中嶋宏行

美術家。千葉県出身。書の特徴である「身体性」や「自然性」「一回性」に根差し、30代から…

中嶋宏行

美術家。千葉県出身。書の特徴である「身体性」や「自然性」「一回性」に根差し、30代から現代アートの制作を続けています。制作への思いだけでなく、日々の暮らしで感じた覚え書きも記していけたらと思っています。 https://www.nakajimahiroyuki.com/

最近の記事

ウェブサイト 「二元論を超えて」

6歳から書を学びはじめた。数十年が経ち、自在に筆を操れるようになった。思うように書けるようになった時、転機が訪れた。 古くなった墨をそうとは知らずに使ったら、墨が見る間に広がって未知の滲みが現れた。特大の紙を床に敷き全身で大筆を振るったら、そこに思いがけない線とかたちが出来ていた。巧みな手技は目論見どおりの100点をもたらしてくれる。だが偶然の介入は思惑を超えた120点を生むことを知った。水面下にある氷山のような、未だ見ぬ自分を探ることが出来た。 この経験から「自然」と「

    • 金も炭素も大地に還るべき時が来ている。

      地球の化石人間は大地に眠る金を掘り続けてきた。 大地が蓄えた炭素を燃やし続けてきた。 掘り出された金は貨幣となり、富を象徴する存在となった。 燃やされた炭素は産業のエネルギーになり、地球温暖化を引き起こした。 2023年、貧富の格差は極まり、地球の平均気温は最も高い年となる。 金も炭素も大地に還るべき時が来ている。 ”Fossils of the earth” Humans have continued to dig up gold that sleeps i

      • ドキュメンタリーフィルム 『文字の化石』 が出来上がりました。

        2023年10月、イタリア・ミラノで開催した個展/パフォーマンス『文字の化石』がドキュメンタリーフィルムになりました。ぜひご覧ください。 『文字の化石』 ディレクター/エディター:マーティン クーパー フォトグラファー:エイドリアン ストレイ パフォーマンス パフォーマンスのテーマは「永遠」です。螺旋をモチーフにしたのは、それが示唆に富むかたち、つまり生と死、そして再生を象徴しているからです。加えてそこに自らの足跡を残し、我々はどこから来てどこへ行こうとしているのか

        • 書の特質としての 「身体性」、「時間性」、「自然性」

          日本語訳 https://www.nakajimahiroyuki.net/translation/  書の特質とはどのようなものだろうか?
書には「造形」と「意味」があると言われる。「造形」とは作品にみられる布置や形、線質のこと。西洋美学の井島勉によれば「書は文字の美術、造形芸術の一ジャンル」であり、また書家の鮫島看山は「書は線の美、文字という素材を借りて表現する線の芸術だ」と言った。書は文字を使った造形表現であるという考え方である。  では、「意味」の方はどうか。書は文

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          個展 『文字の化石』 がミラノで始まりました。

          初めて筆と紙を一切使わずに制作した作品展。 グラスに入れた墨をキャンバスに解き放つのみ。 自然と偶然の力をもっともっと作品の中に呼び込みたかった。 奇しくも共同制作者となった小さな虫の助けを借りて。 キャンバスは何かを描く画面ではなく、アクションの舞台でもない。 そこは自然現象を喚起する場となる。 いつも何か新しいものに向かって前進していきたい。 「文字の化石/Fossil Characters」 10月9日---10月16日 Palazzina dei Bagni Mis

          個展 『文字の化石』 がミラノで始まりました。

          僕もあと何回、満月を見るのだろう。

          先週は中秋の名月だった。久しぶりに満月を見た。 坂本龍一さんの絶筆となった本には『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』というタイトルが付けられている。これは彼が音楽を担当した映画 The Sheltering Sky のエンディングで語られる原作者 Paul Bowles の言葉だ。 『自分が何時死ぬかを知らないから、私たちは人生を枯れることのない井戸のように考えるようになる。しかしながら、何事もできる回数は有限であり、実際のところ、その回数はとても小さいものだ。幼い頃の昼

          僕もあと何回、満月を見るのだろう。

          世界の紙に書かれた「生」の一字、100人いればそこに100通りの「生」がある。

          5秒に1人、世界の子どもたちが飢餓で命を落としている。元気に目覚め、平和な朝を迎えて思う。この当然のような日常は、実は本当にかけがえのないものなのだと。2009年、鎮魂の祈りと生への感謝を込めて5秒に1枚ずつ、計100枚の紙に「生」の一字を書くチャリティーのパフォーマンスをはじめた。そんな中、ある日のアトリエでのこと。壁一面に貼られた「生」の一枚一枚がエアコンの風にゆらゆらと動く。その景色をじっと眺めていたら文字が誰かの顔や姿に見えてきた。その瞬間、「多様性」という主題を作品

          世界の紙に書かれた「生」の一字、100人いればそこに100通りの「生」がある。

          Short movie: NAKAJIMA HIROYUKI ARTWORKS

          さっきから盛んに何か言われているのだが、さっぱり分からない。 その時僕は、観光客で賑わうローマのスペイン広場から程近いギャラリーにいた。 ここは現代アートの老舗画廊、Studio Soligo。 イタリア流の身振り手振りでも伝わらず、向こうもとうとうお手上げ状態に。 翌日、僕をここに紹介してくれた桜田裕子さんとともに再訪する。 あらためて話を聞いてビックリ、来年ここで僕の個展をやろうと言われていたのだ。 天にも昇る心地だった。 1999年10月、すべてはローマか

