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美術史第36章『20世紀最初の美術』


・20世紀の始まりの歴史


アインシュタイン
血の日曜日事件(1905年)の絵画


  20世紀初頭、ライト兄弟の人類初飛行や、プランクによる量子論の創始、アインシュタインの相対性理論発表など人類が大きな進歩を遂げる一方、日露戦争の結果の「血の日曜日事件」と「韓国併合」、「青年トルコ革命」、「辛亥革命」、「メキシコ革命」、「モロッコ事件」、「バルカン戦争」などが起き世界が不安定化した。

wikipediaにある第一次世界大戦の戦闘達のまとめ

 そしてついに1914年には第一次世界大戦が開始し、ロシア帝国は崩壊しソビエト連邦となり周辺諸国への侵略を開始、ドイツ帝国も滅亡し莫大な賠償金を抱えヴァイマル共和制が成立、オーストリア=ハンガリー帝国は分裂、オスマン帝国は崩壊し中心部はトルコとなって、その他の地域は欧州諸国に植民地化された。

20年代のニューヨーク

 その一方で戦後にはアジア各地で欧州諸国からの独立運動が開始、また、第一次世界大戦で衰退しきった欧州諸国に余裕のあったアメリカ合衆国が莫大な資金を貸し、これにより「狂騒の20年代」と呼ばれる時代が到来した。

当時のジャズバンド
フラッパーの格好をしたルイーズ・ブルックス

 ここでは製造業が爆発的に発展したため「大量生産・大量消費」という状態に入り、ジャズなどの娯楽が大いに繁栄、スカートやボブカット、強いメイクアップなど現代女性の元となったとも言える「フラッパー」というファッションが流行、ラジオ放送やレコードが普及しした。

世界的に著名なアール・デコ建築「クライスラー・ビルディング」
世界で最も著名な建築物の一つ「エンパイア・ステート・ビルディング」
フランスのルネ・ラリックによるアール・デコの装飾品

 美術の面では世界の中心となったアメリカで幾何学的な図形や記号的表現や原色を使った対比表現を使う「アール・デコ」様式が流行、20年代の経済や文化の大発展は大戦で衰退していたヨーロッパでも起こっていたためアール・デコの様式はヨーロッパでも流行した。

大暴落を見るニューヨークの民衆

 しかし、1929年、「ウォール街大暴落」という株価大暴落がアメリカで発生、狂騒の20年代の文化繁栄は消え失せ、世界全体が衰退することとなる。

・20世紀芸術の始まり


大人気イラストレーター ジュール・シェレが描いたベル・エポック

  20世紀に入った頃のフランスの芸術の都パリは19世紀末期に続き「ベル・エポック」と呼ばれる華やかで享楽的な時代が続いており、パリを中心とする西洋美術は繁栄と平和を享受、フランスの「アール・ヌーヴォー」、ドイツの「ユーゲント・シュティール」、「モダニズム」などのそれぞれ独自色を保ちつつ新しさを求める「世紀末芸術運動」の流れがヨーロッパ中を席巻した。

ミュシャ
ミュシャの作品の一枚

 アール・ヌーヴォーの運動の中では多くのパネル、ポスター、カレンダーを制作するアルフォンス・ミュシャという画家が活躍し、曲線を多用した作風で「スラヴ叙事詩」などを描いた。

アーツ・アンド・クラフツ運動の指導者モリス
モリス商会の壁紙

 この時代には多くの分野で相互に交流しながらの美術の追求が展開されており、この時期に結成された代表的な芸術家グループとしては、産業の発達によって大量生産による安い粗悪品が溢れかえっている現状に反発し、産業革命以前の手仕事に帰り生活と芸術を統一するという思想をもったウィリアム・モリス率いる「アーツ・アンド・クラフツ運動」がある。

雑誌「ユーゲント」の表紙

 他にも「ラ・ルヴュ・ブランシュ」という芸術雑誌を中心としたフランスの芸術家集団、ベルギーの前衛芸術集団「ラ・リーブル・エステティーク」、「ユーゲント」や「パン」の雑誌を中心としたドイツの画家集団、ミュンヘン・ウィーン・ベルリンで結成された分離派グループなどがあった。

ウィーン分離派の画家で世界的に著名なクリムト
クリムトの代表作で世界的に知られる「接吻」
クリムトの代表作「アデーレ=ブロッホ・バウアーの肖像I」

 その中でもウィーンで結成された「ウィーン分離派」の影響力が強かったとされ、「接吻」「ダナエ」「ユディトI」「アデーレ=ブロッホ・バウアーの肖像I」などの作者でアカデミック美術のハンス・マカルトの後継者であったグスタフ・クリムトがここで活躍した。

ココシュカの作品
シーレの自画像
ロースの建築

 このウィーン分離派の影響によりオスカー・ココシュカやエゴン・シーレなど内面の主観的な部分を重視する「ドイツ表現主義」や、「装飾は犯罪である」と唱え、モダニズムの先駆的な建築を行なったアドルフ・ロースなど独自の思想を持った芸術家の誕生が促されたとされる。

世界的に著名なノルウェーの画家ムンク
ムンクの代表作で世界で最も著名な絵画の一つ「叫び」
ムンクの代表作「マドンナ」
アンソールの自画像
ホドラーの自画像

 結果、ノルウェーの画家で「叫び」「マドンナ」などの作者であるエドヴァルト・ムンク、ベルギーのジェームズ・アンソール、スイスのフェルディナント・ホドラーなど後に流行することとなる表現主義の絵画に大きな影響を与えた画家達が盛んに活動した。

 現代美術の始まりは新しさを模索する豊かな19世紀末期の世紀末美術の流れを受け継ぎ表現主義などさらに発展させることで始まったと言える。

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