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「200字の書評」(355) 2023.12.25


いよいよ2023年の終幕が迫ってきました。今年はどんな年だったでしょう。それぞれがそれぞれの思いを重ねた一年だったのだろうと想像します。なるべく良い思い出だけを残そうと思うのですが、痛恨の思いというものは消せず、むしろ胸に深く刻まれていくような気がします。

年末という言葉が身の周りを飛びかっています。2023年を如何にとらえるか、それは歴史に何が刻まれるのかという問いかけと同じなのでしょう。目の前の些事に追われ、近視眼的に結果だけを求めてしまう習性は年齢を重ねてもなくならないようです。そろそろ幕の下ろし方を考えねば、そう思って何年たったのでしょう。本は徐々に整理しつつあります。その他は出来ないでいます。身近な人の訃報が届くたびに、身辺を整理しなければと思いつつ歳の瀬が後ろから迫ってきます。

さて、今回の書評は資本主義社会の行く末を示す、怖いような一書です。


 ジョエル・コトキン「新しい封建制がやってくる」東洋経済新報社 2023年

中流階級の没落は民主主義の危機である。これが主題である。安定した仕事と収入がある分厚い中流階級こそ近代民主主義の基礎であった。自由主義的資本主義が変質する中で階級分化が起こる。1%の富裕層が世界の富の大半を支配し、中流階級は下層に転落する。政治的には時間のかかる民主主義よりは、決定の早い強権的政治の共感者が増大し、権威主義的国家が人口の多数を占める。日本はどの道を歩むのか、知性が問われている。


<今週の本棚>

吉田敏浩「昭和史からの警鐘」毎日新聞出版 2023年

いつか来た道を辿り、新しい戦前が現実化しているこの国。戦争を体験し、一貫して反戦平和を訴え続けてきた二人の巨人からのメッセージを真摯に受け止めたい。一人は社会派推理の大家、片方は昭和史の探求者。共に実体験と実証的な資料を基礎に活字化し、講演等を精力的にこなしてきている。二人の著作をもう一度読み直したい。

内田樹/白井聡「新しい戦前」朝日新聞出版 2023年

親子ほど年の違うリベラリストが、互いに敬意を持ち認め合い、現代の劣化がどこまで進行しているのかを語り合う。スリリングな展開にページをめくる指がとまらない。ウチダはシライが生まれる時代を間違えた人で、60年代の大学生であったら切れの良いアジテーションで名を残す人物だと評する。シライの前書きでは、ウチダこそ狭隘化する公共空間を押し広げる組織者の元祖に位置するとしている。こんな二人の対話が面白くないはずはない。ウチダ本、シライ本をお薦めする。


【師走雑感ー今年の3冊】

今年書評に取り上げた23冊の中で特に記憶に残った3冊を選んでみました。浅学菲才の身、読み込み不足は否めず、あれこれと悩みました。戦前の戦争賛美に傾斜していく放送事情を語った「ラジオと戦争」は現代に通底するメディアの通弊であり、貴重な証言でした。エマニュエル・トッド「我々はどこから来て、今どこにいるのか」は警世の書であり、現代の深刻な病巣を描き出していました。この2冊は敢えて落としました。右顧左眄しました。ご笑覧ください。

藤原辰史「植物考」生きのびるブックス 2022年(2/25)

エッセイのようでありながら、歴史的見地からの生物哲学の書だと思う。植物こそ動物界は勿論人間の生存を支えていることを教えられた。

篠田謙一「人類の起源」中公新書 2022年(6/10)

現在の人類ホモサピエンスにはネアンデルタール人のDNAがあるという。アフリカに誕生したホモサピエンスは長い旅をして、世界中に広がったのだが、その旅の道筋では他の人類とどのような接触があったのだろう。旅の時間と空間では何があったのか、何故唯一の人類になりえたのだろううか。

吉見俊哉「敗者としての東京」筑摩書房 2023年(10/25)

