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【詩】街も人も光塵の中

僕たちは通過しあう、屈折し合う、散乱して溶け合う
夜明けの窓から差し込むようにして
輪郭をなぞるようにして
お互いが反射し合って、像を結ぶのが世界なのだ
片隅を照らし、色彩を与え、瞬間を焼き付け、
僕たちの世界に時間が流れる
そして、最後はやっぱり、通過していく

朝の光の中、漂う塵を見つめていた
今はまだ無人の街で、ラッシュアワーはもうすぐだった
人が人に出来ることは通り過ぎていくことだけで
本当はただ、僕には僕が、君には君が、
一人には、ただ一人だけがある
僕は通過していくから
僕たちは通過していくから
どうか、いつまでも透明でいて
ガラスコップみたいに
内側で揺れる水が
淡い影を落としている
僕たちは割れてもきっと綺麗だ

ピンボールのように跳ね返る僕たち
拡散して散らばっていく
漂う塵とガラス片
ラッシュアワーはもうすぐだった
光の粒に包まれる街で、君のことを忘れていく
こぼれていく こぼれていく
明確に結ばれていた筈のディティール
指の間を抜けていく、空
乱反射して、散らばっていく
光の粒に包まれる街で、君のことを忘れていく
溢れるようにしてサラサラと、奇麗な粉が風に舞う
乱反射して輝け、街も人も光塵の中
僕たちは今日も通過していく

街を、
覆いつくす光の粒が、
乱反射をくりかえしていた
いつまでも
いつまでも
やがて僕たちの視界は真っ白に奪われ、
全ての輪郭が
溶け始めていた
明確に結ばれていた筈のディティール
君のことがこぼれていく
この世の終わりのような光景の中、
誰かがこれは始まりだと叫ぶ
明白な終わりと、高らかな始まり
いつだって光の中でファンファーレが鳴るのだ
まるで義務のように、
フィナーレの後には、朝が順番待ちをしている
輪郭の溶ける光の街で、君のことを忘れていく
キリの良い終わりなんてなくて、
高らかな始まりなんかじゃなくて、
これはただの“終わりのあと”で、
輪郭の溶ける光の街で、僕たちは通り過ぎていく
僕も君も光塵の中
街も人も光塵の中

僕たちは通過しあう、屈折し合う、散乱して溶け合う
夜明けの窓から差し込むようにして
輪郭をなぞるようにして
お互いが反射し合って、像を結ぶのが世界なのだ
片隅を照らし、色彩を与え、瞬間を焼き付け、
僕たちの世界に時間が流れる
その流れの、
水底に散らばるようにして、
わずかな砂金が、残されている

いいえ、これは、ガラス片です

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