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ブッダの十大弟子物語

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お釈迦さまにはたくさんの弟子がいました。なかでも、お釈迦さまの「十の力」を象徴するような「十人の弟子」の存在が経典に残されています。その詳細に関する記述は少なく未知なところの多い…
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記事一覧

十大弟子ものがたり|迦旃延 ーカセンネンー

1 憂国 「あーん?一晩泊めてほしいじゃと。お前さんたち、金は持ってるかい。おいおいまさかタダで泊まろうなんて思っちゃいないだろうね。食べる物?じゃ、さらに倍の金を出しな。誰だい舌打ちしたのは。言っとくけど、泊めてくれって言っているのは、あんた達なんだからね。そうそう、このあたりにゃ、腹をすかした人食い虎がうようよいるんだよ。日が暮れると毒蛇だって道に出てくる。ほら、泊めてやるから早く金を出しな。この国は金。金がもの言うんだよ。幸せだって金で買える。ちょいとあんた、汚い荷物

十大弟子ものがたり|富楼那 ーフルナ

船長(キャプテン) いつもなら静かな昼下がりの港町。酒場の前に、老人が倒れていて大騒ぎ。「おい海賊!こんな年寄り殴るなんてひどいじゃないか」老人をかばうように少年が海賊をにらんでいます。「人が気持ちよく酒を飲もうとしたら、そのくそオヤジが海賊には酒は出せねえっていうからよ、ちょっと口の利き方を教えてやったんだよ」と言うといきなり少年を蹴飛ばしました。「小僧、海賊なめんなよ」海賊が少年を踏みつけようとしたとき「なんだ最近の海賊も随分落ちぶれたもんだな」と前に出てきた男がいまし

十大弟子ものがたり|須菩提 ースブーティ

1 怒りのスブーティ ガチャン!大理石の床に高価な茶碗が砕け散りました。「誰がこんなまずいお茶を淹れろといった」女中は若者の足元にひれ伏しました。「も、も、申し訳ございません、お坊ちゃま」若者は、泣きながら詫びる女中の髪をわしづかみにし、部屋の隅でおびえる女中たちに向かって「早く誰かお茶を入れなおしてこい」と叫びました。 若者の名前はスブーティ(須菩提)。コーサラ国の首都である舎衛城で、指折りの商人シュマナ(須摩那)の子どもです。生まれたときから何不自由なく育った彼は、甘

十大弟子ものがたり|摩訶迦葉 ーマカカショウー

〈涅槃〉 お釈迦さまは沙羅双樹の林の中に横たわり「さあ修行僧たちよ。もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成させなさい」と微笑まれ、静かに涅槃の世界へと旅立っていかれたのです。皆がお釈迦さまの死を悲しみました。 と、その時「やっとうるせぇ年寄りがいなくなって清々したぜ。さぁ楽しくやろうぜ」と声を上げたのは、弟子の中で一番素行の悪いスバッタです。怒りをあらわにした弟子たちはスバッダに殴り掛かり、その場は騒然としてしまいました。 そのとき、威厳に満ちた声が

十大弟子ものがたり|目連 ーモッガラーナー

十大弟子を生きる「智慧第一の舎利弗」 お釈迦さまの周りには沢山の弟子たちがおりました。その中で、特にお釈迦さまから信頼を受け、修行者たちの見本となるような優れた十人の弟子たちがおります。今回は、最も優秀な舎利弗と一緒に弟子になり、神通第一といわれお釈迦さまの代わりに修行者の指導にもあたった目連尊者のお話です。 コーサラ国の首都で、繁栄を極めた舎衛城という街に「世界一美しい蓮華」と呼ばれる遊女がおりました。彼女は男から貢がれた最高級のサリーをまとい、豊満な身体からは甘い香り

十大弟子ものがたり|舎利弗 ーサーリプッター

十大弟子を生きる「智慧第一の舎利弗」 1 祭り 「みんな、何がそんなに楽しいのだ。いつか死ぬんだぞ。どんどん死が迫ってくるというのに、ちきしょう、俺の人生これでいいのか。たのむ、誰か教えてくれ。俺はどう生きたらいいのだ」シャリホツは自分の心に向かって叫んでいた。 王舎城近郊のナーラカ村では、年に一度のお祭りが開かれていた。「山頂祭」と呼ばれるこの祭りは、近くの山に登り、飲めや歌えの大騒ぎを三日三晩行うのが慣例になっていた。山頂では太鼓の音に合わせ踊り狂う若者たち、酒に酔