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#7 希望をつなぐ(後編)

 #6で書いたような話し合いと準備を経て、いよいよ2021年11月、はまぐり堂にて、浜のお母さんたちと若者たちが交流する初めての体験ツアーが開催されました。

 朝、浜に集合したツアー参加者の皆さんは、はまぐり堂オーナーの亀山と一緒にカゴ漁の体験からスタート。

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私としょうこさんのスタッフ2名はお米を炊いたり味噌汁や魚のフライ、野菜のお惣菜を用意したりして、お昼ごはんの支度をします。
 お昼近くになると、今回協力してくださる2人の浜出身のお母さんたちも到着。それぞれが作ってきてくださったお料理も合わせて、みんなで配膳の用意をしました。厨房で支度をしている間もお母さんたちの面白いお話が飛び交い、終始笑いが絶えません。

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 参加者の皆さんが漁体験から戻ってきて、ひと段落したところで、食卓にお料理を並べ、みんな揃って「いただきます」。季節のご馳走がずらりと並ぶ様子に、参加者の皆さんからも歓声が上がります。

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今回のお昼ごはんは、以下のようなお料理が並びました。
○はまぐり堂:
 ・はまぐり浜のスクモガニの蟹汁 ・土鍋ごはんのおむすび
 ・はまぐり浜のくるみ味噌 ・蛤浜のタコぽっきん(タコの和え物)
 ・サバフライ ・小松菜のお浸し 
 ・大根とひき肉の煮物 ・ゆでブロッコリー 
○お母さんたち:
 ・浜漬け(茎わかめと野菜を使った生姜風味のお漬けもの)
 ・大根のゆず漬け ・エゴマの葉のしそ巻き風
 ・自家製くるみだれの「くるみだんご」
 ・自家製の栗の甘煮を入れた「栗だんご」
 ・春に摘んだよもぎを保存しておいたもので作った「よもぎだんご」

みんなで食卓を囲みながら、お母さんたちのお話に耳を傾けます。

「私の父親は漁師だったんだけど、タコ漁のときに、金歯を海に落としてね。それで、カゴに入っていたタコに『俺の金歯、探してきてくれないか』って言って海に逃したら、金歯を取ってきてくれたんだって(笑)。『ありがとうな』って言ってそのタコは海に返してやったんだそうだよ。タコってすごく賢いって言うけど、これもタコの恩返しなのかしらね〜」「え〜っ、そんな奇跡みたいなこと、あるんですか!?」
 タコを使った料理を食べながら、びっくりするような昔の思い出話も出てきます。
 「これね、クラッカーに、くるみ味噌とクリームチーズを合わせて乗っけると、相性ばつぐん。簡単だけど、ちょっとおしゃれなお茶請けになるのよ」
 ご飯に乗せて食べるだけじゃない、くるみ味噌の新しいおやつのアイディアも、みんなに「おいしい!」と大好評。

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 それぞれの地域で農業や地域の魅力づくりに取り組む若者たちには、お母さんたちのお料理がとても響いた様子で、「最高においしい〜!」「どれも手間をかけたのがすごく分かる、ありがとうございます」と幸せそうに頬張っていました。
 お母さんたちもそんな参加者の皆さんの様子に、どんどん元気が出てきてニコニコ、大笑い。「若い人たちが喜んで食べてくれて、本当にこっちも嬉しくなるわ〜」「いつもは旦那に”またこれか〜”と言われながら作ってる料理だけど、それに価値があるって言ってもらって、喜んでもらえて、こっちが元気もらうよね。"こんなものでいいの?って思ってたけど、これ(季節の家庭の料理)が、いいんだ!"というのが嬉しい」と、若い人たちとの交流を楽しんでくださいました。

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 食事と交流の終わりに、参加者の皆さんに今日の感想を伺ったのですが、そのときに一番多かったのが「とにかく、お母さんたちが元気で、生き生きしていて、若いなあと思った」「お母さんたちのパワーに圧倒されっぱなしでした(笑)!なんでそんなに元気なのか知りたい」という、尊敬と驚きの声でした。お母さんたちのエネルギッシュな生き様そのものが、若い人たちにとっては強烈に印象に残ったようです。

