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【詩】命の大河

酒を飲んだ夜はトイレが近くなる。
温かく、勢い良くほとばしるオシッコ。激流のように流れ落ちていく。
小さな頃、保健室で習った。人は一日1リットル、ビール瓶2本分のオシッコを出す。
いつか自分の飲んだ水を濾過して、温かい、ビール瓶2本分のオシッコを出す。
つまり僕たちは飲んだ水を運び、いつかまた何処かに流すための袋で、
何処かに流す水を運ぶため、また飲んでいる。
そう考えると街は大河だった。
僕を押し流し、また、僕が押し流す運河だった。
ほとんど津波のような質量の水が、
寄せては流し、飲んでは返す、街はまるで洪水だった。
その中に、冷たい水が一滴も無かった。
温かく、寄せては返し、ビール瓶2本分のオシッコを出す。
その中に、冷たい水が一滴も無かった。
平熱36.5度。
命の温度のオシッコを出す。
平熱36.5度。
僕たちの命は大河だった。
水流の中、交わることが出来ずに、
袋の中、温度を保っていた。
みんなと同じ平熱を証明し、
たったひとりの、僕だけの平熱、
混じり合うことが出来ずに、毎日、
ビール瓶2本分、流れていった。
そして、また毎日、ここで生まれている。
平熱36.5度。
恒常性の血流が、僕たちをそこにとどめる。
平熱36.5度。
間違いなく僕たちから生まれている。
温まっている。
平熱36.5度。
街は洪水。冷たい水が一滴も無い。
ビール瓶2本分のオシッコが、僕たちによって運ばれる運河。
流すために飲む、僕たちは大河。
平熱36.5度。
僕たちは袋。誰に証明しなくても許される一滴。
また流すために、
流れるために、
温めるために、
また、飲み込んでいく。

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