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もうひとつの世界【アフリカ旅行記】 | 莉琴

10年くらい前にアフリカのケニアへ旅をした。
首都ナイロビから小さな空港へ行き、プロペラ機で1時間弱移動してホテル近くの空港に着く。
只、そこは空港とはいえ、だだっ広い土の上に線が引かれただけのようなところだった。

ホテルまでジープに乗って20分程ガタゴト揺られて移動するうちに動物たちが姿を見せ始める。
ゾウ、カバ、キリン、シマウマ、ハイエナ、バッファロー、ジャッカル…それぞれの縄張りはあるものの、日本の街中にハトやカラスがいるように「ふつうに」いた。

動物たちが檻も何の制約もなく、誰にも飼われず、歩いて、走って、食事をする姿はカルチャーショックというか、とにかく常識がひっくり返されるような感覚だった。

滞在中はジープに乗って動物を見に行くことが主な過ごし方でメインイベントでもあった。
ケニア人の運転手兼ガイドが無線で連絡を取り合い、動物の目撃情報を共有する。珍しい動物の情報が入れば、すぐさまそこへ向かう。

わたしが一番印象に残っているのは3頭のライオンが大きなカバを捕らえた現場だった。
腹が食い破られ内臓が出ているカバの横で食事を終えたライオンたちがあくびをしながら寝そべっていた。

ガイドから「写真撮らないの?」と尋ねられたが、一眼レフのシャッターを押さえた指は動かなかった。「衝撃的すぎて撮れない…」呟くように答え、ドキュメンタリー映画のワンシーンのような光景をただ眺めていた。

わたしは刺激的な動物ドライブよりも、高台にあるホテルから地平線を眺めている方が好きだった。
都心では、いや日本では見られない360°の地平線と自然の中で生きる動物たち。
ぐるりと地の果てが見える。
遠くでキリンの親子がゆっくりゆっくり歩いている。シマウマの群れが静かに草を食んでいる。
まるでジオラマの中にいるようで、いつまででも眺めていられた。


帰国後、弟にその話をすると「大学の教授が『360°の地平線を見ると人生変わる』って言ってたよ。変わった?」と聞かれた。
人生が変わったかはわからないが、わたしの中にもうひとつの世界を得たことは確かだった。

都心に住んでいるため、家の窓から見える自然といえば空と街路樹くらいだ。けれど、この空はケニアの空につながっている。
あの空の下ではゾウの親子が仲よく道を横切っていた。カバの群れが豪快に水浴びをしていた。
そんなゆったりとした時間が流れていた。
思いを馳せれば自然と呼吸が深くなり、こころがどっしりと落ち着きを取り戻す。

自分の日常だけが世界じゃない。
仕事で締切や目標に追われたり、電車に乗るために走ったり、せわしなく暮らしていても同じ瞬間にまったく別の世界が確かに存在している。
その確かさにわたしは支えられている。

目を留めてくださり、ありがとうございます。 いただいたお気持ちから、自分たちを顧みることができ、とても励みになります! また、皆さまに還元できますよう日々に向き合ってまいります。