子供の頃から東京には魅力を感じていた。母が東京の下町出身であることも大いに影響している。何とか憧れの東京遊学を果たし、多くの知友を得た。遠く及ばぬ学識と背景を持つ人物を知ったり、半世紀を経て青春を回顧する友がいる(時折居酒屋に集結し大杯を干し大言壮語落花狼藉、政治を憂え悲憤する不良ジジィ達)、その一方では品性の卑しさも見てきた。でも、東京は魔力がある。そんな東京が敗者だとは、見方を変えるとなるほどと思うから不思議だ。


☆徘徊老人日誌~思いを語る☆

▼ 政界特に自民党周辺は大揺れです。アベ派二階派に検察の強制捜査が入りました。歳末のテレビでは少ない年金で生活する老人の苦渋を報じ、シングルマザーの子育てに悩む姿を映し出しています。その一方では永田町に跳梁跋扈する議員様は、高額の報酬と特権を保持しながらパーティなるもので裏金を懐する。こんな不条理に「検察頑張れ!」と喝采を送る庶民は率直です。でも、どうしてアベ派と二階派なのでしょうか。疑問が湧いてきます。キシダ派を含め他派閥も同様だと思います。国民の税金から政党助成金320億円を得ていながら、まだ足りないとばかりに金集めに知恵を絞る。権力に寄生するこんな妖怪変化の群れは許し難し。されど何故?と湧く疑問。アベが自分に都合の良い黒川検事長を検事総長に据えようとごり押しをし、検察人事に介入した意趣返しというのが一般的な見方です。果たしてそれだけだろうか。国策捜査か、はたまた宗主国アメリカの差し金かなどと、天邪鬼は裏読みをして陰謀論の深みにはまりそうです。いずれにしてもこの国の倫理観は地に落ちています。

▼ 沖縄の辺野古基地工事の設計変更を認めない県側に対する国の代執行を可能にする判決が下されました。結論ありき、予想通りです。法と道理に基づくのではなく、国家権力の強さを思い知らせようとする邪さが、司法をも蝕んでいるのです。宗主国アメリカには国民主権は及んではいないのです。裁判所よお前もか。

▼ ダイハツの不正が明らかになりました。愛車がダイハツ車の方もいらっしゃるのでしょう。日本車への信頼感と安全性を考えると言語道断です。経営陣と現場との乖離が大きそうです。数字を追い利益至上主義に陥ったのでしょう。「事件は現場で起きている、机の上で起きているわけでは無い」。気になるのは下請け孫請け曾孫請け裾野の広い業者の今後です。年の瀬に困惑しているはずです。彼ら業者と労働者の行く末が心配です。巨人トヨタの傘下では大型車では定評のある日野自動車でも不正が発覚しています。利益至上主義のトヨタの不徳でしょうか。

▼ 「人類の起源」「植物考」などから人類が相争い、殺し合う不条理さを考えさせられました。終わりの見えないウクライナ戦争、ガザでのイスラエルによる虐殺、ミャンマーをはじめとする軍部独裁など心痛み無力感を感じる日々が積み重なります。加えて国内の何とも情けない自民党の金権体質、右派の跋扈による軍事力増強、戦争のできる国への疾走などタメ息が出ることばかりです。


今年も小書評兼独り言にお付き合いくださり有難うございました。年々視力が衰え、紙背に徹するどころか文章を読み理解することが困難になってきます。理解力集中力が低下していることは自分自身が感じています。週に1冊読むなら年間ほぼ50冊、2冊なら約百冊です。どんな本を読むのかではなく、読むべきでない本を選ぶのかが大切になってきます。選ぶことは選別しあえて読まぬことでもあります。炭鉱の街で育ちました。選炭場という場所があります。掘り出した石炭を品質、含有物、大小などに分けてコークス、火力発電、機関車、家庭用など用途別に出荷します。選ぶことは選ぶ基準がしっかりしていなければなりません。何をどう読むのか、意識的でありたいと思います。

春遠いこの時期、晴れ間多き年となるよう思いを強めましょう。どうぞご健勝で。来年もよろしくお付き合いください。
来る2024年が意義深い年になりますよう、ご健康を願っております。  

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