オサレ番長の静かなる殺意/連載エッセイ vol.66
※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.68(2012年・第1号)」掲載(原文ママ)。
この連載エッセイでも、ちょくちょく名乗ってはいるが、今更ながら実はワタクシ、『オサレ番長』である。
『半身浴中の愛読書』として『定期購読』する男性ファッション誌は、ナニゲに2冊へと増えた『オサレ番長』である。
先日、海外のカイロプラクティック大学の某教授から、『キミのイタリアンなファッションは好きだよ…でも…国際会議に出席する時は、おとなしめな服装でね!!』…と『ご指導』を受けた程の『オサレ番長』である。
そしてその直後、いそいそと某量販店へ出向き、数年来、買った事のないようなフォーマルデザインのドレスシューズを購入する…少し謙虚な『オサレ番長』でもある。
さて、そんな『オサレ番長』、1番の悩みは…『地元・岩手で服を買いに行けない』事。
第1に、地元にいる時は、お客様に向き合うクリニック業務やら、セミナー準備などのデスクワークやらで、プライベートな時間がなかなか確保できない。
第2に、そもそもこの『オサレ番長』を満足させるだけの品揃えを誇るショップが、地元には…。
そんな訳で、ワタクシこと『オサレ番長』が本気で買い物に向き合えるタイミングが、主に海外における『出張時』であり、今回は先日出掛けてきた『アメリカ研修』での『ショッピング顛末』をお話しようと思う。
(まぁ…真面目な『研修報告』は、通信表面にお任せするとして、コチラは肩の力を抜いて読み進めて頂きたい)。
突然ではあるが、世の中には『ジンクス』というモノが存在する(らしい)。
そして、毎年参加するこのアメリカ研修において、ワタクシにとってのジンクスというのが、『ベガスで当たればLAで外れ、ベガスで外せばLAで当たる』…というモノ。
つまり、ショッピングにおいて、ベガスが『豊作(良い買い物が出来た)』な時は、不思議とLAでは『不作(買い物イマイチ)』で、ベガスが『不作』な時は、逆にLAで『豊作』になる…というのが、数年来続く私のジンクス(もしくは『アメリカ研修あるある』!?)。
さて今年は、日程&移動の都合と、パーカーセミナーの合間を縫って随所にミーティングが入った為、例年以上にスケジュールがギチギチ。
されど、ココでショッピングを諦めたら『オサレ番長』の名が廃る…という訳で(!?)、2日目には行きつけの『プレミアム・アウトレット・ノース』、3日目にはこれまた行きつけの『フォーラム・ショップス』&久方振りの『ファッションショー・モール』を、まるで『業者』の如く短時間のうち『潜行』する事に成功!!
そしてその成果は…『豊作』!!
訪れた3箇所全てで納得のショッピングが出来、大満足な内容であった。
(ちなみに…『フォーラム~』の某レストランでランチを取っていた所、パーカーセミナーの某スピーカーとバッタリ出くわし、必死に抜け出している事を誤魔化そうとするも、よく考えたらムコウも抜け出してきている事に気付き、開き直って『記念撮影』まで敢行したのは…内緒である!!)
しかし…『好事魔多し』。
身の丈以上のモノを欲しがるのは、哀しきヒトの性であろうか…。
調子に乗ったワタクシ、つい余計な事を考えてしまうのである。
そう…あの『ジンクス』を、今年こそは破ってみようか…と。
そして、その『欲望』が…思わぬ『地獄』を招くのである!!
