僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす

『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』note版です。 ハーモニカ奏者広瀬哲哉です。 この物語は私の体験談を元に、時系列や登場人物の特徴などを大幅にアレンジしている、いわば「フィクション」です。 ぜひお気軽にお楽しみ下さい。 https://www.hamonicafe.com

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『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』note版です。 ハーモニカ奏者広瀬哲哉です。 この物語は私の体験談を元に、時系列や登場人物の特徴などを大幅にアレンジしている、いわば「フィクション」です。 ぜひお気軽にお楽しみ下さい。 https://www.hamonicafe.com

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    • ②テンホールズ・ストリート編

      小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈②テンホールズ・ストリート編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方は専門学校編とストリートミュージック編にあたる内容になります。

    • ①テンホールズハーモニカとの出会い編

      小説『僕はハーモニカをポワ〜ンと鳴らす』の〈①テンホールズハーモニカとの出会い編〉です。注意)以前、エッセイ『ハメルンのベンド』をお読み頂いていた方は中学生編と高校生編にあたる内容になります。

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    57話 ハチ公の前で③

    月明りの中、駅前のブルースセッション演奏はいつまでも続き、人だかりは途絶える事がなかった。 ハーモニカを吹く僕の前には、いつの間にか飲み物や差し入れが置かれていた。これは「演奏がウケている」という意味だ。 それなのに、まだ路上演奏での常識を知らない僕は、(なんだよ、お供えかよ。演奏中は動けないと思ってバカにしてさ。まったく、お地蔵さまじゃないんだから)などと、見当違いな事で腹を立てていた。 その内に、バーボン系のお酒がビンのまま回って来る。誰もがブルースマンらしくストレートで

      • 56話 ハチ公の前で②

        デートっぽいカップル、サンドイッチを口へと押し込む男性、丸めた新聞を引き伸ばす会社員、奇抜なファッションをお互いに撮り合う女の子達、ティッシュを配る人、腕時計を見つめて足早に通り過ぎる会社員、嫌がる子供の手を引く親子連れ、望遠レンズでビル街の写真を撮る人、小さい机でアクセサリーを売る人、2人組みの女の子に話し掛ける男性、急に奇声を上げ手を振る女の子、珍しい和装の男性、布団ほどの大荷物のおばあさん、トランシーバーで話す警官、小冊子を勧める女性。 本当にさまざまな人が、渋谷駅前の

        • 55話 ハチ公の前で①

          数日が経ち、学園祭の余韻が消えると、学校全体が加速したように一気に卒業ムードに向かい始める。一部の生徒は就職に、一部は上の研究科にと進路を決める。中には学生同士でチームを作って、そのまま独立して事務所を立ち上げるなんていう気合の入ったグループもあった。さすがは厳しい課題提出の日々を乗り切ったデザイン学校の生徒達といったところだ。 僕はすでに、希望していた玩具メーカーへの就職を決めていた。デザイナーというよりは商品企画の仕事だったので、講師の先生方も友人達も、デザインの本道らし

          • 54話 学生の優先

            僕は全く自分の責任に気がつかなかった。いつも注意をされて、初めて学ぶのだ。 ライブに参加したバンドの代表者は機材の運び出しを全員で分担し手伝わなければならない決まりだった。ライブ演奏した後、それを手伝わず、その時間に外でセッション演奏で盛り上がっていれば、それは大ブーイングだ。「これでもか」というくらいの嫌な視線を注がれる。 そこには、参加バンド全員がゲストの人気ラッパーのために出演時間を削られていた事や、外での未許可の演奏でかなりの来場者を集めて、それなりに盛り上がっていた

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          • ②テンホールズ・ストリート編
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            53話 セッション

            どれくらい時間を潰したのか解らなかった。(W子は、もう帰ったろうか)と思いつつ眺める空が、ほんの少しだけ夕日に染まり始める頃、僕は割と近くで鳴っているらしいアコースティックギターの音に気がついた。 それはライブ会場ではなく、学校の入口の門からつながる階段のあたりで集まっていた数名の生徒達による、野外での演奏だった。特に聴かせる相手がいるという事でもなく、また練習をしているという感じでもなかった。ただなんとなくやっている、見るからにそんな感じだった。 僕がその集団に近づくと周

            52話 再び学園祭にて④

            僕らの次のバンドがライブの終盤に差し掛かろうとする頃、演奏後に場を離れていたキーボードを担当したW子が、なにやら両手に大きな荷物を抱えながら、僕に話しかけて来る。 「広瀬君?あれ?どうしたの?Q君は?なんかモメてるみたいって聞いたからさ。どうしたの?なんかあったの?」 答える事ができないでいると、彼女があっけらかんとした調子で聞いてきた。 「そういやさ、最後の曲さ、ブルース。あれ、なんか短くなかった?私間違えた?やっちゃったかな?気のせいかな?何が違ったの?」 この質問に、僕

            51話 再び学園祭にて③

            ライブ演奏が始まる。1曲目は緩やかなバラードで、僕はスタンドマイクの前に立ち、やや離れたところから、アコースティックなハーモニカらしい音を出し始める。 あえてダラリとした感じのルーズな演奏から始めたのは、緊張などでお互いの演奏にズレが生じても、聴いている側にはそれがわかりづらいからだった。けれど、それは無用な心配だったようだ。当日の3人の音の重なり具合は、今までで最高だと思えるほど良いものになったからだ。 僕は前日嬉しさで寝付けなかったのと、コンペの飾り付けに使うプレゼンテ

