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【詩】海鳥と真珠

今日もまた、粉々になったカケラが眠気の中で真珠に包まれていく。
もう二度と開かないように。思い出さないように。
丁寧に閉ざされた球体が、ゆっくりと沈んでいく。
夢の中では世界が終わっている気がした。
朝起きるたびに新しく生まれたような気がした
生活は押し流す力。
絶望を、夢の中に置き去りにしている。
手を離した風船のように、僕の心は飛んでいってしまった気がする。
水の中で真珠がこぼれていく。
するりと手を抜けたそれは一瞬の出来事で、あっと気づいた時にはもう遅い。
遠くなっていく。
まだそこにある。
もう届かない。
どんどんと、遠くなっていく。
風船の赤が真っ青な空に映えて、あんなに遠いのにまだよく見える。
もう届かない。
まだそこにある。
もう君のことを、考えずにすむだろうか。
あの風船は、遠くの海できっと海鳥を殺すだろう。
落ちていく真珠も、きっとどこかに到着する。

生活が動き出している。
生活の匂いがする。
全てから、生活の匂いがするね
生活は押し流す力。
遠くの砂浜、自重で死んだシロナガスクジラの中で過去が膨らむ。
海底で死んだら、そこに楽園が築かれる筈だった。
多くが生まれて死に生まれる、連環が始まる筈だった。
「もう退廃の季節は終わったんですよ」
遠くの海で、過去が膨らんでいる。
生活が押し流す。
置き去りにしたまま、新しく生まれて、
生活が押し流すSNS。
ミュージシャンの訃報が多い、僕たちは取り残されてばかりだ。

死んだ君は光になる。そのことに意味は無いけど、ただ光になる。
夜を照らし、全ての方向に真っ直ぐ伸びる光だ。
どこまでも、奥底を照らす光だ。
食いこむように水底まで届いて、僕の中にそんな場所があったことを教えている。
クジラたちの骨が都市のように命を抱いて、宝石になる日を待っている。

生きている僕もまた光だ。奪い、与え、生かし、育み、殺している。
走り続ける命は全自動の運動。君のいる場所にも真っ直ぐ届いている。
僕たちが光であることに理由はいらない。
食いこむように水底まで伸びて、君のいる場所にも届いている。
散らばる真珠はいつか君だった宝石。

生活が動き出している。
走り続ける命は全自動の運動。
生活は押し流す力。
今日もまた、風船が手から離れていく。
僕たちは、海鳥を殺しながら発光している。
遠くの海で、過去が膨らみ続ける。

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