「人新世の資本論」・・・これ、読まずにはいられない本よ
わりとスラスラ読める。難しい単語も出てくるけど、経済新聞ほど読みづらくはない。
ただ、書いてある内容を理解し、それに共感するだけではなく、行動に移すことの壁・・・!
著者はドイツで哲学を研究し、経済思想(特にマルクス)を専門とする斎藤幸平氏。以前TVでインタビューを拝見したが、1987年生まれという、平成をまるごと生きてきた世代(同世代には落合陽一さんや渡辺直美さんなど)特有なのか、クールさとゆるさのミックス加減が印象的。
さて、肝心の本の内容は・・・冒頭からSDGsは「大衆のアヘン」である、と言い切るあたり、しょっぱい。今ドキ小学生でも「SDGsが〜」っ講釈垂れるけど、それは経済成長を続けていくための、最低限の行動指針というかアリバイ作りのようなもの、とおっしゃっている。
まあ、確かに「ロハス」が注目を集めた2000年代以降、「環境問題に配慮する意識高い系の消費者」っていうのは急増した。ただ、残念ながらその行動は企業にとって新たなマーケットとして歓迎され、次々と「ロハス」な商品が生産され消費される、というサイクルを生み出しただけだった。
いったいどれだけの「ロハス」な人々が、便利な都会の生活を捨て、田舎で自給自足の生活をしよう、などど思い立ったでしょう?
あくまでも、ファッションのひとつとして「環境」を取り入れてみただけ、というのがこの時代の特徴。
でも、もはや事態はそんな呑気なこと言っていられないほど急変し、おそらく今の10代以下は間違いなく、気候変動のしわ寄せによって生活の質を変えざるを得ない。
エコバッグを使い、マイボトルを持ち歩き、車はハイブリッドカー。それで安心するなら、火事になった家の玄関先だけ水をかけているようなもの。せっかく努力して築いた「環境に配慮した生活」に、気候変動は容赦なく牙を剥いてくる。
かといって、何もしない焦燥感や罪悪感に、私たちは耐えられない。そこで分かりやすく行動の指針となってくれるSDGsに飛びつく、というのが「大衆のアヘン」という訳。
この本の前半では、さまざまな思想やデータを用い「資本主義」がどうあがいても「環境の危機」に歯止めをかけられない理由を説く。
分かりやすい例をあげるなら、畑で実った大量の野菜を、トラクターが無惨につぶしていく光景を思い浮かべよう。
廃棄される野菜。
数年前にそのニュースを見た時、「もったいない」とは感じても、「なぜ?」と問うてみることをしなかった私自身、「問題の本質から目を背ける」という傾向があらわ。
「売ってお金にならない」ものは、コストをかけてでも「捨てる」というのが今の市場経済の考え方。
市場での需要と供給のバランス。そこに自然の采配が絡んでくる時、私たちはおそらく「自然」の方を切り捨てる。豊作によって米の供給が増え、結果的に値段が下がり、農家は損をする。そんな仕組みの中では本来の「収穫の喜び」などかすんでしまう。
これに対し、著者は「ラディカルな潤沢さ」というキーワードを提唱する。
「ラディカル」には「過激な」とか「根源的な」という意味があるが、たとえば昔の日本では「水」は公共のもの、皆が使ってもなくならない潤沢なもの、という認識があった。今や、ペットボトルに詰められ〇〇産、とラベルを付けられて商品化している水は、本来誰のものでもなく、誰もが等しくアクセスできるものだった。
このような「公共財」の最大のものが「地球」であるわけだけど、私たちはいつの間にか「専有」できるものだけに価値を置き、それ以外は「どうなってもいいもの」として顧みなかった。その最たる例が海洋汚染で、海は「専有」できないからこそ、誰も守ろうとしない無法地帯と化しているわけだ。
たとえば、ここに大量の大根があって、「好きなだけお持ちください」とあったらあなたは100本持ち帰るだろうか?いや、おそらく自分で消費できる2~3本、あるいは人に分けてあげられる分だけを持ち帰るだろう。
もしその隣に「大根1本150円」で売っている店があったら?店主は「無料で持ち帰る」客に怒りを覚え、そこにある大根すべてを自分の店に持ち込むかもしれない。
「商品化」できるものはすべて商品化し、さらにその商品が「希少」になって高く売れるために、他の場所からも奪う。「どこにもない」商品を売っていれば、資本主義では勝者でいられるから。
と、ここまで来て、「あ〜もう資本主義ムリだ」と思っただろうか?私たちはそこまで、物わかりが良くない、と思うのです。頭では理解しても、生まれてこのかた資本主義にどっぷり浸かって、「豊かさ」「便利さ」を追求してきた我々に、資本主義じゃない生活様式なんて想像ができない、ということも見越して、この本はさらに先を説く。
ここからが、読んで価値のある、しかし読んだだけでは何の意味もない核心部分になるのですが・・
長くなるので、この続きはまた次の機会に。
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