            50話 再び学園祭にて②

            数週間が過ぎ、徹夜続きからフラフラになりながらも、学園祭の当日を迎える。 僕はカメラメーカー主催のコンペへの出品とその飾り付けで、早朝から登校していた。制作スケジュールがぎりぎりの為、裏からは見せられないハリボテのような凄まじい手抜き作品での出品になってしまいつつも、ひとりで2点もの出品を実現させた僕は、他の生徒から少なからず注目をされていた。 作品展示作業が終わり、出品者全員が実行委員から審査の時間など段取りの説明を聞き、一旦その場で解散となる。 シノギを削る仲とはいえ、

            49話 再び学園祭にて①

            時は流れ、僕は2年生から専攻したインダストリアルデザインコースで、さらに過酷になった課題提出の毎日を送っていた。朝も昼もないような日々がどこまでも続いたその歳の後半に差し掛かろうという頃、デザイン学校での「学園祭」の季節がやって来る。 学園祭といっても専門学校なので浮かれたものではなく、そこには作品応募を求める企業コンペなどのイベントも加わって来る。学生にとって卒業後の就職の足掛かりを作るべく挑戦する機会でもあり、目的意識バリバリの祭典として、それに向かう学生達の前準備は入学

            48話 演奏で仲直り

            その日は、珍しくQ君を僕の家へと招いていた。高校生の頃の僕らの演奏の練習はいつもQ君の家でだったけれど、スタジオでのケンカ分かれの後に自分から連絡をしたのだから、こちらが積極的になる方が良いと思えたからだ。かといって、何か特別にもてなすというものでもなく、単にコーヒーを片手に話すくらいのものだった。 「最近、バスの本数が減ったよね」とか「前に来た時から部屋の模様替えをした?」とか、どうでも良い内容から久しぶりのQ君の言葉は始まる。僕はそれらにぽつりぽつりと答えながらも、なかな

            47話 孤独な歩み

            デザインの専門学校は2年目を迎え、僕は専門分野となるインダストリアルデザインを選ぶ事になる。そのコースを選択した生徒は、電化製品や自動車などのデザインを仕事にするべく、造形を中心に学ぶ事になるのだけれど、樹脂の成型や塗装などが多く、なおさら時間が掛かる課題ばかりとなり、学校への泊まり込みも日常的となって行った。 クラスメイトも一新し、僕の選んだインダストリアルデザイン科は職人肌で寡黙で真面目な人が多く、以前のような目立ちたがり屋タイプはかなり少なくなった。それでも、常に自分

            46話 ヒューイ・ルイス

            フルメタルのハーモニカの故障により、ハーモニカという楽器が消耗品だと知らされて以来、僕は少々練習に熱が入らなくなってしまった。いずれは12keyの全てを揃えればそれでもう出費は終わりだと思っていたのに、使うそばから壊れて行くのではいくらお金があってもキリがないと、セコイ事に気をとられていたからだった。 僕はなるべく小さめの音で、ベンドも音の下げ幅を甘めにして、常に気を使いながら練習を続けた。完全にブルースらしい力強さを無くした音だったのでテンションも上がらず、冴えない日々が続

            45話 フルメタルのハーモニカ

            トップハーモニカ奏者八木のぶおさんのライブの幕間に、僕がいつも見つめていたもの、それは毎回演奏後に腰から外され、ステージの椅子に置かれるハーモニカベルトに差し込まれた、8本のハーモニカだった。 当時、八木さんの使っていたテンホールズハーモニカは、ホーナー社の「マイスタークラス」という特別な機種で、当時で1本 9800円もするテンホールズの最高級品だった。名前にふさわしく、重厚さを伴った独特の艶を持ち、その音色は当然、見事なものなのだろうけれど、僕は八木さんの演奏でしかマイスタ

            44話 ハーピストのライブ

            高校の同級生とスタジオをめぐってケンカをした後、総勢25人で「スタンド・バイ・ミー」1曲を演奏する企画が、結果として大勢から嫌なひやかされ方をされるような結果になってしまい、僕はスタジオという場所自体に全く興味が無くなってしまった。 それどころか、人前ではあまりテンホールズハーモニカを吹かなくなった。初めて、ハーモニカで「妬まれる」という経験をしたからだ。どことなく惨めな気分が似合うこの楽器は、茶化される事はあっても妬まれるなんて、正直想像もできなかった。 それでも、自分ひ

            43話 ならば、みんなで④

            学校に戻ると空いている教室を借り、今撮ったばかりのビデオを25人全員の前でそのまま上演する事になった。僕は食い入るようにその映像を見つめながら、高校の同級生のQ君がスタジオを出るやいなや、録音したてのテープにかじりついていたのを思い出した。おそらくは彼もこういう気分でいたのだろう。 映像が流れる。ただ自分達が映っているというだけでも参加者達から歓声が出る。今のようにスマホなどはない時代なので、動画に自分が映ったのが初めてという人もいたくらいだった。 最初の数分はさっさと早送

            42話 ならば、みんなで③

            僕の決めた演出により、口笛のソロから始め、次いで「スタンド・バイ・ミー」の定番である「ブブ、ブン、ブン♫」というベースのイントロがスタートする。 始まるなり失敗。「ゴメン!」という声が響くと、皆が笑って応える。全員に気負いがなく、イベントとしては非常に望ましい状況だった。 やり直しからスムーズに始まったイントロには、すでに僕のハーモニカ演奏が入っていた。自分の出番を増やすべく、さりげなく現場で追加したのだ。これも役得という訳だ。 4人のボーカル達は代わる代わるマイクの前に立