僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす

『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』note版です。 ハーモニカ奏者広瀬哲哉です。 こ…

僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす

『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』note版です。 ハーモニカ奏者広瀬哲哉です。 この物語は私の体験談を元に、時系列や登場人物の特徴などを大幅にアレンジしている、いわば「フィクション」です。 ぜひお気軽にお楽しみ下さい。 https://www.hamonicafe.com

マガジン

  • ④テンホールズ・ジャズ編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈④テンホールズ・ジャズ編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方にはテンホールズジャズ編までにあたる内容になります。

  • ③ブルース・セッション編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈③ブルース・セッション編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方にはブルースセッション入門編からホストバンド編までにあたる内容になります。

  • ②テンホールズ・ストリート編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈②テンホールズ・ストリート編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方には専門学校編からストリートミュージック編にあたる内容になります。

  • ①テンホールズハーモニカとの出会い編

    小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈①テンホールズハーモニカとの出会い編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方には中学生編から高校生編にあたる内容になります。

記事一覧

130話 インフォメーション②

テンホールズハーモニカの後に、僕がソロを回したピアニストも自分のソロを終え、ついでウッドベースのソロという順になるも、さすがに曲が長くなるからと黒ズクメがこれを…

129話 インフォメーション①

そのまま、僕が初めて参加したジャズセッションイベントは、メリハリもなくダラダラと続いて行った。参加者達はおのおの自分の持ち曲を選び、その都度セッションメンバー全…

128話 それって常識?②

僕はギターの彼に演奏のテンポを伝え、イントロを「カウント出し込みの4小節分で」と頼むと、再び客席の方へ視線を戻した。参加者の数人がささやき合うように、僕の手の中…

127話 それって常識?①

いよいよセッションが始まる時間となった。ピアニストとドラマーが、店の隅に設けられた段差のないステージへと入って来る。最後に入って来た黒ズクメは、壁にズシリと立て…

126話 そしてようやく②

一体何が起こったのかわからない僕は、数人が出て行ったドアの方を、いつまでもぼんやりと眺めていた。自分も似たような店で働いているのだ。自分が働く店のセッションデー…

125話 そしてようやく①

ジャズセッションというイベントが存在する事を知ってから1週間後。僕はそれまでは行った事もなかったライブハウスの前に立ち、久しくなかった緊張の中に身を置いていた。…

124話 テンホールズでジャズを②

実りの無い孤独な学習を続けながら、僕はジャズの手ほどきをしてくれそうな師を探し続けていた。 まずは手っ取り早くバンド仲間達から総当りで相談して行った。 けれど、こ…

123話 テンホールズでジャズを①

いつまで経っても「ジャズのなんたるか」がわからないままではあったものの、いつの頃からか、かつて自分が憧れたブルースハーモニカ奏者達が、お得意のブルースのフレージ…

122話 セッションデーの変化

店で働いている間も、僕は上の空でいる事が増えて行った。 仕事に手を抜いているという訳ではないのだけれど、いつも頭のどこかに「どうすれば、自分のテンホールズハーモ…

121話 僕の最優先事項③

元々デュオで演奏して来た2人は「ん?ジャズの話?はいはい、ではさよなら~」「じゃあ、また来月」と、笑い混じりで、逃げるように先に店を出て行った。 この2人はBGM演奏…

120話 僕の最優先事項②

その後、僕のバンドのライブに来てくれた常連さんは、店の定期セッションデーにも来店してくれた。 興奮しながら僕のバンドが店に出演した時の演奏の良さを口にし、他の常…

119話 僕の最優先事項①

僕がブルースセッションに通っていたBarで、バーテンダー見習いとして働き始めてから、早くも半年が経っていた。 一人での店番も当たり前となり、店を開けてからセッション…

118話 キッチン・ブルース②

店の仕事に慣れた僕は、本格的に、接客というものに興味が湧き始め、反対に音楽の方からはどんどん意識が離れて行った。 マスターの接客を横で見ていて、話を聞く際の呼吸…

117話 キッチン・ブルース①

僕が厨房に入った事で、明らかに食事の注文が増えていた。 マスターが考えていた通り、店の弱点はフード類が無かった事で、調理のためのスタッフを入れたという事がその分…

116話 バーテンダー見習い

ほどなくして、僕はバーテンダー見習いとなって、ブルースセッションの常連客として通っていたライブBarで働かせてもらうようになった。 その最初の仕事はというと、店内で…