 この若者たちの感想は、今回の企画を試みた私たちにとっても、とても嬉しく、大きな収穫となりました。
 お母さんたちが当たり前のようにやっている、季節の恵みを生かして食べ、自然とともに暮らす、ということ。それは言い方を変えれば、季節ごとの自然の持つ力をそのままいただき、自分の力に変えて生きてゆく、ということでもあります。
 山の持つパワー、海の持つパワーをしっかりと受け取って、糧にして生きているお母さんたちは、元気に手も動かし、頭も動かし、日々の暮らしを紡いでいます。
 これこそが自然とともに生きる日本列島の人々の知恵、「ネイティブ・ジャパニーズ」の知恵なのです。そして、この知恵を持って暮らしているお母さんたちにひとたび会えば、今回の若者たちが「なんでこんなに元気なの!?」と圧倒されたように、自然とともに生きる人々の持つ、力強い生命力を感じることができるのです。

 また、若い人たちがお母さんたちからパワーをいただいたのと同じように、お母さんたちも「若い人にこんなに喜んでもらえて、本当に元気が出た!」「またこういうのやりたいね、楽しかった〜」と何度も言ってくださったのも、私たちにとってとても嬉しいことでした。
 お母さんたちが日々の暮らしの中で作り続け、自分では"当たり前"で"大したものじゃない"と思っていた家庭料理。それがよその人や若い人たちからすれば、"愛情と手間ひまをかけ、自然の恵みを活かした、最高においしいご馳走"なんだということが実感できた日になりました。ついにお母さんたちの当たり前の暮らしの中に眠る宝物に、光が当たったのです。

 今回の体験ツアーを開催してみて、確信したことがひとつありました。
 この地元のお母さんたちと一緒につくる体験ツアーにおいて、最も大事で最も皆の心に響いたことは何だったのか...それは、ただ単純に「お母さんたちのつくる料理のレシピを学ぶ」ことでも「懐かしい思い出話を聞く」ことでもなく、それ以上に、「自然とともに暮らすお母さんたちの生き様に触れ、その暮らしの中で培われた生命力を直接感じる」ことであり、それこそが最も重要で、今、必要とされていることなのではないか、ということでした。

 当たり前すぎてほとんど誰も光を当てずにきた地域のお母さんたちの日々の営みの中にこそ眠っている、一番大切な生き方の知恵。今それを皆で共有してゆかなければ、この知恵は知らぬ間に忘れ去られ、これから先どうやって生きてゆけばよいのか、その大切なヒントを私たちは失ってしまうことになります。
 今を生きる私たち、そして未来の子どもたちは、何があっても自分たちで暮らしを作ってゆく力、消費だけに頼ることなく、自然の恵みを生かしながら暮らしてゆく力を必要としています。それを持っているのが、地域の先輩たちなのです。
 水害や地震などの自然災害、コロナ禍、不安定な世界情勢…いつ何が起こるか分からない、日常が大きく揺らぐ時代に、その生き方はひとつの確かな希望となるはずです。

 地域のお母さんたちから、これからを創ってゆく若者たちへ、「生き方」という希望をつなぐ。ここにこそ、私たちがこの試みを続けてゆく意味がある、と強く感じた1日となりました。


はまぐり堂 LIFEマガジン【ネイティブ・ジャパニーズからの贈り物】
執筆担当:亀山理子(はまぐり堂スタッフ / ネイティブ・ジャパニーズ探究家)早稲田大学教育学部学際コース、エコール辻東京フランス・イタリア料理マスターカレッジ卒。宮城県牡鹿半島の蛤浜に夫と動物たちと暮らしながら、はまぐり堂スタッフとして料理・広報などを担当。noteでは浜の暮らしの中で学んだこと・その魅力を”ネイティブ・ジャパニーズ”という切り口から発信中。


掲載中の記事:
はじめに
#1 食べることは生きること(前編)
#2 食べることは生きること(後編)
#3 足元の宝ものを見つける(前編)
#4 足元の宝ものを見つける(後編)
#5 希望をつなぐ (前編)
#6 希望をつなぐ (中編)
#7 希望をつなぐ (後編)
#8 浜のネイティブ・ジャパニーズ(前編)
#9 浜のネイティブ・ジャパニーズ(中編)
#10  浜のネイティブ・ジャパニーズ(後編)

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