          Short movie: NAKAJIMA HIROYUKI ARTWORKS

          脱構築によって生まれたシリーズ 「身体の声を聴く」

          二項対立と脱構築 二項対立、そこには相反する二つの概念が存在します。善と悪、富と貧、白と黒、男と女、光と闇、生と死など、二つが互いに対立している状態を示す論理が二項対立。脱構築はこの二項対立の矛盾を突いてその権威を弱体化させます。二項対立には前項が後項より優位にあるという階層関係がひそんでいて、これが時にレイシズムやジェンダーバイアスの温床になってきました。しかし、そもそも後項がなければ前項は存在できません。脱構築は二項対立という既存の体系に揺さぶりをかけ、この階層関係を上

          脱構築によって生まれたシリーズ 「身体の声を聴く」

          気候変動で、この50年に野生生物が3分の1以下に激減

          今が最後のチャンス 気候変動などの影響を受けて絶滅の危機に瀕している野生生物は増え続け、生物多様性の危機は一層深刻になっている。この50年間で動物の個体数が平均して70%近く減少していることが明らかになった。(世界自然保護基金・WWFの報告 2022年10月) 地球の全人口はこの半世紀で40億人以上増加したが、この間、野生生物は3分の1以下に激減したことになる。多くの科学者は恐竜の時代以来、私たちは地球上で最も多くの動植物が失われている時代を生きていると訴えている。報告書は

          気候変動で、この50年に野生生物が3分の1以下に激減

          不測の画材、墨。 画面は自然現象を喚起する場となる。

          自然の作用と寄り添う 墨と水が出会うと魔物に変わる。にじみやたまりは変幻自在で決して思い通りにはいかない。だからこそ飽きない。我を出し過ぎてはいけない。自分の仕事は半分まで、後の半分は素材がもつ自然の力にゆだねる。筆を置いた瞬間が完成の時ではない。素材に宿る自然の力を借りて作品を仕上げていく。 筆を置くと、墨は私の手を離れて紙の上をゆっくりと滲みはじめ、やがて乾いてぼかしを残します。これは不測の現象です。でも、だからといって抑え込むようなことはしません。技術は自然を制御し

          不測の画材、墨。 画面は自然現象を喚起する場となる。

          「書」は凍ったアクション。 佳作は手足からふと生まれる。

          120点の佳作、それは手足からふと生まれるもの 画家の多くは立て掛けたキャンバスと相対しますが、私は紙を床に敷き裸足でその上に立ちます。画面に向き合うのではなく、画面の中に自ら入り込み、手足を使ってアクションの軌跡を紙にしるします。こうすると頭よりむしろ身体が強く介在するので、思惑を超えた何かが起きることがあります。確かに自分が書いたのだがどうもその実感がない、でもよく見ると凄くいい、そんな感覚です。事前に青写真があると、どんなに出来が良くても結果は100点止まり。でも予期

          「書」は凍ったアクション。 佳作は手足からふと生まれる。

          1000の「生」が集まって一羽の蝶になる。

          パンデミック宣言の後、4年ぶりに花火を見に行きました。久しぶりの花火はすっかりカラフルで豪華に。でもやっぱり黒色火薬のシンプルな色合いに惹かれます。夜空に花を咲かせる艶やかさ、パッと開いて一瞬で消える儚さ。どちらも花火の魅力だと思うけれど、僕は後者を取りたい。画像は、かつて花火から着想を得て製作したシリーズ「蝶」の一点。 「蝶」 「生」の一字はどこかの誰か 「生 」の群れは蠢(うごめ)く社会 蝶は生涯の最後に美しい姿を見せる After the declaration o

          1000の「生」が集まって一羽の蝶になる。

          いろいろな人がいて、世界が出来ている。

          世界各地の紙に書かれた文字は「生」の一字 世界は今を生きるいろいろな人で成り立っている ちょうど4年前の今日、香港で「生/LIFE 」展がはじまりました。「いろいろな人がいて世界が出来ている」という思いから、小さな紙に「生」の字をたくさん書いてみたいと漠然と考えていた。手元の画仙紙に書いているうちに他の紙も試したくなる。そうだ、世界の紙を使ってみよう。ネットで海外の紙を物色しているといろいろな画材が目に入って来る。墨にこだわらずアクリルや染料、木炭、パステルでも書くことにな

          いろいろな人がいて、世界が出来ている。

          他国の戦争でミサイルや弾薬が売れる、それでも経済は成長する。--私たちの矛盾 2--

          私たちの矛盾 2Contradictions in our life 2 水や空気が汚れ、浄水器や空気清浄器が売れる、 犯罪が増え、防犯カメラが売れる、 温暖化が進み、エアコンが売れる、 他国の戦争でミサイルや弾薬が売れる、 それでも経済は成長する。 An economy can grow, even if water and air are polluted, leading to the sale of water/air purifiers, even if cri

          他国の戦争でミサイルや弾薬が売れる、それでも経済は成長する。--私たちの矛盾 2--

          ウィトゲンシュタインは言語の限界が世界の限界だと言った。

          かつてウィトゲンシュタインは「言語の限界が世界の限界だ」と言った。私たちは言語によってものを考える以上、 その思考は言語によって制約される。言語の限界が認識の限界となる。 日本語と英語の違い 海外でワークショップをする時、「腰を落として」とか「腰を使って」とか、説明の中で「腰」という言葉を頻繁に使う。だが日本語の「腰」にぴたりと当てはまる英語が見当たらない。”waist” や “hip” ではピタリと来ない。 "back" は腰を含めた背中全体を指すのでこれもいま一つ。総

          ウィトゲンシュタインは言語の限界が世界の限界だと言った。