互井観章

知らない景色に出逢う、旅のたのしみ — 東京・牛込柳町 経王寺住職。「心灯会」「法華…

互井観章

知らない景色に出逢う、旅のたのしみ — 東京・牛込柳町 経王寺住職。「心灯会」「法華経講話」などWS開催。ポッドキャスト「月曜日の仏活」は毎週月曜朝に配信中。https://lit.link/kyoouji 経王寺:http://www.kyoouji.gr.jp

マガジン

  • あなたの知らない千と千尋

    宮崎駿監督の映画『千と千尋の神隠し』。2001年の公開から20年を経た今も、多くの人を魅了し続けています。何故、これほどまでに人気があるのか。その背景には -アニミズム- が醸すミステリアスな要素があります。 アニミズムとは何か。映画に隠された謎を、仏教のまなざしから探求したいと思います。

  • ブッダの十大弟子物語

    お釈迦さまにはたくさんの弟子がいました。なかでも、お釈迦さまの「十の力」を象徴するような「十人の弟子」の存在が経典に残されています。その詳細に関する記述は少なく未知なところの多い「十大弟子」の物語を、ハピネス観章が綴ります。

  • はらいそ通信

    互井観章のインド旅行記。 "はらいそ" とはポルトガル語で「楽園」を意味する。

記事一覧

あなたの知らない千と千尋 第8回「トンネルの向こうの不思議の街」

テーマパークの残骸だと思っていた街は、驚くことにすべて食べ物屋だった。ガラーンとした食堂街の一角から、何やらいい匂いが漂ってくる。その匂いに連れられ父と母は誰も…

互井観章
7日前
2

十大弟子ものがたり|迦旃延 ーカセンネンー

1 憂国 「あーん?一晩泊めてほしいじゃと。お前さんたち、金は持ってるかい。おいおいまさかタダで泊まろうなんて思っちゃいないだろうね。食べる物?じゃ、さらに倍の…

互井観章
1か月前

あなたの知らない千と千尋 第7回「トンネルの先」

引越しの途中、道に迷った千尋一家は不思議な建物の前に出た。車を降りた三人の前にぽっかり空いたトンネルがある。吸い寄せられるように中へ入っていく父と母。懸命に二人…

互井観章
1か月前
1

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.7

お釈迦さまは、晩年、最後の旅をする中で商業都市ヴァイシャーリーを訪れた。 この地をお釈尊さまは何度も訪れ、時には長く逗留された懐かしい土地だった。その思い出深い…

互井観章
2か月前
6

十大弟子ものがたり|富楼那 ーフルナ

船長(キャプテン) いつもなら静かな昼下がりの港町。酒場の前に、老人が倒れていて大騒ぎ。「おい海賊!こんな年寄り殴るなんてひどいじゃないか」老人をかばうように少…

互井観章
2か月前

あなたの知らない千と千尋 第6回「錯覚」

錯覚 トンネルから出た三人は、寂れたヨーロッパの駅舎のような不思議な空間に出てきた。 柱には古いランプのような照明器具があり、丸みを帯びたベンチがいくつも置いて…

互井観章
2か月前

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.6

そう、何事も腹一杯ではいけないのである。にも関わらず、インド一日目にして、もう食べられない程、お腹一杯である。「コルカタの街を体験すれば、あとはどこ行っても大丈…

互井観章
3か月前
4

十大弟子ものがたり|須菩提 ースブーティ

1 怒りのスブーティ ガチャン!大理石の床に高価な茶碗が砕け散りました。「誰がこんなまずいお茶を淹れろといった」女中は若者の足元にひれ伏しました。「も、も、申し…

互井観章
3か月前
2

あなたの知らない千と千尋 第5回「神隠しの謎(その2)」

神隠し。人がある日忽然と姿を消してしまうことを神隠しという。現代でも理由も分からず唐突に失踪した事件が起こると神隠しと言われる。 はるか縄文の時代から信じられて…

互井観章
3か月前
1

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.5

「経王寺の旅行は、普通の旅行では味わえないオプションが売りなんです」って、いつも言ってきた。確かに過去の団参(団体参拝)において、旅行会社の企画とは違い、特別に…

