見出し画像

これから…1番遠い場所へ/連載エッセイ vol.61

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.63(2011年・第2号)」掲載(原文ママ)。

私は今、約1ヶ月振りに岩手の外へ出て、東京は品川駅前のホテルで、この原稿を書いている。
思えば、この仕事に携わるようになって、そして特にこの数年間、これだけ県外へ出ずに過ごした事は皆無であった。
しかしながら、それはあくまで暦上の問題であり、久々の県外出張であるという自覚が、自分として、実はそれほどない。
この1ヶ月は、余りに多くの事が起きすぎた。

臨時便で降り立った東京の街は、特段いつもと変わらぬ様子で、人も車も鉄道も忙しく動いている。
若干の拍子抜けを感じながらも快速へ乗り込み、駅に到着し、改札を潜り抜け、雑踏にまみれながら駅前の横断歩道を渡り、何気なく後ろを仰ぎ見た時、私は突如、現実に引き戻される。

『駅前が…薄暗いな…やっぱり』。

この地も、あの出来事からは無縁でいられないという現実を目の当たりにし、踵を返した私は、重い荷物を引きずり、宿泊予定のホテルを目指す。
開花宣言が出されたとはいえ、未だ肌寒い街を歩く人々の姿が、いつもより少し猫背がちに映って見えた。


あの日私は、翌日から約1週間の予定で始まる、関西方面への講師出張の用意をする為、県南にある自宅で、講義の準備を進めていた。

突如、携帯から聞き慣れない『着信音』が轟く。
普段から設定を『マナーモード』にしている私は、間抜けにもその時…

『いつの間に着信音が設定されたのかな…? 
 しかも、こんな趣味の悪い音色に…??』

…などと怪訝に思い、携帯へと手を伸ばした…そして…。

『あまりの事柄に、その時の記憶がありません』…というには、余りに長いその『瞬間』が過ぎた後、私が目にしたモノは、『耐震ストッパー』を物ともせず、派手に倒れ壊れた本棚と、散乱する医学書やファイルと、ところどころ傷つき裂けてしまった畳であった。

『たいへんなコトが起きた…!!』

しかしその認識がまだまだ甘いものであった事を、約36時間後、電気が復旧した真夜中の自室で、液晶テレビが映し出す映像が告げたのだった…。
 

あれから3週間と少し。内陸に住む私の生活は、まだ不自由な部分があるとはいえ、沿岸の深刻な被災地に比べると、はるかに『日常』を取り戻している。

この『被災生活』を通して、嬉しい発見もあった。
東北人が本来持っている『(人間に限らず自然を含めた)他を思い遣り、粘り強く耐える心』である。

厳しい自然環境によって育まれたこの『気質』を、実は私、これまでネガティブに捉える事もあった。
つまり、農耕民族気質が強い東北人は、『お天道様』には敵わない。
だから『御上』には逆らえない。
よって『現状を打破していこう』という『気概』に欠ける…と。

ところが、報道による首都圏の『買い占め騒動』を尻目に、やっと開いたスーパーで、他の客を慮りながら、控えめに買い物をする人々の姿には、『これぞ東北人の気概』という清々しさを感じた。

事実、それらを称える報道も頻繁に見られ、この『強さ』で東北は必ず復興する!!…という論調には、少なからず胸が震えたのも事実である。
私自身、『近代的』な価値観の中で埋もれがちな、『東北人のアイデンティティー』を今更ながら『再発見』できた喜びもあった。

しかし…しかしである。
本当に、これまで東北人が有していた精神性を強調するだけで、復興は進むのだろうか…?
そんな『疑問』が、日常を取り戻しつつある今だからこそ、脳裏に浮かんでくる。

『3・11』という出来事を境に、きっとこの国は変わっていく。
いや、変わらざるをえないはずだ。
表面上のシステムではなく、『価値観』という意味で。

そのような中、従来の精神性の良い部分は自覚し残しながらも、やはり東北人も変わっていく必要があるのではないだろうか。
『耐え忍ぶ』だけでは堪え切れない、今回の出来事から立ち上がっていくために。
 


…と、大上段に構えたトコロで、私自身、明確なビジョンを持っているワケではない。
だからこそ、少し遠くへ出掛けてこようと思う。
行き先は、地球の裏側・ブラジル。
2年前にも参加した、世界カイロプラクティック連合(WFC)世界大会が開催される、リオデジャネイロへ。

当然、彼の地へ向かうコトは事前に決まっていたコトであるが、今回の出来事を受けて、正直、参加の是非を検討する場面もあった。
この様な時期、長期に地元を空けてしまってよいものか…??

結論はしかし、こんな時期だからこそ行こう、と。

今の自分がそうであるように、深刻な被災地の方々が『日常』を取り戻し始めた時、きっと様々な思いが胸中に去来するであろう。
迷いや虚無感もあるだろう。

そんな時、せめて自分くらいは、自分自身を支えられる程度の『価値観』を確立していたいと思う。
沿岸を最も近くで支える内陸の人間として、自分の足でしっかり立っていよう。
そのヒントを掴む為に、いっそ最も地理的に遠い場所へ行くのも悪くはない…今はそう考えている。

そんなワケで、これから成田へ移動して、いっちょ飛んできます!!
アディオス!!

 

最後になりましたが、この度の震災で犠牲になられた方々に、心よりご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご遺族の方々にお悔やみ申し上げます。
また、被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。 

そして、このような状況の中、組合登録院へいらして、スタッフの安否を気遣ってくださいましたお客様へ、最大限の感謝を表したいと思います。
ありがとうございました。


☆筆者のプロフィールは、コチラ!!

☆連載エッセイの
 「まとめページ(マガジン)」は、コチラ!!

※「姿勢調整の技術や理論を学んでみたい」
  もしくは
 「姿勢の講演を依頼したい」という方は
  コチラまで
  お気軽にお問合せください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?