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ばあちゃんのご飯を本気で再現してみた


おばあちゃんのご飯で、一番好きなものって、何ですか?


私はね、

「ポテトサラダ」


よく泊まりに行ったとき、朝ごはんで出してくれた。
朝起きて、台所に行くとばあちゃんが「もう起きたの?」と声をかけてくれる。手にはおたま。
そのおたまでじゃがいもをつぶしながら、ポテトサラダをつくってた。

そんなばあちゃんのご飯は、ひさしく食べていない。

今は、施設でのんびり暮らしているからだ。

足が悪くてリハビリをがんばっているばあちゃん。
ときどき会いに行くけど、施設のスタッフさんからは

「祖母と孫むすめというより、仲のいい女友だちって感じ」


と言われたりする。

たしかに、私が大人になったからか、とてもフラットな関係になってきた。

関係が変わってきて、最近のばあちゃんは自分が子どものころの話をするようになった。

「戦争のときはね、空襲がきたら真夜中だったとしても、夜道を歩いて妹9人(ばあちゃんは10人姉妹の長女)を連れて防空壕まで行ったんだよ」
「私はまだ11か12歳だったけど、班長だったから"空襲警報発令ー!"って叫びながら走ったよ」

「本当は、学校(多分今でいう高校)に行っていろんなことを学びたかった」
「でも戦争のせいでそれもできなかった」
「女のくせに学校に行くなんて、とお父さんに反対もされた」
「勉強がしたくて、布団の中でこっそり泣いたこともあった」

「空襲で学校が焼けちゃってね、小学校の授業は河原でやったんだよ」
「寒かったけど、音楽の授業だけは楽しかった。河原で歌うのは気持ちがいいもんね」
「二宮尊徳のうたを歌ったよ」

子どもだった私には絶対に話さなかったことも、話してくれるようになった。

私は、たくさんいる孫の中ではかなり遅くに生まれたので、ばあちゃんとはすごく年が離れている。
そんなばあちゃんとは、なんだか本当に友だちみたいな関係になっている。

60歳以上も年上の友人ができる日がくるなんて、思ってもなかったけど


だから、誕生日プレゼントも「孫娘から祖母へ」ではなく、古い友人に贈るようなものに変わってきた。
淡くて少しくすんだ大人っぽい桜色のリップをプレゼントしたら、すごくよろこんでくれた。
「いくつになっても、きれいでいたい気持ちはきっと同じだろうな」と思ったから。

そんなプレゼントをよろこぶばあちゃんの姿を見て、ふと思った。この先、私はきっと

ばあちゃんのご飯を食べることは、二度とない


ばあちゃんは本当に足が悪いのでなかなか家にも帰れない。
帰ったところで車いすなので、台所に立つことも難しいだろう。
それに何より、足が悪いばあちゃんにご飯をつくってもらうことがとても忍びない。
きっと私のためにご飯をつくろうとするだろうけど、私は全力で止める。

だから、自分で再現してみた


つくれぬなら 私がつくるぜ おひるごはん

一句詠んで啖呵きってみたものの、「人につくってもらった感」がほしくてメニューにしてみた。

これ見て。
めっちゃそれっぽくできた。

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で、これを印刷してメニュー用のファイルに入れてみた。

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いいね。ご飯屋さんっぽい。

で、自分で注文して自分でつくってみた。つくったのはこれ。

・まぜご飯
・刻みコンブのあえもの
・ポテトサラダ
・白菜とキュウリのお漬物
・カボチャの煮物
・エシャロットと味噌
・ジャガイモの味噌汁
・お刺身

「つくりすぎ」


って思ったでしょ。
うん。つくりすぎだと思う。

でもばあちゃんは、私のことを365日常に餓死寸前だと思っているので遊びに行くとすごい量のご飯を出すんだ。
だから、その量も再現してみる。


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休日の朝。はやめに起きて、家事をすませて。
買っておいた材料で、のんびりとご飯をつくっていく。

じゃがいもをゆでてつぶしたり。
かぼちゃを切って下ごしらえしたり。
まぜご飯の材料を切ったり。

ばあちゃんがかつて私のためにやってくれたであろう作業を、一つひとつ同じようにこなしていく。

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キッチンにただよう料理中の香りが、昔ばあちゃんちでかいだご飯のにおいそのもので。
ちょっと泣いてしまった。

できた!

