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【詩】傘の詩

私の中に他人が入ってくる
私の中を誰かが踏み荒らす
ドカドカと土足で
ガヤガヤと無遠慮に
私の中であなたたちがやかましい
その、やかましさの中で
私は私の声を見失う
私の言葉を置き忘れる
ビニール傘みたいに
いつの間にか

雨に濡れるのが嫌だったから必要でした
荷物だなんて少しも思いませんでした
透明な薄膜、つたう水滴、透かして見る景色
それが私の世界でした
私、持ってたんです、傘、この手に
今あなたがつないでいるこの手に
傘、持ってたんです、私

大切にしていました
大事だったんです、とても
雨がやんでも、ずっと持っているつもりでした
空が晴れても、ずっと差しているつもりでした
今あなたがつないでいるこの手に
傘、持ってたんですよ、私

私の中にあなたが入ってくる
私の中をあなたが踏み荒らす
あなたは私を変えるし、
そんな私に誰よりも失望するのは、私だった
息を吸って、吐き出す
波が届いて、かえっていく
思わず伸ばした手は、すぐに引っ込めるはずだった
雨粒が雲からこぼれる
地面まで届いて、染み込んでいく

透明な薄膜、つたう水滴、透かして見る景色
それが私の世界でした
私、持ってたんです、傘
今あなたがつないでいるこの手に
傘、持ってたんですよ、私
冷え切った手、にぎる
にぎりかえす手に、力がこもる
雨、
境界線、
体温、
溶けて、
見失った声、
新しい言葉、
私はまた変わっていく。

私の中に他人が入ってくる
私の中を誰かが踏み荒らす
ドカドカと土足で
ガヤガヤと無遠慮に
私の中であなたたちがやかましい
その、やかましさの中で
私は変わっていく
変わっていくから
どうか、手を離さないでいて
どうか、正しさで語らないで

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