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ナンバー2人物史 既得権益者と戦う/信念を貫く組織改革のリーダー 王安石

王安石(おうあんせき、1021年 - 1086年)は、中国の北宋時代に活躍した政治家であり、当時の財政再建の立役者と言われています。王安石がとった政策とそれに対する既得権益者との争いは現代の組織運営にもそのまま当てはまる示唆に溢れています。※王安石の主なプロフィールはこちらを参照

■生い立ち
王安石は官僚の父を持ち、幼少の頃から学問を好み、一度読んだ書物の内容は終身忘れないという驚異的な記憶力があったと言われています。

16歳で官僚の父に付き従い、まず都の開封へ、その後父の転勤とともに別の地に移ります。19歳の時に父が没し、22歳で科挙(人材登用試験)に成績優秀者上位4位で合格するなど若くして才能の片鱗を見せていました。

■地方官僚として力を蓄え、実績を積む
王安石が官僚となった時、宋王朝は第4代仁宗(じんそう)の時代。宋の建国から80年ほど経過した頃にあたります。当時の王朝の課題は官僚と軍隊を維持するための莫大な費用。

そして、北の遼、西の西夏という異民族からの侵攻を防衛するために、和議を結び、多くの献上品を提供し関係維持を図りながらも、同時に防衛体制を取る必要。この二つの事情が財政を圧迫していました。

科挙で優秀な成績を修めた者は、地方で3年ほど官吏見習いとして赴任し、その後中央に戻り、特別な試験を受けて中央の官僚として出世の道を歩むのが通例でしたが、王安石はそのまま16年間もの間、地方巡りを続けました。父親を早くに亡くし、家族を養うために中央での官職よりも俸禄の多い地方官僚であり続けたのがその理由と言われています。

けれども、長年の地方勤務の結果、中央にいるよりも民間の生活に接することが多く、後述する政策の構想に大いに役立った側面もありました。

■中央官僚として抜擢
さて、北宋の皇帝の座は若干20歳の6代神宗(しんそう)に移り、積年の課題であった財政再建に取り組み始めるにあたり、地方官僚として実績を挙げた王安石の能力を高く評価し、側近として抜擢しました。

はじめ王安石は皇帝の勅命を書く役目を与えられ、皇帝との政治問答などの相手を務めるようになり、抜擢から2年を経て参知政事(副首相)を拝命、のちに宰相にまでなります。

■財政再建のための改革、新法
王安石が財政再建のために打ち立てた政策は新法と呼ばれますが、広範かつ多岐に渡り、その徹底ぶりは財政再建の域を超えて社会改革まで踏み込んだものと評されます。

新法は政界の元老、諸先輩などから猛反対を受けますが、王安石はそうした反対意見に屈することなく、次々に新法を実行していきます。

新法の主な内容
1.青苗法(せいびょうほう)
農民に低利で耕作資金を貸し付ける制度。大地主から高利で資金貸付を受けていた農民の窮状を救済することが目的。
2.募役法(ぼえきほう)
富農、中農層に対する保護育成対策。彼らに課してきた無償の課役の負担を免責する代わりに免役銭を徴収し、農作業に専念してもらうことが目的。
3.保甲法(ほこうほう)
農村に自治組織を作り、治安維持を図るとともに、農閑期に軍事訓練を行うことで兵農一体の民兵化を図ることが目的。
4.均輸法(きんゆほう)
中央で必要とする物資を調達する際の輸送面での合理化を図り、大商人が商品価格を操作し暴利を貪ることを防ぐ目的。
5.市易法(しえきほう)
小商人に低利での資金を貸し付ける制度。大商人による高利での貸付による収奪を防ぎ、商業活動の活性化を図る目的。

要点をまとめると、王安石の新法の目的は農村では大地主の、商業では大商人による収奪を防ぎ、小規模の農民、商人からの税収を確実に増やし、貸付による利益や免役銭を国庫収入の一部として確保し、収入の道を増やすことでした。

新法が施行されると国家財政は瞬く間に黒字に転換し、財政再建を達成することができました。

■既得権益を奪われた者たちによる反対
ところが、この政策を面白く思わない存在がいます。高利での貸付を行い、暴利を貪っていた大地主や大商人たちです。

また、中央の高級官僚の出身母体の多くは農村の大地主階級であり、大商人たちはその資金力にものをいわせて高級官僚たちと結びついて賄賂を提供していましたから、官僚たちも自分たちの既得権益を王安石の新法によって奪われる結果となり、高級官僚、大地主や大商人たちがこぞってこの財政再建策に反対するようになった訳です。

そんな反対派が多いなか、王安石が批判にめげずに邁進できたのも国家安定という自らの強い信念とトップである皇帝神宗が新法の良き理解者であったことがこの財政再建を推進できた大きな要因でした。

しかしながら、成果を収めたこの新法も決して長続きしませんでした。改革達成後に王安石が宰相を辞任し、10年後に神宗が崩御すると、反対派が国政の中枢に返り咲き、新法は次々と廃止されることになってしまいます。

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■組織改革には抵抗勢力が必ず立ちふさがる
王安石とその財政再建という組織改革について紹介してみましたが、どんな感想をお持ちになられたでしょうか。いつの時代にも改革には既得権益を守るための抵抗勢力との摩擦があることを実感されたと思います。

会社の課題を解決しようと思ってみても、意外なところから抵抗される場合が少なくありません。

・慣れ親しんだ手間のかかる既存のやり方を新しいやり方に変える
・曖昧な管理職の役割や責任を明確にし、本来期待される役割を遂行させる
・明らかに無駄な経費を削減する
・従来の評価制度を新しい制度に作り変える
・会議のやり方を変える
・経営理念の浸透を図る
・顧客向けサービスを見直す、作る

こうした取り組みをするリーダーは、なかなか成果を上げられなくて悩まれることも多いと思います。

改革を推進する立場であれば、組織を良くする目的で行うことでも、面倒くさい、興味がない、自分には関係ない、それをやったところで何の意味があるの?とさまざまな理由で抵抗される場合があります。

改革に協力しない理由というのは人それぞれですが、会社の中にも大なり小なりの既得権益が実はあります。

従来のやり方でベテランスタッフや役職などのポジションを維持してきた利益、ふんだんに使えた交際費、新しい知識や技術を身につける負担から免れる利益、新たな責任を負わない利益と考えてみると案外利益といえるものがあります。

また、改革の内容そのものではなく、それを推進する人間への個人的な好き嫌いの感情で抵抗する場合もあるでしょう。

私自身ナンバー2として従事していた頃は、何かを改める、新しいことに取り組む場合に抵抗を受けた経験は数知れずあります。首尾よく成果を出すだけでなく、頓挫し、成果を出せなかったことも、社長から梯子を外されることもありました。

本稿の王安石のエピソードがリーダーの立場にある方にとって学べる点は以下のような点にあると思います。

・論理的に正しいだけでは人は協力してくれない
・価値観は人それぞれ異なる
・人は易きに流されやすい
・目標達成のためには信念を曲げたり、迎合や妥協を簡単にしない
・良薬は口に苦し
・非情に徹する時もある

実際、王安石も理想主義的で融通が利かないと後世の評価のひとつに含まれています。

人の数だけ、欲や感情がある。リーダーはこの根本を忘れずに組織運営を慎重に、時に大胆に、行う必要がありますし、特に大きな改革に取り組む時には解像度が高い将来像を見せないと人はついてこないと思います。

できれば、全ての利害関係者がハッピーになる絵を描きたいものですね。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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