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軽い季節を迎えて

軽いな、と思う。


夏の日差しの名残が残る、秋の晴れ間。

外は、夏よりもどこか、軽い空気で満ちている。

乾いた洗濯物の、あたたかな軽さ。

水分を全部蒸発させて空っぽにしたような、軽さ。


そんな軽さは、時々私を心許なくさせる。

重みがあるほうが、安心できることがある。

私たちは、重みを感じながら生きていて、

それが過去や未来を想像することとの、違いではないだろうか。

どんなに過去を変えたかったり、過去に戻りたかったとしても

そこに私がもういないということ

今ここに私がいるということ

私の身体の重みが、身体性が教えてくれている。

過去にあの人がもういないということ

今どこかでその人が生きているということ

耳に残る笑い声、肩に置かれた手の温度。目が合ったときの胸の鼓動。

そのどれもが重かった。そして、その時にだけ感じられた重さだった。

振り返ってみた過去は、もう1グラムの重さも持たない。

どんなに鮮明に思い出せたとしても。

手紙だって、書いたときが一番重たい感情が乗っている。

時間が経つと、その時の重みはきっと失われてしまう。

未来のことに至っては、全てが文字通り想像でしかない。

そんなことを、秋の日差しと少し冷たい風のなかで思った。

秋のなかにいると、「今」から意識が逸れることがある。

あまりにも軽い空気が、寂しい気持ちにさせるから。

今を生きていることを、もう一度確かめるように、地面を蹴って歩く。

秋は、重さを忘れた季節。

愛しいほど、軽い季節。

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