115話 水商売入門②

1年後、ラブホテルでのアルバイト仕事にすっかり慣れて、連休などが入るたび通う日数も増えて行った。 とはいえ正直良い職場とは言えず、反社のような従業員や、借金まみれ…

130話 インフォメーション②

130話 インフォメーション②

テンホールズハーモニカの後に、僕がソロを回したピアニストも自分のソロを終え、ついでウッドベースのソロという順になるも、さすがに曲が長くなるからと黒ズクメがこれを断り次へと行かせようとした。となれば、最後はドラム・ソロという事になる。まぁ、ブルースであれロックであれ、バンド演奏のラストはだいたいドラムがソロを演るものだ。気のせいか、今日のセッションはドラムのソロが多かったような印象があった。ホストメ

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129話 インフォメーション①

129話 インフォメーション①

そのまま、僕が初めて参加したジャズセッションイベントは、メリハリもなくダラダラと続いて行った。参加者達はおのおの自分の持ち曲を選び、その都度セッションメンバー全員に楽譜のコピーを配るという作業を淡々と繰り返して行く。
演奏技術を見せるポイントなのか、後半にかけてリズムチェンジをする曲が頻繁に出て来るようになって行き、どの曲も当たり前のように、最後にはまた曲を始めた時の演奏リズムとテンポに戻される。

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128話 それって常識?②

128話 それって常識?②

僕はギターの彼に演奏のテンポを伝え、イントロを「カウント出し込みの4小節分で」と頼むと、再び客席の方へ視線を戻した。参加者の数人がささやき合うように、僕の手の中にある小さなハーモニカの話をしているのが見えた。いつもの僕ならサービス精神から「ね、小さいでしょ?このハーモニカは、」と言った感じで、演奏前のトークを挟むところだけれど、さすがにそんな余裕もなければ、フレンドリーなムードでも無かった。
(ま

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127話 それって常識?①

127話 それって常識?①

いよいよセッションが始まる時間となった。ピアニストとドラマーが、店の隅に設けられた段差のないステージへと入って来る。最後に入って来た黒ズクメは、壁にズシリと立て掛けられていた大きなウッドベースを素早く肩に降ろし、その横に置かれたマイクを片手にとると、セッションイベントの開始前に演奏するホスト・トリオによる演奏曲のタイトルと作曲者の名前だけを告げ、そのまま聞こえないほど静かなカウントをうち始める。

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126話 そしてようやく②

126話 そしてようやく②

一体何が起こったのかわからない僕は、数人が出て行ったドアの方を、いつまでもぼんやりと眺めていた。自分も似たような店で働いているのだ。自分が働く店のセッションデーで同じような事が起きれば、それは大ごとのはずなのだから。

「えーと、ブルースハープの方?初めてですよね、このセッション?」
僕は話し掛けられてようやく我に返った。気がつけばやや離れた所からセッションのホストバンドのメンバーらしい「黒ズクメ

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125話 そしてようやく①

125話 そしてようやく①

ジャズセッションというイベントが存在する事を知ってから1週間後。僕はそれまでは行った事もなかったライブハウスの前に立ち、久しくなかった緊張の中に身を置いていた。気が付けば、手に持つチラシをシワがつくほど強く押さえていた。音楽の事でそんなに力んでいるなんて自分でも驚くほどだった。初めて、ブルースのセッションデーというイベントがあると知り、行った事もなかったBarという世界へ足を踏み入れた時以来かもし

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124話 テンホールズでジャズを②

124話 テンホールズでジャズを②

実りの無い孤独な学習を続けながら、僕はジャズの手ほどきをしてくれそうな師を探し続けていた。
まずは手っ取り早くバンド仲間達から総当りで相談して行った。
けれど、これもすぐに行き詰まる。店のブルースファンの常連客以上にジャズを忌み嫌う言葉を連ねられるだけだった。それこそ「おい広瀬、やめとけよジャズなんて!!あんなの、くだらねぇんだから!」みたいに。
さらにバンド仲間達は僕の不純な考え方自体を許さなか

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123話 テンホールズでジャズを①

123話 テンホールズでジャズを①

いつまで経っても「ジャズのなんたるか」がわからないままではあったものの、いつの頃からか、かつて自分が憧れたブルースハーモニカ奏者達が、お得意のブルースのフレージングのまま、ジャズの曲を自然に演奏している様を思い浮かべるようになっていた。
「サニー・ボーイ・ウィリアムソン」、「リトル・ウォルター」に「ビッグ・ウォルター」、「サニー・テリー」に「ジェイムス・コットン」、そしてエレクトリックハーモニカの

