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124話 テンホールズでジャズを②
実りの無い孤独な学習を続けながら、僕はジャズの手ほどきをしてくれそうな師を探し続けていた。
まずは手っ取り早くバンド仲間達から総当りで相談して行った。
けれど、これもすぐに行き詰まる。店のブルースファンの常連客以上にジャズを忌み嫌う言葉を連ねられるだけだった。それこそ「おい広瀬、やめとけよジャズなんて!!あんなの、くだらねぇんだから!」みたいに。
さらにバンド仲間達は僕の不純な考え方自体を許さなか
123話 テンホールズでジャズを①
いつまで経っても「ジャズのなんたるか」がわからないままではあったものの、いつの頃からか、かつて自分が憧れたブルースハーモニカ奏者達が、お得意のブルースのフレージングのまま、ジャズの曲を自然に演奏している様を思い浮かべるようになっていた。
「サニー・ボーイ・ウィリアムソン」、「リトル・ウォルター」に「ビッグ・ウォルター」、「サニー・テリー」に「ジェイムス・コットン」、そしてエレクトリックハーモニカの
122話 セッションデーの変化
店で働いている間も、僕は上の空でいる事が増えて行った。
仕事に手を抜いているという訳ではないのだけれど、いつも頭のどこかに「どうすれば、自分のテンホールズハーモニカでジャズを吹けるようになれるのか」という事があった。
僕はもともと出来ない事があると、無駄にそれに集中してしまう方だった。それに加え、このジャズに関しての悩み方は、今までよりさらに厄介な部分があった。まず最初の「ジャズというものが一体何
121話 僕の最優先事項③
元々デュオで演奏して来た2人は「ん?ジャズの話?はいはい、ではさよなら~」「じゃあ、また来月」と、笑い混じりで、逃げるように先に店を出て行った。
この2人はBGM演奏を引き受けられるほど、ブルースやソウル、カントリーにポップスまで幅広いレパートリーを持ってはいたけれど、「ジャズ」というワードが出ると他のバンドマン達同様、検討すらしたくはないようだった。
特に僕のようなソロ楽器なら、メロディーだけを
120話 僕の最優先事項②
その後、僕のバンドのライブに来てくれた常連さんは、店の定期セッションデーにも来店してくれた。
興奮しながら僕のバンドが店に出演した時の演奏の良さを口にし、他の常連さん達にも絶対に観に行った方が良いと強くすすめてくれた。
僕は嬉しい反面、あまりそれを強く推されると、バーテンのライブになんて行きたくないであろう客をしらけさせすのではないかと心配で、「はい、それでは、ご注文の烏龍ハイを、かなり濃い目にさ
119話 僕の最優先事項①
僕がブルースセッションに通っていたBarで、バーテンダー見習いとして働き始めてから、早くも半年が経っていた。
一人での店番も当たり前となり、店を開けてからセッションイベントと、その後のBar営業をこなし、店を閉めるまでの全ての仕事を自分だけで任された日もあった。
その頃、マスターは新しい店の目玉として「中国茶のカクテル」を始めるも、これがカクテルではなくお茶そのものがウケて、店は目新しいカフェBa
118話 キッチン・ブルース②
店の仕事に慣れた僕は、本格的に、接客というものに興味が湧き始め、反対に音楽の方からはどんどん意識が離れて行った。
マスターの接客を横で見ていて、話を聞く際の呼吸の見事さに初めて気づいたのだ。
一見すると、ほとんどの客から軽んじられ、からかわれたりバカにされたりもするのだけれど、その押し引きは見事なものだった。客が話したくて来たのか、聞き出して欲しいのかを見極め、ほぼ確実に相手の表情を和らげて行く。
117話 キッチン・ブルース①
僕が厨房に入った事で、明らかに食事の注文が増えていた。
マスターが考えていた通り、店の弱点はフード類が無かった事で、調理のためのスタッフを入れたという事がその分かりやすい分岐点となったのだ。
おかげで、僕は厨房仕事をこなしつつ酒の注文について学ぶ期間もとれ、バーテン見習いのスタートとしては全てが順調だった。
店員として「セッションに出るべきか出ないべきか」などと考える必要も無かったほどに、調理仕事
116話 バーテンダー見習い
ほどなくして、僕はバーテンダー見習いとなって、ブルースセッションの常連客として通っていたライブBarで働かせてもらうようになった。
その最初の仕事はというと、店内ではなく、調理道具の買い出しから始まった。
音楽がメインという事で、マスターは今まで調理面にはまるで力を入れておらず、他のスタッフも誰一人そういった人材ではなかったので、僕を雇う最大の理由は、店の食事メニューを充実させる事だった。
そのた
115話 水商売入門②
1年後、ラブホテルでのアルバイト仕事にすっかり慣れて、連休などが入るたび通う日数も増えて行った。
とはいえ正直良い職場とは言えず、反社のような従業員や、借金まみれで逃げて来たような臨時雇いの訳ありスタッフ達に囲まれ、事件の一歩手前の荒っぽい職場トラブルも日常茶飯事だった。
実際に近くのラブホテルでは部屋で殺人事件があり、ベットの下に死体を隠していたのを知らず、そのまましばらく部屋貸しを続けていたな
114話 水商売入門①
陶磁器の町での貴重な1年で、持って回れるような公的な資料も飛躍的に増え、自分の企画業の売り込みは益々勢いづくはずだったのだけれど、その頃の僕は、明らかに相手に食らいつくようなハングリーさを無くしてしまっていた。
ある程度まとまった仕事を納めたせいで、自分の中で勝手に仕事の敷居を上げてしまい、仕事をもらえるかどうかもわからないならもう少し相手の反応を見ようとか、一度訪ねたのだから少なくとも次は相手か
110話 『陶磁器の町で』②
僕が目の前の紙に書かれた予算表の額面が大きい事に注目した途端、間髪を入れず、その様子をまたすぐに茶化される。
「おいおい、すぐに(この予算を)あんたにあげるって、言っとらんで。みんなでやる事が決まったもんは、ここ(組合)で払うってだけよ。決めるのは、町の若い衆よ。どう?会ってみる?」
この言葉が終わる頃には、もう彼は自分の机に置かれた電話の受話器を手に持ち、今にもその若い衆とやらに連絡しようとして
109話 『陶磁器の町で』①
さらに半年ほどが過ぎる頃、僕は観光地を抱える地域の観光課で引き受けた議事録作成の仕事を突破口に、その提出書類で「広瀬企画室仕事見本ファイル」を作成する。
その資料のおかげで「こういう相談なら、あの町はこれくらいの予算でした」とか「こういう企画書を作成すると、これくらいの時間が掛かりますので、だいたいこれくらいの費用をご用意いただければ」といったような、やや具体的な営業が掛けられるようになって行った