#11 ネオ・ネイティブ・ジャパニーズのすすめ(前編)
前回のエッセイ「未来の生き方は限界集落に聞け」の中で、今この小さな蛤浜を訪れる都市部の人たちが増え、交流を持つ機会が増えてきたことを書きました。私は、実はこの交流こそ、これからの未来を創造していくための重要な鍵であると感じています。
浜を訪れる都市部の方々は、それぞれの職業や年齢、関わり方は本当にさまざまですが、主に関東圏から来てくださる人が特に多く、中でもIT企業や外資系企業などの会社員、オフィスやインテリアのデザイナーなど、ふだんは都会でバリバリ働いていて、圧倒的な自然の中にある浜とは対照的な場所に身を置いている人が多いという特徴があります。
私たちは、そうして遥々足を運んでくださる皆さんを上げ膳据え膳でおもてなしするのではなく、むしろそれとは逆に、私たちが浜で日々営んでいる暮らしそのものに主体的に参加してもらうことを、最も大切にしています。
朝に一緒に海へ出て漁をして、お昼にはそこで捕れた魚介を調理してみんなで食卓を囲み、午後は晴れていたら海辺や森の中で焚き火をしたり、雨であれば自然の中から集めてきた素材でものづくりをしたり…。
私たちはこの、1日をかけて行う貸切のプランを、ただの「漁業体験」や「食育体験」などの体験サービスではなく、浜の暮らしをシェアする「浜のライフシェア・プラン」のような位置付けで考えています。
浜の暮らしは季節、その日の海の様子や天候によってもどんどん変わるので、その時々で内容も柔軟に変えてゆきます。海をぼーっと眺めたり、縁側でお昼寝したり…..思い思いに浜の時間を味わってもらいたいので、予定もあまり詰め込まず、余白をたっぷりとることを大事にしています。
都市部からはるばる蛤浜まで来て、最初は「こんな場所でこれからどんなことをするんだろうか」と緊張の面持ちの皆さんが、ひとたび船で海へ出るとキラキラと瞳を輝かせて子どもに返ったような表情に変わります。
ひとたび海へ出れば、長年積み重ねたキャリアも肩書きももはや関係なく、誰もがひとりの人間に戻ります。皆さんからはよく、自然と対峙する畏れ、高揚感、子供のように純粋にワクワクする気持ちが溢れてきた、という感想をいただきます。
漁から戻ってきて皆で座敷に並べた食卓を囲み、自分たちで獲った魚やおむすびなど素朴だけれど海の幸豊かなお昼ごはんをいただく頃には、もう参加者の皆さんも私たちもすっかり打ち解けて、自然と笑顔が溢れる時間が生まれます。
「自分でもこんな自分がいたことを忘れていた」
社会の中で仕事や日々の生活に追われるなかではなかなか感じることのできない「生き物」としての感覚のようなもの、シンプルに「生きる」ということの本質が、こうした時間を過ごすことで、参加者の方ひとりひとりの内側から目覚めてくるようです。
私たちも毎回、そんな参加者の方たちの変化の瞬間に立ち会うたびに感動を覚えます。
私たちは皆、限界集落に住んでいようが都市部に住んでいようが、自分の中の「生きる力」を思い出したときから誰もが、現代においてこの日本列島の自然とともに生きていく知恵を引き継ぐ人々…「ネオ・ネイティブ・ジャパニーズ」になることができるのです。
この「浜のライフシェア・プラン」に参加してくださった方の中には、その後も何度も何度も蛤浜へ通い、長年関わってくださっている「ネオ・ネイティブ・ジャパニーズ」がたくさんいます。
その方たちに共通しているのは、「自分もこの浜との関わりを通じて、ともに新しい未来を創造していきたい」という強い気持ちです。
次回はそんな方々との関わりと共同創造について、書いてみたいと思います。
(つづく)
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