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品数が多いから1時間くらいかかってしまったけど、いい感じの再現具合だ。

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「いただきます」

手をあわせて、自分で再現したばあちゃんのご飯を食べ始める。
おいしい。おいしんだけど……。
実際に再現ご飯を食べて、気づいてしまった。

私、ばあちゃんの再現ご飯が食べたいわけじゃなかった


私が望んでいたのは、再現された「ばあちゃんのご飯」ではなく。

ばあちゃんが、「おいしく食べてくれるかな」とか「よろこんでくれるかな」と考えてくれた、なんというかそういう……

私への「思い」なんだ。

子どもの私がよろこぶように、ばあちゃんが普段絶対に食べないであろうエビフライのお惣菜を買ってきてくれたり。

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子どもの私がよろこぶように、煮物を甘めに味付けしてみたり。

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それから、赤飯やまぜご飯があるのに、白米を炊いていてくれたり。

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戦争中は食べるものがなくて、白米が何よりのごちそうだったから。
だからいっつも、ばあちゃんは私が遊びに来るときは、ごちそうの白米を炊いて待っててくれた。
私がお赤飯を食べているのに、ばあちゃんはその様子をニコニコみながら「白いご飯もあるよ」と声をかけてくれた。

世間ではそれを、愛という


「愛とは何か」なんていう老いた古い問いに、私は答えることができない。
でも、ばあちゃんのこの思いが世間でいうところの「愛」だということだけはわかる。

愛情たっぷりの、ばあちゃんのご飯を食べたい。
でも、ばあちゃんはもうご飯をつくれない。

それを思うとやっぱり、ちょっと、ほんとにちょっとだけ。
しょんぼりしてしまう。
でも、私はもう大人だ。

大人は、自分の機嫌を自分でとるもんだ。

だから、自分の機嫌をとってみた


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ご機嫌になりました。


いやこれおいしい。ほんとに。
ファミマで見かけて買っておいたハイボールなんだけど、アタリだった。


時刻は日曜の午前11時。
レモンをしぼったハイボールを飲みながら、思った。

「ご飯で」自分の機嫌をとるの、めっちゃいいなって。

そこから私は結構しっかりご飯をつくるようになった。
こうしたら自分はよろこぶかなと、かつてばあちゃんが私のために考えてくれたように、思いを込めてご飯をつくる。
毎日ご機嫌に過ごせるようになったので、ゆるく続けていきたいなって思った。で、

「手づくりご飯を続けるコツってなんだろう?」

と、考えていろいろ試した結果

テーマを決めると、自炊続けるのめっちゃ楽


ということに気づいた。

このnoteを読んでくれている人の中には、日々ご飯をつくることに追われている人もいると思う。
何が大変って、メニューを考えるのが大変なんだよね。

だから、私はよくテーマを決めている。すごくオススメ。

私がよくやる「〇〇週間」のテーマはこんな感じだ。

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「サラダチキン週間」

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「土鍋ご飯週間」


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「ワンプレート週間」


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「オートミール週間」


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「ライ麦パン週間」


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「ゆば週間」


ぜんぶ、自分でつくったご飯。
ぜんぶ、自分で撮った写真。

「めっちゃご飯頑張ってるじゃん!」と言ってもらえることもあって、とってもうれしい。でも

手を抜くことも覚えた


もう元気ない日はこんな感じ。


疲れて何もできない日もあると思う。
つらいことがあって、何も手につかない日もあると思う。

でも、それでも。

あたたかいご飯は、いつだって、必ず人を癒やしてくれる


だから、元気な日はちゃんとご飯をつくって食べ、
そうじゃない日は、「きちんと」サボってラクをして、ご飯を食べる。

私が日々、ご飯をつくるときに大切にしていることだ。

これからも、ほどよくがんばり、ほどよくサボってのんびりご飯をつくっていこうと思う。


ここまで読んでくれて、ほんとにありがとう。

最後に、私のばあちゃんの再現レシピ置いとくね。
イチオシのポテサラをぜひつくってみてほしい。
めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、おいしいと思う。

イチオシの「ばあちゃんレシピ」

ばあちゃんのポテトサラダ(2~3人分)

【材料】
じゃがいも……3個
ゆで卵……1個
玉ねぎ……1/4個
きゅうり……1/2本

【調味料】
マヨネーズ……大さじ3
塩……ひとつまみ
マスタード……小さじ1
あらびき黒コショウ……少々
カレー粉……ひとつまみ

【つくり方】
1 じゃがいもは皮をむいて1cm厚さの輪切りにし、たっぷりの湯でやわらかくなるまでゆでる。
2 別の鍋にたっぷりの湯をわかし、冷蔵庫から出した卵を12分ゆで、食べやすい大きさに切る。
3 玉ねぎは5mm厚さの薄切りにして水にさらしてかたくしぼる。キュウリは5mm厚さの薄切りにして塩(分量外)をふってもみこみ、ペーパータオルで汁けをふき取る。
4 ボウルにゆでたじゃがいもを入れてスプーンでつぶす。
5 4に、2と3をくわえて混ぜる。マヨネーズ、塩、マスタード、あらびき黒コショウで味つけする。
6 5を器に盛り、カレー粉をかけて完成。


よくあるレシピの間違いチャレンジ

ちなみに、このnoteで紹介したけど、私はずっと家電ニュースメディアの編集者をしてた。

電子レンジとかトースターの調理家電を紹介する際には、レシピも掲載することがけっこうあった。
だからレシピ校正の仕事もしたんだけど、よくあるレシピの間違いはこんな感じだ。

