インド旅行記 ー はらいそ通信 - vol.3
日本を出発する前に、友人から『インドの洗礼』の話を聞いた。我々日本人が、インドを旅行する際に必ず受けなければならない洗礼があるという。1つめは「物乞い」、2つめが「狂ったように走るバス」、3つめが「臭い」だそうだ。早くその洗礼を受けて慣れてしまうことがインド旅行の秘訣だといわれた。
幸せなことに、真夜中のコルカタに到着して、それを全部体験した。バスに乗るまでの短い距離、乳飲み子を抱えた母親が呪文のように「ミルクミルク・・・」とささやきながらついて来る。幼稚園児くらいの子どもが「マネーマネー」といってついて来る。仙人のような老人が「○×△□・・・」と言いながらついて来る。やっと振り切ってバスに乗りホテルに向う。どっと疲れる。これがインドの物乞いなのか。
ホッとする間もなく、バスはものすごいスピードで走り始めた。真夜中だというのに、パラパラー・ブーブーと様々な音色のクラクションをのべつまくなしに鳴らして市内を疾走していく。思わず「運転手は機嫌が悪いのか」とインド人のガイドに聞いたら「いいや、いつもより機嫌がいいみたい」と流暢な日本語が返ってきた。
右へ左へ揺られながら、バスは真夜中の暗い街を走っていく。ほとんど外灯はない。バスがよけているのは対向車や遅い車ばかりではない。いたるところに野犬がいる。「犬には絶対手を出しちゃダメ」インド人のガイドが真顔で言う。「日本語でなんというの、噛まれたら病院ね」どうやら狂犬病らしい。街のところどころに明かりが付いている。屋台のようだ。あの人たちは犬に噛まれないのだろうか。あちこちで犬の遠吠えや、ケンカが見られる。犬に気を取られていたが、あちこちに等身大の黒いものがおかれていた。よく見ると歩道にも、車道にもたくさん転がっている。丸太のような黒い物である。何だろうと思って聞くと、あっさりと「人間」とガイドさんは答えた。えっ!人間??「家のない人、外で寝てる。涼しくていいね」頭がくらくらしてきた。インドの洗礼の話を教えてくれた友人が言った。「インドを頭で理解しようとしちゃだめ。すぐパンクしちゃうよ。ああこれがインドなんだと思わないと一週間持たないよ」本当に一週間持つのだろうか。インドの臭いに囲まれ、洗礼に打ちのめされていた。まだ旅は始まったばかりだった。
翌日、ホテルで目を覚ますと凄い豪華なホテルに泊まっていたことが判った。昨晩は疲れて、ホテルについてシャワー浴びてすぐに寝てしまったが、窓の外には大きなプールがあり、赤い花も咲いている。朝から泳ぐにはちょいと寒いが、プールサイドを散歩し朝食をとる。サニーサイドアップ(目玉焼きのこと)を頼むと、本当に黄色い卵が出てきた。黄身の味は濃い。朝食を食べたら元気が出てきた。イザ出発!今日はコルカタ市内見学。今日は特にマザーテレサの「死を待つ家」や孤児院の見学もある。本当の洗礼がこれから待っていることも知らず、私たちは元気にホテルを出発した。2月7日(2011年)の朝である。
to be continued
大乗山 経王寺「ハスノカホリ no.41」より
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?