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122話 セッションデーの変化

122話 セッションデーの変化

店で働いている間も、僕は上の空でいる事が増えて行った。
仕事に手を抜いているという訳ではないのだけれど、いつも頭のどこかに「どうすれば、自分のテンホールズハーモニカでジャズを吹けるようになれるのか」という事があった。
僕はもともと出来ない事があると、無駄にそれに集中してしまう方だった。それに加え、このジャズに関しての悩み方は、今までよりさらに厄介な部分があった。まず最初の「ジャズというものが一体何

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121話 僕の最優先事項③

121話 僕の最優先事項③

元々デュオで演奏して来た2人は「ん?ジャズの話?はいはい、ではさよなら~」「じゃあ、また来月」と、笑い混じりで、逃げるように先に店を出て行った。
この2人はBGM演奏を引き受けられるほど、ブルースやソウル、カントリーにポップスまで幅広いレパートリーを持ってはいたけれど、「ジャズ」というワードが出ると他のバンドマン達同様、検討すらしたくはないようだった。
特に僕のようなソロ楽器なら、メロディーだけを

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120話 僕の最優先事項②

120話 僕の最優先事項②

その後、僕のバンドのライブに来てくれた常連さんは、店の定期セッションデーにも来店してくれた。
興奮しながら僕のバンドが店に出演した時の演奏の良さを口にし、他の常連さん達にも絶対に観に行った方が良いと強くすすめてくれた。
僕は嬉しい反面、あまりそれを強く推されると、バーテンのライブになんて行きたくないであろう客をしらけさせすのではないかと心配で、「はい、それでは、ご注文の烏龍ハイを、かなり濃い目にさ

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119話 僕の最優先事項①

119話 僕の最優先事項①

僕がブルースセッションに通っていたBarで、バーテンダー見習いとして働き始めてから、早くも半年が経っていた。
一人での店番も当たり前となり、店を開けてからセッションイベントと、その後のBar営業をこなし、店を閉めるまでの全ての仕事を自分だけで任された日もあった。
その頃、マスターは新しい店の目玉として「中国茶のカクテル」を始めるも、これがカクテルではなくお茶そのものがウケて、店は目新しいカフェBa

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118話 キッチン・ブルース②

118話 キッチン・ブルース②

店の仕事に慣れた僕は、本格的に、接客というものに興味が湧き始め、反対に音楽の方からはどんどん意識が離れて行った。
マスターの接客を横で見ていて、話を聞く際の呼吸の見事さに初めて気づいたのだ。
一見すると、ほとんどの客から軽んじられ、からかわれたりバカにされたりもするのだけれど、その押し引きは見事なものだった。客が話したくて来たのか、聞き出して欲しいのかを見極め、ほぼ確実に相手の表情を和らげて行く。

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117話 キッチン・ブルース①

117話 キッチン・ブルース①

僕が厨房に入った事で、明らかに食事の注文が増えていた。
マスターが考えていた通り、店の弱点はフード類が無かった事で、調理のためのスタッフを入れたという事がその分かりやすい分岐点となったのだ。
おかげで、僕は厨房仕事をこなしつつ酒の注文について学ぶ期間もとれ、バーテン見習いのスタートとしては全てが順調だった。
店員として「セッションに出るべきか出ないべきか」などと考える必要も無かったほどに、調理仕事

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116話 バーテンダー見習い

116話 バーテンダー見習い

ほどなくして、僕はバーテンダー見習いとなって、ブルースセッションの常連客として通っていたライブBarで働かせてもらうようになった。
その最初の仕事はというと、店内ではなく、調理道具の買い出しから始まった。
音楽がメインという事で、マスターは今まで調理面にはまるで力を入れておらず、他のスタッフも誰一人そういった人材ではなかったので、僕を雇う最大の理由は、店の食事メニューを充実させる事だった。
そのた

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115話 水商売入門②

115話 水商売入門②

1年後、ラブホテルでのアルバイト仕事にすっかり慣れて、連休などが入るたび通う日数も増えて行った。
とはいえ正直良い職場とは言えず、反社のような従業員や、借金まみれで逃げて来たような臨時雇いの訳ありスタッフ達に囲まれ、事件の一歩手前の荒っぽい職場トラブルも日常茶飯事だった。
実際に近くのラブホテルでは部屋で殺人事件があり、ベットの下に死体を隠していたのを知らず、そのまましばらく部屋貸しを続けていたな

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