互井観章
3か月前
2

十大弟子ものがたり|摩訶迦葉 ーマカカショウー

〈涅槃〉 お釈迦さまは沙羅双樹の林の中に横たわり「さあ修行僧たちよ。もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成させなさい」と微笑まれ、静かに涅槃…

互井観章
4か月前
1

あなたの知らない千と千尋 第4回「神隠しの謎(その1)」

この映画の題名にもなっている「神隠し」。なぜ千尋一家は神隠しに遭ったのか。今回はその謎を探求してみよう。 【道と土】 千尋の父が運転する車は、引っ越し先の家を目…

互井観章
4か月前
3

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.4

 超豪華なホテルを満喫することもなく後にした私たちは、コルカタの街に繰り出した。コルカタ、昔の言い方はカルカッタ。インドの西に位置し、人口は約450万人。イギリ…

互井観章
4か月前
7

十大弟子ものがたり|目連 ーモッガラーナー

十大弟子を生きる「智慧第一の舎利弗」 お釈迦さまの周りには沢山の弟子たちがおりました。その中で、特にお釈迦さまから信頼を受け、修行者たちの見本となるような優れた…

互井観章
4か月前

あなたの知らない千と千尋 第3回「車に関する謎 車中編(その2)」

千尋を乗せた車の窓から、濃い緑に包まれた山が見えてきました。その向こうに、山を切り拓いて造設された家並みが登場します。急な坂の上に突然現れた家々。これから千尋た…

互井観章
5か月前
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インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.3

日本を出発する前に、友人から『インドの洗礼』の話を聞いた。我々日本人が、インドを旅行する際に必ず受けなければならない洗礼があるという。1つめは「物乞い」、2つめ…

互井観章
5か月前
2

あなたの知らない千と千尋 第8回「トンネルの向こうの不思議の街」

テーマパークの残骸だと思っていた街は、驚くことにすべて食べ物屋だった。ガラーンとした食堂街の一角から、何やらいい匂いが漂ってくる。その匂いに連れられ父と母は誰もいない食堂ののれんをくぐり、勝手に食べ始める。両親の思いもよらない行動に、千尋ははっきりと嫌悪感を示す。大人の父母より、子どもの千尋の方がよっぽど常識的だ。母は「人が来たらお金を払えばいいんだから」と言い、父は「カードも財布も持っているから俺に任せておけ」という。このあたりのセリフは宮崎監督のメッセージに聞こえる。

十大弟子ものがたり|迦旃延 ーカセンネンー

1 憂国 「あーん?一晩泊めてほしいじゃと。お前さんたち、金は持ってるかい。おいおいまさかタダで泊まろうなんて思っちゃいないだろうね。食べる物?じゃ、さらに倍の金を出しな。誰だい舌打ちしたのは。言っとくけど、泊めてくれって言っているのは、あんた達なんだからね。そうそう、このあたりにゃ、腹をすかした人食い虎がうようよいるんだよ。日が暮れると毒蛇だって道に出てくる。ほら、泊めてやるから早く金を出しな。この国は金。金がもの言うんだよ。幸せだって金で買える。ちょいとあんた、汚い荷物

あなたの知らない千と千尋 第7回「トンネルの先」

引越しの途中、道に迷った千尋一家は不思議な建物の前に出た。車を降りた三人の前にぽっかり空いたトンネルがある。吸い寄せられるように中へ入っていく父と母。懸命に二人を止める千尋も、やがて二人を追いかけてトンネルの中へ入っていく。 このトンネルこそ異界への通路である。通路でありながら、誰もが通れるものではない。神隠しに遭った者だけが通る道。異界へと続くこの道の先に魑魅魍魎の世界を予想していた人もいるかもしれない。少なくともドラマチックな展開がこのトンネルの先にあるだろうと思ってい

