまでも傲慢だったね。生きている私たち、その一挙手一投足の全てが、1秒ごとに発生している現象だった。熱を生み、代謝し、呼吸を繰り返しながら、過去をまるでそれが今起こっていることのように振り返っていた。 心臓が止まり、意識の途絶えた君は現象としてはもうしばらく続いていく。例えば私の中に残っているクロックムッシュの作り方のように、それは誰かを温め得る力を持つのだ。 冷え切った君の唇を思い出す度、私は自分の体がそのくらいあたたかいのだと思

          【詩】君の体温

          【詩】街も人も光塵の中

          僕たちは通過しあう、屈折し合う、散乱して溶け合う 夜明けの窓から差し込むようにして 輪郭をなぞるようにして お互いが反射し合って、像を結ぶのが世界なのだ 片隅を照らし、色彩を与え、瞬間を焼き付け、 僕たちの世界に時間が流れる そして、最後はやっぱり、通過していく 朝の光の中、漂う塵を見つめていた 今はまだ無人の街で、ラッシュアワーはもうすぐだった 人が人に出来ることは通り過ぎていくことだけで 本当はただ、僕には僕が、君には君が、 一人には、ただ一人だけが

          【詩】街も人も光塵の中

          【詩】降りていく

          何度でも眠りに落ち続ける繰り返しの向こう、 君からの知らせを待っている リセットするように遠のく意識と、 再び始まる唐突な日常。 これが夢か現実かなんて考えるだけ無駄で、 何が条理か不条理かなんてとうにどうでも良かった。 ただ、君からの知らせを待っている。 また遠のく。始まる。何か弾ける音。 目を逸らせばまた遠のいていく。 オルフェウスの降りた螺旋階段を、 目を瞑ったまま駆け降りていく 天体の描く円運動の向きが、 眠りと死の中で逆流している。 夢の中でさえ遠ざか

          【詩】降りていく

          【詩】言葉なんか覚えるんじゃなかった

          私の過去は整理されていき、創作物になる 定義されていく面影が、あなたの思い通りになる 輪郭が、ぼかされていた 翻訳が、繰り返されていた 言葉なんか覚えるんじゃなかった 別々の天体に生きる私たちは忖度され続けて再翻訳 され続ける、混濁する輪郭、が 定義されていく それを幻覚とは言い切れない私が、私を雑に扱う 目の前で鳴る爆音が、私の境目を崩していくのだ ビリビリとふるわせていた だから私は音楽が好きで、 強い光の中、溶けていく照明が好き 網膜も鼓膜もこのためにあるのだ 言葉な

          【詩】言葉なんか覚えるんじゃなかった

          【詩】マスキング

          思考も、時間も、逃がさなきゃいけない。 だから「やること」が必要なんです。 仕事も勉強も、全部それです。 僕たちの思考は自己破壊のプログラム。 どうせやるなら、優しいことを。 マスキングが必要だった。 僕に。あなたに。脳に。 それが、優しさになります。 内臓の代わりに詰め込むのなら柔らかい綿を。 人生の最後の時間を、どんな風におくりたいですか。 笑顔に、囲まれていたいですか。 感情しか分からなくなるから。 おびえを取り除いて。 くやしさを取り除いて。 みじめさを取り除いて。

          【詩】マスキング

          【詩】傘の詩

          私の中に他人が入ってくる 私の中を誰かが踏み荒らす ドカドカと土足で ガヤガヤと無遠慮に 私の中であなたたちがやかましい その、やかましさの中で 私は私の声を見失う 私の言葉を置き忘れる ビニール傘みたいに いつの間にか 雨に濡れるのが嫌だったから必要でした 荷物だなんて少しも思いませんでした 透明な薄膜、つたう水滴、透かして見る景色 それが私の世界でした 私、持ってたんです、傘、この手に 今あなたがつないでいるこの手に 傘、持ってたんです、私 大切にしていました 大事だ

          【詩】傘の詩

          【短歌】青年と刺青【五首連作】

          安酒とエモが奪った死にたさが国道沿いで悲鳴をあげる 一塊のタンパク質として生きろ。痛み、傷跡、刻印、代謝。 いっかいのいしとしていくからだには、墓碑銘にもなりしか。刻め。 生きたくもないのに他人(ひと)に永遠を押し付けている幼さを知らず 一昨年の傷痕はもう肉体がこういう形と認識している

          【短歌】青年と刺青【五首連作】