ここで、1人の友人を紹介しよう。
彼の名は、『I氏』。
ワタクシが所属する団体で、共に『講師』を務める人物だ。
実のところ、彼は『海外』が苦手である。
以前は、折角海外研修に出てきても、自由時間にはホテルの部屋に引き籠り、日本から持参した『お茶漬けの素』をパクついているような典型的『内弁慶』であった。
それが、何のきっかけだったか、今では忘れてしまったが、ワタクシと行動を共にするようになり、以降、積極的に異国の街へ出掛けるようになったのである。
但し、ワタクシと彼には、決定的な『相違点』が1つあった。
それは、『寝るのは日本でも出来るんだから、海外来た時ゃ、目一杯出歩こう!!』というワタクシに対し、彼は頑ななまでに『体内時計』を『日本時間』からずらそうとはしない…。
そんな2人の『異質性』が、時折ハプニングを呼ぶ事があり、今回も(残念ながら)その例に漏れる事は決してなかったのである…。
4日目。
ベガスからLAへ空路で移動。
UCLAでの解剖実習参加組は、前日にLA入りしているので、空港からホテルへ向かい合流。
時は既に正午近く。
夜には帰国直前のミーティングも予定されていた為、残された時間はあと僅か…。
しかし…ワタクシは迷う事なく、ホテルをタクシーで飛び出した!!
そう、あの『ジンクス』を破る為!!
向かうは、LA随一の『オサレ・ショッピングスポット』である『ビバリーセンター』!!
もちろん、その一行には…あのI氏も含まれていた…!!
ハリ治療を受けた際の、恐らく医療ミスで、下肢に神経障害が残ってしまったタクシー運転手から、『今後どうすればいいか』…という難しい相談を受けつつ、辿り着いた彼の地。
『幸運を祈るよ』と、少し多めのチップを手渡し、まずは最上階のフードコートへ駆け上がる。
そこで、『アメリカンサイズ』なジャンクフードに、若干の胸焼けを覚えながらも、いよいよ戦闘開始!!
女性チームと集合時間を取り決めて別れ、ワタクシはI氏と共に、ショップを流し始めた。
すると…歩き始めて20分程経ったころだろうか…なにやらI氏の足取りが覚束ない。
心配になったワタクシが彼に様子を尋ねると…
『あかん…めっちゃ眠い…日本時間の到来や…』
…などと意味不明な事を口走りながら、ふらつく。
その姿はもはや、『酔拳』の使い手たる『鼻デカ香港映画スター』もしくは、スプーンを口に運びながらも睡魔に意識が飛びかかっている『白目な赤子』の如し!!
『わかったよ…じゃあ、この店を見終わったら、少し休憩しよう…』
ワタクシは渋々提案し、再び商品棚へ視線を戻す。
…と、その時、背後にあるはずのI氏の気配が、明らかに消えた!!
振り返る…いない!!
店内を見渡す…いない!!
店を飛び出し辺りを窺う………いたぁ!!
なんとI氏は、巨大ショッピングセンターの広い通路の真ん中に配置されたソファーに、行き倒れよろしく、突っ伏して寝ていたのである!!
いかにココがセレブなショッピングセンターといえど、やはりアメリカ、日本とは違う。
放置して彼にどんな危険が及ぶのか、計り知れない。
慌てて駆け寄り声を掛けると…いかん…呂律が廻っていない…これじゃあ…酔っ払いか、下手すりゃジャンキーとして警備員にしょっぴかれてしまう…。
結局ワタクシは、彼の意識が戻るまで、隣のベンチに座して、機が熟するのを待つ事にした…。
5分経過…10分…15分……一向に目覚める気配がない。
着実に削られていくカリフォルニアン・ショッピングタイム。
しかも困った事が、もう1つ。
ワタクシだって…実は眠いのだ!!
しかし、自分までもが堕ちてしまえば、次に目覚めるのは、間違いなく警備室。
目覚まし代わりに大腿部前面へ拳を叩きつけ、噛み殺したあくびと共に湧き上がる涙越しに、目の前にありながら辿り着けないショップの入口を見つめながらワタクシは、ようやく悟るのである…。
『ジンクスは、破られないからジンクス』なのだと…!!
それから約30時間後。
成田空港到着ロビー。
母国に帰ってきた事で、打って変わってハイテンションになり、自らのスースケースに乗って、『シャーッ!!』っと滑走するI氏の背中を、『ポンッ!!』と下り階段方面へ優しく押してあげそうになる『オサレ殺し屋』の姿が…そこにはあったとかなかったとか…??(笑)
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