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.7

お釈迦さまは、晩年、最後の旅をする中で商業都市ヴァイシャーリーを訪れた。 この地をお釈尊さまは何度も訪れ、時には長く逗留された懐かしい土地だった。その思い出深い土地で、お釈迦さまは発病した。余命の短いことを悟ったお釈迦さまは旅を共にしてきた弟子のアーナンダに有名な法話をしたという。 それが「法をよりどころにせよ」という言葉だった。 さらにお釈迦さまは とアーナンダに伝えたという。 昨日までいたコルカタの町のエゴむき出しの喧騒とはうって変わり、のどかなインドの農村地帯の

十大弟子ものがたり|富楼那 ーフルナ

船長(キャプテン) いつもなら静かな昼下がりの港町。酒場の前に、老人が倒れていて大騒ぎ。「おい海賊!こんな年寄り殴るなんてひどいじゃないか」老人をかばうように少年が海賊をにらんでいます。「人が気持ちよく酒を飲もうとしたら、そのくそオヤジが海賊には酒は出せねえっていうからよ、ちょっと口の利き方を教えてやったんだよ」と言うといきなり少年を蹴飛ばしました。「小僧、海賊なめんなよ」海賊が少年を踏みつけようとしたとき「なんだ最近の海賊も随分落ちぶれたもんだな」と前に出てきた男がいまし

あなたの知らない千と千尋 第6回「錯覚」

錯覚 トンネルから出た三人は、寂れたヨーロッパの駅舎のような不思議な空間に出てきた。 柱には古いランプのような照明器具があり、丸みを帯びたベンチがいくつも置いてある。かつては多くの人がこの場所を利用していたようだ。鋳物でできた水飲みからは、水がぽたぽたと垂れている。天井の分厚い壁に丸い窓がとり造られ、色ガラスから日の光が床にまで差し込んでいる。懐かしいような、寂しいような不思議な空間である。この景色の中に、色々な意味が込められている。 照明には、未来への希望や展望という

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.6

そう、何事も腹一杯ではいけないのである。にも関わらず、インド一日目にして、もう食べられない程、お腹一杯である。「コルカタの街を体験すれば、あとはどこ行っても大丈夫ですよ」って、今回の旅の企画をお願いした旅行会社のNさんはにっこり笑うのだが、愛想笑いを返すのが精一杯である。 考えてみれば、昨晩遅くにコルカタのホテルに入り、朝から一日、世界で一番最悪な街といわれるコルカタの街を歩き回り、病人や体の不自由な人、死人や葬儀に出会い、濃密な生老病死を味わった。お釈迦さまの出家の理由に

十大弟子ものがたり|須菩提 ースブーティ

1 怒りのスブーティ ガチャン!大理石の床に高価な茶碗が砕け散りました。「誰がこんなまずいお茶を淹れろといった」女中は若者の足元にひれ伏しました。「も、も、申し訳ございません、お坊ちゃま」若者は、泣きながら詫びる女中の髪をわしづかみにし、部屋の隅でおびえる女中たちに向かって「早く誰かお茶を入れなおしてこい」と叫びました。 若者の名前はスブーティ(須菩提)。コーサラ国の首都である舎衛城で、指折りの商人シュマナ(須摩那)の子どもです。生まれたときから何不自由なく育った彼は、甘

あなたの知らない千と千尋 第5回「神隠しの謎(その2)」

神隠し。人がある日忽然と姿を消してしまうことを神隠しという。現代でも理由も分からず唐突に失踪した事件が起こると神隠しと言われる。 はるか縄文の時代から信じられてきた神の存在。人が行方不明になる原因を神の仕業と考え、神隠しと呼んだ。子どもが神隠しに遭うと、村中総出で太鼓や鐘を鳴らして、大きな声で山に向かって子どもの名を呼び「返せ・戻せ」と叫んだ。これは「魂呼び」(たまよび)といい、死の直後に死者の名前を呼び、魂を呼び戻すことによって蘇らせる風習である。 神隠しは、神経質だっ

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.5

「経王寺の旅行は、普通の旅行では味わえないオプションが売りなんです」って、いつも言ってきた。確かに過去の団参(団体参拝)において、旅行会社の企画とは違い、特別にご開帳やご祈祷を受けたりしてきた。だから、今回のインド旅行も他とは違う企画を考えていた。それが「マザーハウス見学」だった。 マザーハウスはマザー・テレサがコルカタで始めた活動。「死を待つ人々の家」というホスピスを開設したのがはじまりで、路上やスラムで死ぬことを待つしかない人が安らかに死を迎えることのできる家を作った。

