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ショー・マスト・ゴー・オン/連載エッセイ vol.120

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「姿勢ッコくらぶ通信 vol.122(2021年・第1号)」掲載(原文ママ)。

『ステージを敢行するアーティストは凄いなぁ…。』

この冬、皆さんのご多分に漏れず、「ステイホーム」を心がけていた私。
内向きになりがちな自分自身のテンションを上げるため、仕事部屋でのデスクワークの合間に、リビングへ抜け出し、棚に並ぶ様々なライブ映像ディスクを再視聴することが多くなった。

その中でも、よく手に取ったのが、10代の頃から愛聴している某アーティストのもの。
沖縄音階を用いた楽曲が、日本のみならず、世界中でカバーされ愛されている……といえば、なんとなく察しがつくであろうか。

彼の音楽を携えた旅の行き先は多岐にわたり、国内では武道館クラスのホールを満席にする動員力を持ちつつ、世界各国……特に非英語圏での活動も盛んで、日本のアーティストがあまり訪れないような国や地域へ赴き、現地を熱狂させている。

しかしながら、様々な文化圏を巡るということは、それなりの苦労もつきもので、急な会場変更や、音響テストなしの本番など、日本国内では考えられないような扱いを受けたり、何故そうなったというような変則的なステージ設定でパフォーマンスを求められたりと、なかなか波乱万丈なシチュエーションが目白押しとなる。

そんな中、彼は『自分の音楽を届けたい』という純粋な初期衝動に根差して、予備知識のない観客を徐々に巻き込み、熱狂を生み出していく……。

いやはや、「プロフェッショナル」である。
まさに、『ステージを敢行するアーティストは凄いなぁ』である。

(ちなみに昨秋、新型コロナ第3波直前の盛岡へ、彼は来てくれた。

『こんな時だからこそ、足を運んで直接言葉を届けたかった』と語る彼は、200名弱という平時の数分の一に満たない観客を相手に、距離を保つためにスカスカという言葉が決して過剰表現ではない会場で、2時間全力でギターと三線を弾き語り、今回唯一のメンバーであるピアニストの旋律に合わせて詩を朗読していった。

嗚呼……格好よし!!)

さて、今回どうしてこんな話題から入ったかというと、例えるのもおこがましいが、私も県内外で講演活動をする際、似たような状況に陥ることがあるからだ。

講演を聞いて下さる方々の層に関しては、正直、幅広く対応する自信はある。
老若男女はもちろん、それらがミックスされていても(例えば、小学校1年生~6年生+教職員+保護者など)、割と平気で「巻き込み盛り上げ型」の講演をしてしまう。

問題は……会場設備&設定である。

この自分ではコントロールできない事象に関しては、これまでも現地に赴いてから慌てることが多少なりともあった。

正直、受け入れてくださる側が、講演開催に慣れていると比較的問題は発生しないのだが、そうでない場合は(事前にこちらから確認メールを送っていたとしても)、ステージおよび客席設定から、音響映像システム調整まで、実に「荒々しい状況」が待ち受けていることがあり、そんな時は、上記のアーティストの心境よろしく、気合で乗り切るのみなのである。

(これまでで一番戸惑ったのは、県外の某団体の研修会の一コマで講演を依頼された際、いざ会場入りすると、ホワイトボードも、プロジェクター&スクリーンもなく、結果、脊柱模型を頭上に掲げ、あとは大げさな身振り手振りで進行するという、怪しげな黒魔術の儀式のような体で乗り切った、あの夏の日の午後である……。)

そして今回、11回目の開催となる「県民の健康を考える講演会」は、どうであったかというと……なかなかの「強敵」であった。

この講演会として初めて使う会場ではあったが、それ自体は毎度のことなので、さほど問題ではなく、姿勢調整師会の皆さんが入念に準備してくれているので心配ない。

案の定、凍結した国道4号線を悲鳴を上げながら走行しつつ、早めに会場入りした時点で、ステージ&客席設定はほぼ完了しており、ピンマイクとPCのチェックを終えたら、あとはステージ裏の楽屋での待機となった。

しかしこの「古き良き楽屋」が……非常に寒かった。

感染症対策のため、全館で扉を開放している関係もあったのだろう。
エアコンの設定温度を最大にしても部屋はなかなか温まらず、取り急ぎ、温風が直撃する場所へ移動する。

するとそのうち、「フゥンン……」と気の抜けた音とともに、何故か温風がストップ!! 
温度計を見ると、なんと15℃アンダー!!

『やばい……このままだと「遭難」する!!』。 

冷え切った身体を捩じらせ、室内を見渡すと、畳敷きの小上がりに年季の入ったガス式暖房機を発見!! 

『爆発したらどうしよう??』と思うより先に、感覚の薄れてきた脚が床を蹴り上げ、ジャンピング元栓開封&スイッチオン!! 

かなりの時間差を経て、ゆるく流れ出してきた温風で、イタリア靴をはぎ取った両足を一心不乱に炙る、悲しげなスーツ姿の四十路の背中がそこにはあった……。

『そろそろ出番です!!』 

誘導係に促され、舞台袖へ歩を進める私の身体は、未だ十分温まってはいなかったが、講演が始まってしまえば「自家発熱」を開始するので、心配ない……。
しかし、ステージに立った私の背中に、冷や汗が伝うこととなる!!

まず……さすが花巻市民の誇る会館の大ホールというだけあって、本番として立つと、ステージが思いのほか広い!! 

舞台上手に置かれてある演台から、下手に置かれてある骨格模型までたどり着くのに、小走りしなければ話のテンポと噛み合わない距離感!! 

しかも模型側からだと、離れた場所から手元でPCを操作する電波が、途切れ途切れに!!

そしてもっと戸惑ったのが、フェイスシールドを付けた状態でライトを浴びると、客席に座る参加者の表情が、反射して読み取れない!! 
加えて、この会場の構造特性なのか、客席側からの拍手や歓声などの「音の返り」が非常に抑制的!!

これは、聞き手の表情やリアクションを観察しつつ、盛り上げのとっかかりを探り、最終的には会場全体をスウィングさせていく講演スタイルを得意とする私にとっては、致命的なことであった……。
そして講演終了後、舞台袖で肩を落とす四十路の姿が……。

嗚呼、自分はまだまだである……。

やっぱり、『ステージを敢行するアーティストは凄いなぁ』……と思わされた、日の長くなり始めた真冬日の夕暮れであった。


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