まずは校正前のレシピ原稿から。

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で、これに校正を入れるとこんな感じ。

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このnoteを読んでいる人の中に料理ブロガーさんとかがいたら、もしかしたら参考になるかもって思って載せてみた!なにか少しでも発見があったらうれしい。


ばあちゃんのレシピ、つくってみてね

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「この味だ!」って再現できるようになるまで、7回もポテサラつくっちゃった。
ばあちゃんはこんなに細かく分量とか計らないから、レシピを聞いても「てきとうだよー」って言うんだ。
目分量でいつもつくってくれるんだけど、毎回すごくおいしかった。

ばあちゃんは、ポテサラをつくるために玄関を出て少し歩いたところにある畑でキュウリをもぎとって帰ってくる。
採れたての、少しぶかっこうなキュウリを器用に細切りにしてくれた。
玉ねぎも畑で採れたもの。
ばあちゃんはささっとスライスするから、ときどきすごーく長いのが入ってた。
それがおもしろくて、子どもだった私は「おひげみたい!」と笑ってた。

そんなばあちゃんのポテサラ、ぜひ食べてみてほしい。

そして、もしあなたのおばあちゃんがあなたにご飯をつくってくれたなら、いっぱいいっぱい食べてね。
私はもうばあちゃんのご飯を食べることはないだろうから、ちょっとうらましいよ。

そして、たくさんたくさん「おいしい」って伝えてみてほしい。

きっと、あなたが思っている以上に、よろこんでくれると思うから。


さいごに。ばあちゃんへ。

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今まで、いっぱいご飯をつくってくれてありがとう。

私が遊びに行く日には、カルピスとかブドウのジュースとか用意しててくれたよね。
重たくて買ってくるの大変だっただろうに、ありがとうね。

お赤飯やまぜご飯を用意してるのに、白米も必ず炊いていてくれたよね。
子どものころは不思議に思ってたよ。
他にご飯があるのに、なんで白いご飯も用意するんだろう?って。
戦争を経験したばあちゃんにとって、白いご飯がそんなにごちそうだったと知ったときは、とても驚いたよ。
一番のごちそうを、遊びにきた孫にちゃんと食べさせてあげたかったんだね。

今日は、施設でどんな一日を過ごしたのかな。
私が施設まで会いに行くと、自分の部屋の引き出しから何かお菓子とか飲み物を出そうとしてくれるよね。
あいかわらず私が常に餓死寸前だと思っていて、たくさん食べさせようとしてくれるよね。
大好きな孫に、何か食べさせてあげたいんだよね。

今日はリハビリ、やりましたか?
足が痛くてうまく歩けなくて、
ばあちゃんが隠れて泣いてたの、実は知ってるんだ。

自分の足で立ちたい理由が、自分に会いに来てくれた人にご飯をつくりたいからだっていうのも知ってるんだ。
だから、私が会いに行くといつも言うよね。

「ご飯、つくってあげられなくて、ごめんね」

って。
でもね、大丈夫。
私がばあちゃんの手になるから。
ばあちゃんの代わりに、私がご飯をつくるから。

……って言っても、ばあちゃんは「でも、私がつくりたい」って、納得しないだろうけど。
でも、その気持ちがうれしいよ。


今まで、いっぱいご飯をつくってくれてありがとう、ばあちゃん。





あとがき


生まれて初めてだった。

構成案を"つくらず"に、文章を書いたのは。

このnote、実は構成案をつくらずに書いてみたの。
ほら、こういうnoteって「エッセイ」というジャンルに入るじゃない?
エッセイって日本語に直すと「随筆」でしょ?

随筆って「筆の赴くままに」書くものだから。
だから構成案をつくらずに書いてみた。

初めてやってみたけど、おもしろいねこれ!

「へえー!最後はこういう風に終わるんだ!?」と、なんだか筆が自分とは違う生き物みたいにスラスラ動いて文章を完成させてくれた。

普段、私が書く文章はさ、

情報伝達
意志表示
感情表現

この3つのどれかを目的とした文章が多いんだけど。
今回は目的とか設定せず、本当に筆が流れるまま書いてみた。
「私ってこんなこと考えてたのか」ととても驚いたよ。

昔読んだ哲学書にさ、

「表現しなければ、自己なんて存在しないのと同じだ」

って文章が書いてあって、このときはあまりピンとこなかったんだけど。

今ならわかる。

「存在しないも同然だ」までは言わないけど。
「表現してみて初めて発見できる自分」っていうのは、絶対にあるんだろうなって思った。

……と、いうことを学んだところで、また再び筆が動き出すのを待とうと思う。

またね!






【関連note】いつか本を出したいあなたへ


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出版なんて、夢のまた夢……。

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