十大弟子ものがたり|摩訶迦葉 ーマカカショウー

〈涅槃〉 お釈迦さまは沙羅双樹の林の中に横たわり「さあ修行僧たちよ。もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成させなさい」と微笑まれ、静かに涅槃の世界へと旅立っていかれたのです。皆がお釈迦さまの死を悲しみました。 と、その時「やっとうるせぇ年寄りがいなくなって清々したぜ。さぁ楽しくやろうぜ」と声を上げたのは、弟子の中で一番素行の悪いスバッタです。怒りをあらわにした弟子たちはスバッダに殴り掛かり、その場は騒然としてしまいました。 そのとき、威厳に満ちた声が

あなたの知らない千と千尋 第4回「神隠しの謎(その1)」

この映画の題名にもなっている「神隠し」。なぜ千尋一家は神隠しに遭ったのか。今回はその謎を探求してみよう。 【道と土】 千尋の父が運転する車は、引っ越し先の家を目指していた。ところが、杉の老木の手前、舗装道路が途切れているところで、道を間違えたことに気が付く。そこから先は未舗装の土むき出しの道。母は、周りを見渡し、丘の上に引っ越し先の家を見つける。父は、この道をまっすぐ行けば抜けられると言い、母は、いつもそういう判断がうまくいかないことを知っているので反対する。 物語冒頭

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.4

 超豪華なホテルを満喫することもなく後にした私たちは、コルカタの街に繰り出した。コルカタ、昔の言い方はカルカッタ。インドの西に位置し、人口は約450万人。イギリス人曰く「この宇宙でもっとも最悪の町」といわれたコルカタは、路上生活者は200万人とも300万人とも言われる。ある意味で最もインドらしい街ともいえる。 私たちを乗せたバスは、街の中心部に向った。とにかく、人と車の大混乱。コルカタ中の人と車が目の前に集まっているような状態。喧騒と無秩序。なんじゃこりゃって感じ。「インド

十大弟子ものがたり|目連 ーモッガラーナー

十大弟子を生きる「智慧第一の舎利弗」 お釈迦さまの周りには沢山の弟子たちがおりました。その中で、特にお釈迦さまから信頼を受け、修行者たちの見本となるような優れた十人の弟子たちがおります。今回は、最も優秀な舎利弗と一緒に弟子になり、神通第一といわれお釈迦さまの代わりに修行者の指導にもあたった目連尊者のお話です。 コーサラ国の首都で、繁栄を極めた舎衛城という街に「世界一美しい蓮華」と呼ばれる遊女がおりました。彼女は男から貢がれた最高級のサリーをまとい、豊満な身体からは甘い香り

あなたの知らない千と千尋 第3回「車に関する謎 車中編(その2)」

千尋を乗せた車の窓から、濃い緑に包まれた山が見えてきました。その向こうに、山を切り拓いて造設された家並みが登場します。急な坂の上に突然現れた家々。これから千尋たちが引っ越す新しい家がその中にあります。 画面に道路標識が出てきます。国道21号線。そのまま行くと「中岡」、右折すると「とちの木」と書いてあります。実際の国道21号線は岐阜瑞浪市から米原市に至る道です。ネットでは、車の窓から見える店などは八王子付近に実際にあることから国道20号線、甲州街道の富士見付近がモデルと言われ

インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.3

日本を出発する前に、友人から『インドの洗礼』の話を聞いた。我々日本人が、インドを旅行する際に必ず受けなければならない洗礼があるという。1つめは「物乞い」、2つめが「狂ったように走るバス」、3つめが「臭い」だそうだ。早くその洗礼を受けて慣れてしまうことがインド旅行の秘訣だといわれた。 幸せなことに、真夜中のコルカタに到着して、それを全部体験した。バスに乗るまでの短い距離、乳飲み子を抱えた母親が呪文のように「ミルクミルク・・・」とささやきながらついて来る。幼稚園児くらいの子ども