【詩】傷と種子

美しいと言ったら負けだよ
その傷は君を蝕んでやがて命に達する
心に根を巡らせ、君という人間を変えていくだろう
痛覚が麻薬を出すんだ
美しいと言ったら負けだ

物語の呪いだね
ずっと昔の人たちが僕等に植え込んだ種子があって、
それは今も毎日発芽を繰り返し、
どこかで花を咲かせている
君のその赤く濡れた傷口からもスルスルと細い茎が伸びて、膨らんだ蕾が今にもこぼれそうだ
今日も、誰かが傷口を花畑みたいにさせて、人間から少女へと羽化している
君は、さわったらはじけてしまいそうな張りつめた顔で、涙をこらえている
口元で、必死に何かを押し止めている
その傷は君じゃない
君は花じゃない
血は宝石じゃない
痛みはつながりじゃない
少女たちはマネキンみたいでみんな生きてはいない
美しいと言ったら負けだよ

君は傷つけられてまず悲鳴を上げるべきだったんだ
全身全霊の大絶叫を上げるべきだった
その傷は君を蝕んでやがて命に達する
心に根を巡らせ、君という人間を変えていく
美しいと言ったら負けだ

傷に、愛おしさなんて感じてはいけないよ
その度に、
君が君を手離してしまう
そして、
君は殺されるんだ
君は君が最も嫌う人たちの思い通りになって、
彼らにとって都合のいいカタチで死んでいく
だから、
美しいと言ったら負けだよ
君は怒らなきゃいけない
炎をあげて
あかく、
あかく、
誰よりも美しく

私たちは生きていかなくてはならない、肉体をもったままで
新しい少女像のために
新しい男性像のために
新しい私たちのために
私たちは生きていかなくてはならない、肉体をもったままで


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