見出し画像

あれから2年半/連載エッセイ vol.76

※初出:知事認可・岩手県カイロプラクティック協同組合発行、「ほねっこくらぶ通信 vol.78(2013年・第5号)」掲載(原文ママ)。

『じぇじぇじぇ』じゃなくて『じゃじゃじゃ』!!

この夏、全国の岩手県出身者の周辺で、幾度も繰り返されたであろう、この会話。

否定の意思を示す文脈ながら、その言葉を発する者の表情は、不思議と笑顔に包まれていたに違いない。
某公共放送の連続ドラマの舞台に、故郷の地が選ばれた事は、その内容の秀逸さも相まって、久々に全県的な喜びと盛り上がりをみせている。

(ちなみに、1961年に始まったこのドラマシリーズが、その舞台として47都道府県すべて網羅したのが、2009年の80クール目。
その中で、岩手が舞台となったのは、2007年の76クール目であったので、次の『機会』はかなり先になるであろうなぁ…と考えていた者にとっても、このドラマの登場は『嬉しい誤算』であった。)

周囲はもちろん、テレビや雑誌などのマスコミ、インターネット上などでも頻繁に話題に上る中、当のワタクシはというと…残念ながら…視聴していなかった。

…といっても、特段『アンチ(否定派)』というワケではなく、ただ単に仕事のスケジュールの都合上、その為の時間を、コンスタントに割く事ができなかった為である。

ここのスタンスを間違えると、『村八分』になりかねないので…そこんとこ、ヨロシクである。

さて、そんなニヒル的な立場を取っていたワタクシであるが、9月の第1週以降は、極力視聴するようにしていた。

何故か。

それは、番組をご覧になっていた方であれば、お判りになるであろう。
放送最終月である、その9月から、物語の時間軸は、2011年3月11日以降へと移行したからである…。

ドラマの中における『それ以降』の描写について、ここで論じるのは野暮であろう。
そういう作業は、どこぞの『評論家』にお任せしておけばよい。
(ただ個人的には、非常に好感をもって捉えている事だけは付け加えておきたい。)

朝の出勤前、最後の身支度をしながらドラマを鑑賞し、それが終わると玄関を飛び出し、自家用車へ乗り込む前に見上げる雲一つない秋空…。

その『青空』は不思議と、あの日から数日後、買い出しの為に徒歩でようやく開店にこぎつけたスーパーへ向かう途中に見上げた、薄雲が僅かながらに浮かぶ、(それでいて『放射性物質』は少なからず舞っていたであろう)綺麗な春の空を思い出させた。

あの日から、もう2年と半年が経過した。

実の所、私は『あの日』以降、幼い頃から慣れ親しんだ三陸の海に、まだ対面できていない。

いや、『海が怖い』というのでは、勿論ない。『あの日』を境に自分に突き付けられた『問い』を解決するまでは、海へは向かうまい…と勝手に立てた自らの誓いのままにあるだけなのだ…。

使い残しのクリスマスキャンドルの火と、電池が切れかかったラジオだけを頼りに、絶え間なく起こる大規模な余震に怯えながら過ごす夜も2日目に突入する中、不意に灯った蛍光灯とテレビに映された三陸の光景は、想像を絶するものであった。

そしてその後も、ガソリンと灯油が不足する日々が続き、約1週間ばかり引き籠もらざるを得ない日常を続ける中、私が思いを巡らせていた事は、月並みではあるが、『自分は「生かされている」んだ』という『当たり前の事実』についてであった。

自ら経営するクリニックはまずまず順調。
講師として全国を縦横無尽に飛び回る日常。
時として海を飛び越えて世界を巡る出張。

まさに私の生活は『安定』そのもの。なにも不満はない。

しかしながら…『非日常な日常』を突き付けられ、明日へと繋がる生命が必然ではないと気付かされた時…私の脳裏に浮かんだ言葉…それは…『このままでいいのか?』

自分がこの仕事を選んだ意味。
家族や周囲に反対されてまで突き進んだ意味。
この不確かな時代だからこそ自分が生かされている意味…。

『自分はナニをしたいんだっけ??』

それから…自分の中で、ゆっくりとではあるが、明確に腹が据わっていった。

『できるかできないか?』ではなくて『やりたいかやりたくないか?』…もっと言えば、『やるのかやらないのか?』…。

そして…答えは1つ…『やる』だけだった。

そしてそれを達成するまでは、安易な気持ちで三陸に行くまい。
それを達成して、自分の生かされている意味に本心から感謝できた時…海へ向かって頭を垂れに行こう…手を合わせに行こう…。

そんな…現地で日々を懸命に暮らしている方々が聞いたら腹を立てるような自分勝手な誓いを、しかしながらあの時、私は大真面目に立てたのである…。

あの日から、もう2年と半年が経過した。

思ったよりも時間が掛かってしまった。
そしてまだまだ工程の半分までも来ていない。
体制もまだまだ不十分、『見切り発車』もいいとこだ。
しかしながら、間違いなく『新たな一歩』ではある。

この冬…私の生まれ故郷に、新たなクリニックをオープンする。

そうしたら…あまり日を空けないうちに、車を東へ走らせよう。
北上高地を縫って進む凍結した国道を、細心の注意を払って駆け抜けたら、そこは三陸の海。

ブームも一段落して、少し落ち着いた頃であろうか。
その日が待ち遠しい。


☆筆者のプロフィールは、コチラ!!

☆連載エッセイの
 「まとめページ(マガジン)」は、コチラ!!

※「姿勢調整の技術や理論を学んでみたい」
  もしくは
 「姿勢の講演を依頼したい」という方は
  コチラまで
  お気軽にお問合せください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?